本作『Layers of Fear』は、2023年6月16日配信のホラーゲーム。本作と同名の旧作の『Layers of Fear』(Steamストアページでは『Layers of Fear (2016)』)と、続編である『Layers of Fear 2-恐怖のクルーズ』の内容を収録しつつ、新たなストーリーを加えることで“ただのリマスターではない、完全なる新作”として蘇った一作だ。
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ホラー好きの筆者は俄然気になってしまった。恐怖大好きなのにホラーゲームは苦手という性質なのだが、それでもプレイを止められなくなる力があった。プレイレポートを通して、『Layers of Fear』ならではの魅力を伝えたい。
ホラーゲームなればこそ。一人称視点で強く感じる“他人事”ではない恐怖
本作は基本的に一人称視点でゲームが進む。そして、やや特殊な操作性が影響してか、プレイしているうちに主人公=自分という意識がしみ込んでくる。たとえばドアの開閉。一度ドアノブをつかみ、押したり引いたりする動作をプレイヤー側で入力するのだ。
動作がワンボタンで解決せず、主人公と同じ(ような)動きをすることで、より強く自己投影してしまう。これにより、プレイヤーに対してゲーム内の恐怖がより鮮明に伝わってくる。
キーボードとマウスでの操作だと、ドラッグ&ドロップで扉を開けることになる。現実での操作とゲーム内での動きがリンクするので、余計に“自分の動作”としての実感がわく。
ちょっとでも恐ろしい現象が起きようものなら、「ここにいてはマズい」と即座に体が警鐘を鳴らす。画面内で起きる怪現象がまったく他人事には感じられないのだ。
ホラーゲームには、自分で操作しなければならないからこその恐怖がある。小説や映画で感じるものとはひと味違う、ある種の直接的な恐怖だ。本作ではそれを視点と操作感の工夫でより克明に感じさせてくれる。
突然現れる人形に、思わず背筋が凍る。
一人称視点なので、どうしても視野が狭くなるのも恐ろしい。とくに怖いのが“いまさっき歩いてきた道が振り返ったらなくなっている”というギミックである。これがけっこう精神的にキツい。
ホラーゲームでひとつの道に誘導されるということは、「進んだ先で怖いことが待ってますよ」と言われているのと同義である。自らギロチンの下に首を差し出すような、そんな一方通行の恐怖にさらされながら歩くのは、正直泣きそうになるほど恐ろしかった。
振り向いたら道がない(左)。絶対に行きたくない。でも行かなきゃならない。退路はすでに消えているから。
雰囲気作りが一級品。丁寧さのなかに蠢く恐ろしさの基礎
もちろん、本作の恐ろしさは視点や操作性だけで表されるものではない。あらゆるものがリアルに表現された実写さながらなグラフィック。つねにプレイヤーに不安感を与え、心をぞわりとなでるBGM。それらすべてが一体となり、極上の恐怖を演出する。
身も蓋もない言い方をすれば、“すごく雰囲気が怖い”ということだ。
雷鳴で照らされる室内。光の演出が、どこか神秘的ですらある。
とくにその雰囲気を感じられるのが、本編では比較的すぐ遊ぶことになるであろうチャプター“画家の物語”における洋館だ。
屋敷の中は絵画などの美術品で満たされており、それらが醸し出す雰囲気は正に異様。長らく手入れがされていないのか、館のところどころは荒れており、豪華でありながらもどこか退廃的なイメージがつきまとう。
赤子の顔をした男性が描かれている絵画。アンバランスさが酷く恐ろしく、見ていて不安になる。
本チャプターでは“電灯”と“炎”がキーになることもあり、それぞれの光源がしっかりと描き分けられているのも印象的だった。
さらにそんな恐怖を倍増させるのが、ジャンプスケア。いわゆる唐突なビックリ演出だ。
本作は(あくまで筆者の体感ではあるが)そこまでジャンプスケアが多いというわけではない。ただし、差し込んでくるタイミングがとにかく絶妙だ。加えて、気になるオブジェクトが目に入るたびに「何かあるかも……」と意識を奪われるのも心臓に悪い。
ホラー作品で電話が映ると、「あ、鳴るな」と反射的に考えてしまう。
ドアを開けたところで……! なんていうのはお約束だが、結局そういうのがいちばん効くのである。
高い技術力によるグラフィックと、こちらの不安をかきたてるBGM。そして絶妙なタイミングのジャンプスケア。筆者はこの3つにあてられて、つねにビクビクしながらプレイすることになった。並べ立ててみればふつうのことかもしれないが、そういった基礎的な部分が高いレベルでまとまっているからこそ、『Layers of Fear』はプレイヤーに格別の恐怖を与えてくるのだろう。
暗い。絶海。逃げ道がない。灯台の雰囲気が怖すぎる
ひとつ個人的に言及しておきたいのが、最初にプレイするチャプター“作家の物語・The Writer”における舞台、灯台の恐ろしさだ。
ここでは先ほど紹介した洋館とはまた違った恐怖――暗い、狭い、出られないといった“生物として根源的な忌避感”を味わうことになる。“自分には何もできない”という意識は、それだけで人の内面にささくれをもたらす。
切れかけの電灯。きしむ廊下。けたたましい音を上げながら稼働する発電機……もうすべてが恐ろしい。しかも周囲建物内にはいたるところにネズミが蔓延っており、とても人が住めるような環境ではないように思える。
灯台の中があまりにも暗すぎる。生活スペースはあるみたいだけど……。
地下へと続く階段。"下へ向かう"という行為もなんとなくゲンが悪そうだし行きたくない。
うなりを上げる発電機。もしこいつが動かなくなったら……なんて嫌な考えが頭をよぎる。
要するに、完全に外と切り離されている、という状況。とても嫌だ。灯台は切り立った崖の上に建っており、さらに外では風が吹き荒れている。どうあがいてもここにいるしかない、という閉塞感が精神をすり減らしていく。
一応、最初のチャプターでは怪奇現象が発生することはない。それでも、ただ “この灯台がなんとなく変で怖い”という、一点のみでこちらを圧倒してくる。先程上げた閉塞感もあり、正直筆者としては、ほかのチャプターに比べてもダントツで怖いと思った。
断片からストーリーを読み解く快感に虜。恐怖を超える好奇心。
そもそも、なんで作家の物語の主人公は灯台にいるのだろうか? 潮風にあたり続けると体に悪いと言うし、交通の便だって悪いだろうに。
本作における多くのチャプターは、そんな“傍から見たら明らかに異常”な状態からスタートする。しかも主人公はそれを受け入れているようで、プレイヤーに1から10まで事情を説明してくれることもない。
風できしむ窓の音も相まって恐怖が倍増。狭いし暗いところは怖いのである。
ならば本作にストーリーはないのか? と聞かれれば、まったくもってそんなことはない。直接の説明はされないながらも、探索することで見つかるアイテムやテキストを読んでいくことで、断片的に“いま、何が起きているのか”という情報が集まっていくのだ。
情報を集め、“この人はどういった人物なのか”や“なんでこんな状況になっているのか”を推測する。これはゲームの恐怖を忘れてしまうほどにおもしろい体験だった。
こんな絵を描く人物はどういう精神構造の持ち主なのか。なんてことを考えながら進めていくのがとにかく楽しい。新たな事実を知りたくてずんずんと進めてしまう。
恐ろしい雰囲気をまとった本作だからこそ、この世界の元凶は何なのかが知りたくなる。没入感が高いからこそ、いま操作している人物のことを知りたくなる。
この怖い世界を進むために、“何が起こっているのかを調べる”という行為は、モチベーションとして大いに機能した。もちろん怖いことは怖いのだが、最終的には好奇心が勝り、ビクビクしながらもプレイする手が止まらなくなる。
プレイヤーに見せる情報の出し方もうまい。疑問を解消したらまた新たな疑問が、なんてことをされるとやめどきを見失ってしまう。
『Layers of Fear』から逃れられない! 手の止まらない恐怖体験をぜひ
本作は、筆者がプレイした中では間違いなくいちばん恐ろしいゲームだった。グラフィックもさることながら、演出や操作感など、どれをとっても“最恐”と呼ぶにふさわしいと思える。それだけの怖さがたしかにあった。
顔がねじ曲がった不気味な絵画。見ているだけでゾワッとしてしまう。
しかし、何よりも恐ろしかったのは、そんな怖さを感じる中でも「このゲーム、やめられない!」と思ってしまったことかもしれない。もちろん、恐怖によってノックアウトされることもあるものの、やはりどうしても展開が気になってしまい、またこの恐ろしい世界に戻ってきてしまう。
まるで目の前に最高級のエサを吊り下げられた馬のような気分だ。目の前に奈落があったとしても、喜んで突進していくに違いない。
テキストに読み応えがあるのも素晴らしい。上の画像はプロポーズの文句を思い出しているものなのだが、言っていることがキザでかっこよすぎる。
本作はマルチエンディングとなっており、探索度合いや物語の進行ルートによって結末が変わる。もし気になった方は、ぜひともプレイしてあなただけの結末を見届けてほしい。
そろそろ暑さも本格化してきた今日この頃。『Layers of Fear』で肝から冷やしてみるのはどうだろうか。
...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202306/18306525.html