みんなの「職場」を作りたい──元祖VRアイドル「えのぐ」が語る、リアルライブシリーズ・VRide!への情熱
2023年7月18日 12:00 VTuber
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7月23日よりスタートする「VRide!」は、鈴木あんずさん、白藤環さん、日向奈央さんが所属する3人組のVRアイドル「えのぐ」がプロデュースする音楽ライブシリーズだ。先行抽選に続いて15日の10時より一般チケットも販売し、すべての人が購入できる状況になった(チケット販売ページ)。
VTuberの始祖であるキズナアイが活動を始めたのが2016年12月。「えのぐ」は、その翌年である2017年夏より「VRアイドル」をうたって現メンバーが活動を続けている息の長いグループで、元祖バーチャルアイドルともいうべき存在になる。
そしてVRide!は、6年目の今になって初めて自分たちでライブをプロデュースするという新たな挑戦だ。テーマとして「全てのバーチャルアーティストが平等に輝ける”ステージ”を!」を掲げているが、はたしてどんな思いを込めたのか。
その意図を確かめるべくメンバー3人に話を聞いたところ、彼女たちがライブに対してとんでもなくアツい情熱を抱えていることが伝わってきた。人は得てして時間が経つと惰性で物事を済ませがちになるところ、6年経ってもバーチャルのライブエンターテインメントを最前線で変えていきたいという真摯で強い意志を抱えていることをインタビューで実感した。
新しいバーチャルアイドルが出てこないことへの危機感
──VRide!は、今年3月に実施したバーチャルアイドルのライブフェス「Life Like a Live!5」(えるすりー5)にて、あんずさんがMCで発言したバーチャルアイドルへの思いに端を発していると感じます。
#えるすりー5 のMCでみなさんにお伝えしたかったこと。言葉を整理して、今日の生放送でお話しさせていただきました。文字起こししたので、よかったら読んでください!#えのぐ pic.twitter.com/9x1kYXVxBF 鈴木あんず Anzu Suzuki(えのぐ) (@anzu15_225) March 20, 2023
あんず(敬称略、以下同) 確かにこのライブイベントをつくろうというきっかけになったのは、えるすりー5のときに語ったことがきっかけだったりします。
ファンのみなさんの声を聞いたり、いろいろな状況を見て、「このままじゃいかん」「今回みたいなライブイベントがもっと増えてほしい」と思っていて、その土台じゃないですが、まずは私たちから始めて、いろいろなところに真似してもらえて、ひとつの時代や文化として成り立ったたらいいなということで計画しました。生放送でアンケートも取ったり……。
──ファンも巻き込んでのVRide!立ち上げだったんですね。
あんず そうですね。普段から私たちが考えていることを発信させていただいていたので、改めてみんなの意見も聞きたかった。そこでアンケートを取って3月27日の放送でVRide!の構想について詳しく話させていただきました。
──一方で、えるすりー5における発言に反発する声もありました。個人的にはメッセージに共感したので、意外だったのですが……。
あんず あっ、そうなんですか。なんか反対じゃないけど、反発の意見も少しはあるかなと思いました。ちょっと違う伝わり方をしていたりしたので……。でももっと厳しい意見があると思っていたので、「なるほど、そうだね、そうだよね」って声があったほうが意外でした。
──もっと反発されると思っていた?
あんず もっといろいろな意見が飛び交うかなと思っていました。
──改めてえのぐさんとしてバーチャルアイドルの現状をどう捉えているのか教えてください。
あんず そうですね……。VTuberさんに比べたら、まず 新しくバーチャルアイドルを始める方っていうのが少ないんかなって。循環というか、新しい方の突き上げがあって、ベテランも負けないようにがんばって……。世代交代みたいな、環境が変わっていかないと煮詰まっちゃうのかなと思っていて。今のバーチャルアイドル界隈って、まさにその状態なのかなと思っています。
でも、バーチャルアイドルは参入のハードルが高いんです。ワンマンライブをやるにしても、オリジナル曲がいくつかあって、振り付けも用意してみたいな、始めるための準備が大変で、小さくスタートするのがやりにくいのかなと思います。
だから、まずは小さく始めて、軌道に乗ったら活動領域を広げていけるような環境が必要なんです。規模が小さいうちからでも出演できるライブが複数ある状況だとやっぱり始めやすいのかなというのは考えています。
──一方でこの2年は、新型コロナの感染拡大防止でイベント自体が開催できなかった影響も非常に大きいと思います。Vシンガーさんも同様ですが、なんというかファンになってもらう機会を逃してしまったという。
あんず あの時期にデビューした人たちは、本当に大変で、出られたはずのイベントもなくなっていたりしましたから……。
環 うちらも結構苦戦したね、何していいかわからないみたいな。
あんず リアルライブ、全然できないみたいな。リアルイベントも、今までやってたことが全然できなくなっちゃったから、そもそもエンタメ業界自体が大打撃を受けました。
「ステージの興奮を一度味わったらやめられない」
──そんな逆風の中でも、ここ3年ほどはえのぐさんがリアルライブを増やしていっている実感がありました。なんというか以前に比べてハマっていっているというか、方針を転換するきっかけみたいなのはあったのでしょうか?
環 そうですね。私たちがめっちゃリアルライブやり始めたのが2020年で、それまでもオンラインとかでやってきましたが、リアルでやってみたらめっちゃ楽しくて(笑)
──楽しかった!(笑)
環 普通に楽しかったというのもありました。お客さんを間近に感じられるし、目の前の反応もすぐにわかるし、すごい楽しかったっていうのもあります。その、「アイドルっていいな」って思ったのは、リアルライブをいっぱい経験して、いろんなアイドルさんと一緒に同じステージに立って、同じ空気を感じて、そこで元々アイドルっていうものが好きだったけど、より一層好きになったっていうのもあったし。そこと戦っていくの、めっちゃ楽しいなっていうのも
奈央 同時にリアルの難しさ、リアル現場での難しさっていうのも知りました。始めたころは経験がなくて、どうやったらみんなが盛り上がるのかとかが手探りで、それがようやくわかってき始めたのが2022年にやったライブ50公演の半分ぐらいからでだったんです。「あ、こうしたら初めての方も盛り上がってくれるんだ」みたいな、「これか!」みたいな、リアルアイドルさんのパフォーマンスを共演する機会があったから、みんなと一緒にいいライブをつくる方法を学ばせていただいた。
環 「ステージの上に立ってパフォーマンスしたときの興奮を1回味わったらやめられない」みたいなことを言うアイドルさんって結構いると思うんですが、それを体感したっていう感じはあります。
──バーチャルタレントでも、現場のお客さんの反応でステージに立っているのを実感されるんですね。
環 オンラインでも、生放送のコメントとかで盛り上がってくれてるのはわかるし、終わった後にTwitterとかでみんなの感想を見て楽しんでくれたことは伝わってきて、後から「あれよかったなー」と思うんですけど、リアルライブは、その自分が発した言葉や自分が踊ったパフォーマンスが一瞬でのお客さんの反応として返ってくるのが、もう「これだ!」みたいな(笑)。
──逆にライブを中心にしたからこそ、バーチャルで辛いみたいな話はありますか?
環 私たち2019年にTIFのステージに立たせていただいたときに、TIFってリアルアイドルの祭典、夢の舞台みたいな感じで、出演者でバーチャルアイドルって私たちしかいなかったんです。だから、お客さんが本当に「えのぐ」のことなんて知らない人ばっかりで、そこで改めてお客さんの反応がダイレクトですごかった。
奈央 えのぐみさんが、全体のうちの0.5割もいなかった。
──完全アウェーじゃないですか!
環 私たちは生でパフォーマンスしてたんですけど、「やっぱり録画なの?」とか「映像じゃないの?」みたいな反応でした。今でもそう言う経験はまだ全然あるので悔しいところですね。
──とはいえ、長年取材してきて思いますが、「えのぐ」さんのステージはリアルやバーチャル関係なくパッションが伝わってくる部分があります。ライブの現場を重ねていく中で、自分たちでも成長を感じる瞬間ってあったりするのでしょうか?
環 本当にライブステージ立つごとに、お客さんの反応を見て成長していってる感じがあります。
あんず 好評なものは、「あ、これよかったんだ、またやろう」みたいな。「あ、これイマイチだったんだ」っていう経験もたくさんありました。
環 パフォーマンスも、見た目が上手いだけじゃやっぱりパッションというか、気持ちが伝わらないところもあって、どうやって熱を乗せて伝えるかみたいなのはめちゃくちゃ考えますね。
奈央 TIFなどでは、汗をかいたり、がんばっている表情が好きだから、リアルの現場でアイドルを推してますみたいなファンの方もいらっしゃったりして。
環 これをバーチャルタレントでカバーするためには、どうやってパフォーマンスしたらいいんだみたいな。
奈央 もう全力しかない。自分たちがぶつけないことには、みんなもぶつけられないですよね。
それだけで食べていける「職業」にしなければいけない
──そんな経験を積み重ねた先にある「VRide!」ですが、改めて目指すところをお聞かせください。
環 最初にバーチャルアイドルの現状みたいな話をしたと思うんですけど、今ってバーチャルアイドルやVシンガー、VTuberみたいな活動をしている人って、それだけで食べていけている人は多分、そんなに多くない。「職業なんですか?」って聞かれたときに、それだけで食べていけないと、「バーチャルアイドルです!」といえないと思うんです。
だから、まず職業にしたいなっていうのはすごくあって、職業にするためには職場がないとダメだよなって思って。そういうライブができる場所がないと、そもそも活動できないよなっていうところから考えて、私たちがその職場みたいなものを作れたらいいなっていう。このイベントを職場にしてもらって、バーチャルアイドルとかVシンガーを職業にしたいなって思ってます。
──職場! いい話だ。専門分野であるバーチャルアイドルだけでなく、歌やトークなど様々な方に門戸を開いているのが興味深いです。 環 あとは最初にあんずが言ってくれたように、何か得意なことがあってもそれを披露する場がないと何もできない、だから新しい人が出てこないみたいなジレンマがあるんです。例えば、MCが得意でも、歌やダンスが苦手だからイベントに出られない……みたいな人でも、登竜門のように出演できるような場にできたらいいなと。ゆくゆくは本当に劇場とかもつくって、職場にしたいです。
──それこそ「えのぐ」さんといえば、一番最初からバーチャルのライブ会場である「岩本町劇場」の設立を発表して、実際にオンラインサービスとしてつくられましたよね。
環 その名前のまま行くかは置いておいて、VRide!でもつくりたいですよね。VTuber始めたての人でも自由に使えるような感じにできればいいなぁと。
──そうしたこれからバーチャルタレントとしてステージに挑戦しようとする新人の方々に向けて、こんな風な気持ちでVRide!に来てほしいなという思いはありますか?
あんず やる気。
──やる気! 「やる気!元気!環ー!」じゃないですか!
あんず 自分が見せたいっていうものを発揮していただけたら嬉しい。それでいいって思ってくださる方も絶対いると思うから、自分の強みを最大限活かしてほしい。うん。そういうの見せてほしいなって。
──最後に3人のVRide!に対する意気込みをお聞かせください。
環 本当に私もこのイベント開催するのすごく楽しみで、プロデュースするのって初めてだったから不安な気持ちとかもあったんですけど出演者さんも決まって、チケットの販売も始まって、これからどんなイベントにしていこうとか、どんな人たちと出会えるんだろうみたいなのが楽しみで、めちゃくちゃワクワクしてます。
バーチャル文化を盛り上げたいっていう気持ちとか、職場をつくりたいっていう気持ちもあるんですけど、純粋に楽しいイベントをつくれたらいいなって思ってます。私たちもがんばってプロデュースしますし、ときには出演するときもあるので、みんなで最高のイベントにしていければと思います。
奈央 ひなお、めっちゃVTuberとかVシンガーがめっちゃ好きなんです。でも、タレントじゃない友達におすすめしたときに、知らないといわれることもあったりするので、どんどん知ってる人を増やしたいです。
あとは私たちがリアルのライブでやってきた楽しさについても、今後VRide!に出演してくださるみなさんや、来てくれるみんなにも知ってもらいたい。「現場やライブハウスって、こんなに楽しいものなんだ」って。「えのぐ」も出演するときは全力でパフォーマンスするので。めっちゃ気合い入って、やる気に満ちあふれています!
あんず プロデュースしていく中でこれからどうなっていくかは本当にわからないのですが、とにかく出演していただく方にいいイベントだったなって思っていただきたいし、見てくださった観客の方にも、こんなにいいイベントがあったんだなって思ってほしい。みんなで一緒につくっていきたい。
出演してくださる方には自分の得意な才能を思う存分発揮して、いろいろな方にみつかってほしいなと感じるし、いいなって思ってもらえると思うので。ちょっと偉そうな言い方になっちゃうかもしれませんが、VRide!をきっかけに色々なイベントに出演するようになってほしいです。
私たちも色々な方の魅力を改めて発見できると思うので、それが楽しみです。本当にここから始まると思うので、出演してくださる皆さんも、見てくださる方も、私たちもイベントとともにみんなで一緒に成長していければいいなと思っています。
(TEXT by Minoru Hirota)
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引用元:https://panora.tokyo/archives/69065