スクウェア・エニックスの名RPG『ファイナルファンタジー』シリーズの最新作、『ファイナルファンタジーXVI』(以下、『FF16』)が6月22日に発売。本作のテーマソングを手掛けるのは、日本が誇るシンガーソングライター・米津玄師。そんな米津さんに『FF16』への想い、テーマソングに込められた気持ちを伺った。米津さんの曲作りの“方法”に触れる貴重な話題や、ゲームに関する話題など、豪華な内容でお届けする。
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プレイステーション5用ソフト『ファイナルファンタジーXVI』(FF16)のメインテーマソングとなる、米津玄師氏の書き下ろし楽曲『月を見ていた』の配信が、本日(2023年6月26日)より開始された。
米津玄師
音楽家/イラストレーター
“ハチ”名義でボーカロイド楽曲を発表し、群を抜いた実績を残した後、2012年より米津玄師として活動を開始。楽曲のみならずアルバムジャケットのイラストや映像制作も手掛け、マルチな才能を有するクリエイターとして注目を浴びる。楽曲『Lemon』は、ミュージックビデオが日本最多の再生数を突破。オンラインゲーム『FORTNITE』での全世界バーチャルライブを始め、AACAwardや、Forbesが選ぶアジアのデジタルスター100、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、コロナ禍において精力的な活動と結果を残した。さらに2022年にはテレビアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマ『KICKBACK』がSpotifyグローバルランキングでTOP50にランクインし、日本のアーティストとしては初の記録を達成するなどの偉業を成し遂げ、国内のみならずグローバルでも強い存在感を放っている。
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米津玄師の『FF』歴
――まずは、米津さんが初めてプレイした『FF』シリーズをお教えください。
米津『FF7』です。小学1年生ぐらいのころに家にプレイステーションと『FF7』が置いてあって、なんとなくやり始めたのがきっかけです。
――低学年の小学生にとって『FF7』の世界は、かなり衝撃的だったのでは?
米津そうですね。その後の自分の趣味趣向に、ものすごく大きな影響を及ぼした気がします。“『FF7』を連想するような何か”というものは、いたるところで目にしてきましたし、スチームパンクのようなものを見るといまだにグッとくるのは、子どもの多感な時期に『FF7』に触れたことがきっかけなんだろうな、という気がしています。
画像は『FF7』
――『FF7』以降、『FF』シリーズはどの程度遊ばれていましたか?
米津『FF8』と特別な環境が必要だった『FF11』(※1)はリアルタイムで遊べなかったのですが、それ以降のタイトルはナンバリング順に全部追いかけてきました。
※1……『FF11』はシリーズ初の多人数同時参加型オンラインRPG(MMORPG)。サービス開始当初(2002年)は、遊ぶためにプレイステーション2本体に加えて、プレイステーション2専用の特別な周辺機器とネット回線が必要だった。
――米津さんは、ゲームの中でも『FF12』がとくに好きなタイトルとのことですが、どこに惹かれたのでしょうか。
米津いろいろな要因があると思うのですが、『FF12』の世界が本当に大好きなんですよね。とくに、『ファイナルファンタジータクティクス』の、多様な人種がいるイヴァリースの世界がすごく好きでした。自分の世代でいうと、ゲームボーイアドバンスで発売された『ファイナルファンタジータクティクス アドバンス』が印象深いですね。その世界観を受け継いだナンバリングタイトルとして『FF12』が発売になりました。派手な宣伝やポーション(※2)や透明のカードの商品を見て、とてもワクワクしたのを覚えています。当時は高校生だったのですが、夏休み中ずっとプレイしていて、『FF12』の中で生活をしているような感覚になったことは、いまだに豊かな記憶として自分の中に残っています。『ラグナロクオンライン』のようなMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)が大好きだったので、バトルシステムもこんなに楽しいものはないと思って、ずっとプレイしていた記憶があります。
※2……『FF』シリーズでおなじみの回復アイテム。ここでいうポーションは、この回復アイテムをイメージしたコラボドリンク“ファイナルファンタジー12 ポーション”のこと。限定版として特別な容器にクリアカードが付いたプレミアム版も発売された。
画像は『FF12』
画像は『FFタクティクス アドバンス』
――ちなみに、オンラインゲームのプレイは『ラグナロクオンライン』が初めてですか?
米津そうですね。『ラグナロクオンライン』は、小学5~6年生のころにプレイしていました。ほかにも『メイプルストーリー』などいろいろとプレイしていたのですが、『ラグナロクオンライン』はいちばん最初の衝撃だったので、ほかのところに行っても帰ってきて、ずっとやっていましたね。
――MMORPGといえば、『FF14』も遊ばれていたのだとか。
米津『FF14』は、20代前半ぐらいに、友だちからすすめられてやり始めました。
――『FF16』のプロデューサーを務める吉田直樹さんは『FF14』でプロデューサー兼ディレクターを担当していますが、そのときには吉田さんの存在はご存知でしたか?
米津そうですね。旧『FF14』(※3)を立て直した立役者という印象で、すごい人だと思っていました。だから、当時から知っていて、初めて会ったときもすごい有名な人だという感じでした。
※3……2010年9月に新たなMMORPGとしてサービスを開始したオリジナルの『FF14』はさまざまな問題を抱え、非常にきびしい評価を受ける。そこで同年12月、プロデューサー兼ディレクターに吉田直樹氏が就任すると同時に、開発体制の大幅な刷新を発表。前代未聞となる“同名ゲームの作り直し”が行われ、2013年8月に『FF14:新生エオルゼア』として新たにサービスが開始された。
米津玄師の曲作りメソッド
――『FF16』で、そんな吉田さんと仕事をすることになったわけですが、改めてテーマソングを担当するまでの経緯をお教えください。
米津『FF16』が発売になるという情報が初めて世に出たときは、ついに新しい作品が出るのかと、ひとりの『FF』ファンとしてワクワクした気持ちでネットを見ていたんですよね。その後、うちのスタッフとその話題になって、主題歌は誰が担当するんだろうという話をしながら、自分もいつか、ミュージシャンとして関われたらいいなと思っていました。そうしていたら、スタッフが『FF16』側に伝えてくれて、気がついたら吉田さんに会って、テーマソングをやることになったという感じです。そんなことあるんだと驚きましたし、小学生のころから追いかけてきたシリーズなので、関われることが本当に光栄でした。
――テーマソングを作ることが決定したのはいつごろなのでしょうか?
米津かれこれ3年ぐらい前の話になるのですが、当時、吉田さんがうちの事務所にわざわざ足を運んでくださって。ああ、見たことある人だと思いながらお話しました。そのときの『FF16』は開発途中の、まだぜんぜん出来上がっていない状態でしたが、吉田さんの意図としては、「外部の人間として後からテーマソングだけに関わるのではなく、この段階からクルーの一員、仲間として、ともによいものを作りましょう」というスタンスで話してくれたんですよね。『FF16』の内容も、ものすごく懇切丁寧に真摯に話してくれて、「この人はとても真面目に、死ぬ気でゲームを作っているんだな」というのを感じました。だからこそ、自分も「生半可なものは作れないな」という想いが最初からありましたね。
――具体的にはどのように曲を制作されたのでしょうか。
米津最初にワンコーラスだけのデモを作って、それを吉田さんと祖堅さん(祖堅慶氏。『FF16』コンポーザー)に聴いてもらいました。そのデモをいいねと言ってもらったので、そこからフル尺を作ったのですが、それが3年前の話なので、少しずつブラッシュアップをしつつ、昨年末ゲームを実際にプレイさせてもらって、「なるほど、それであればこうしよう」と仕上げた感じです。
――米津さんは、これまで数々のアニメやドラマなどに楽曲を提供されています。その中でも『月を見ていた』は「これまでの楽曲とは違う作りかたをした」とのことで。これまでと比べて具体的にどのような点が違ったのでしょうか?
米津これまで、タイアップという形でドラマ、アニメ、映画など、いろいろな物語に対して歌をのせるということをやってきましたが、その都度それぞれ“性質が違うな”と感じています。たとえば、アニメのオープニングテーマであれば“そのアニメの要約であるべき”だと思っていて、“この物語の核はどこにあって、それ以外を削ぎ落としていくと何が残るんだろうか”ということを考えて曲作りをしています。かたや、エンディングテーマは要約であってはならない。“この物語を見終わった後にどういう余韻を残すか”という作りかたをしなければならないので、その都度性質が違うなと思うんですよね。
ゲームの曲というのは、今回が初めての体験ですが、吉田さんから作中でテーマソングが流れるシーンの指定があったので、脚本を読みながら、そのシーンのためだけに曲を作っていきました。自分はポップソングを作る人間なので、その物語に寄りすぎてはならないんですよね。たとえば、ドラマの曲を作るにしても半分はドラマの内容に合ったものを作りつつ、半分はその外側に向けたポップスとしての“何か”を持たせなければならないと思っています。ですが、今回はゲームの曲であり、この曲が流れるシーンまでに、プレイヤーはすごく長い時間を使ってたどり着く。さらに、自分で操作することによって、その世界にどんどん没入している状態なので。その物語に似つかわしいものは何かということを限界まで考え、外に向ける割合をできる限り少なくしていきました。そういう意味でいうと、ポップスとしては不誠実かもしれませんが、いままで50:50で作ってきたものを、今回は90:10くらい、物語に対する比重を大きくする作りかたをしました。
――実際にテーマソングが流れるシーンでは、米津さんの意向通り曲がゲームの一部になっていたと感じました。
米津そういう作りかたをしたので、できることなら、『FF16』というゲームを通して聴いてほしいと思いますね。もちろん、この曲だけを聴いても成立するように作ってはいるのですが、やはりゲームがあってこその曲を作ったという感じがあるので、ゲームをプレイして聴いてほしいなと思います。
曲に込められた“クライヴの自由を肯定する”という想い
――米津さんが『FF16』を実際にプレイして感じたことは?
米津いろいろと段階があるんですけど、まず最初に脚本を読ませてもらったんですよね。セリフも状況もすべて文字で起こされているものでした。シンプルな物語ですごくシリアスで、いわゆるJRPGから離れよう、それとは違うものを作ろうとする気合を感じていました。そのうえで、実際にゲームをプレイしてみると、クライヴがとにかくかわいそうだなと。
生まれた瞬間からある種の業を背負わざるを得ない人生を送って、市井のみんな、仲間、いろいろな人の想い、もっと言えば敵対する人間たちの想いまで背負っていって、それでもなお、進み続ける。それが、すごく重たいなという思いがありつつも、プレイしているとクライヴに感情移入していって、「どうなるんだろう」とノンストップで一本道を進んでいくのは、すごい体験だなと思いました。制作サイドがどれだけ意図していたかはわかりませんが、『FF16』はストーリーとクライヴが背負わされた業というか、“こう生きざるを得ない”という背景とシステムがものすごく一致していて、前に進まざるを得ないんですよね。
――吉田さんも、“ジェットコースターのようなゲーム体験”と表現していました。ちなみに『月を見ていた』の曲作りに際して、吉田さんから具体的な要望はありましたか?
米津曲が流れるシーンの説明をしてくださったうえで、「米津さんが考えてほしい」と自由に作らせてくれました。最初は、脚本の文字だけの情報だったので、シリアスな曲調ながら、クライヴには幸せになってほしいと思って曲を作っていました。クライヴの人生がこれでよかったんだと、救済できるようなものを作りたいと思っていましたね。その後、ゲームを実際にプレイしてみると、画面の中にキャラクターが存在し、自分がコントローラを握ってどんどんクライヴに同化していくにつれて、背負っていかなくてはならないという気持ちに変わっていきました。クライヴなりの責任の取りかたとは何なのか、そうすることで獲得した自由というのはいかなるものだったのかというのを、より一層強く捉え直すことができたという感じがありました。
――言語化が難しいかもしれませんが、この曲の“核”になったものは何ですか?
米津そうですね、“クライヴを救済したい”という気持ちが第一にありつつ、クライヴの人生がどういうものだったのか、この物語においてどういう遍歴をたどっていったのか、を自分なりに考えて捉えたのは、“いかに自由を獲得するかという物語”だということでした。
彼は王家のもとで生まれ、いろいろな出来事が起きて、運命というものがあるとしたら定められた一本道を進んで行かざるを得ない。生まれた瞬間から自由なんて存在しない形だったんだと思うんですよね。それでもなお自由を獲得していこうという意志を持って彼は進んでいき、最終的にこの物語の中でいちばん強く自由を獲得したのはクライヴだったと思うんです。しかし、自由を獲得するということは、自分が起こした行動や所業に対して責任を取るということでもある。クライヴは、あらゆるものを救うためにマザークリスタルを破壊することになりますが、それは市井の民たちのインフラを破壊する形でもあり、結果的に極悪非道の者として生きざるを得ない。彼がやったことは圧倒的に正しいけれども、この物語の中ではそれによって割りを食った人間たちも絶対にいるわけですよね。だからこそ、クライヴはそれに対する責任も負わなければ、回り回って自由すらも否定することになるような気がするんです。
なので、この曲が流れるシーンで、ただ単に浄化を感じるものではいけない。そこに乗っかる“後ろ暗さ”が曲の中に込められていないと、回り回ってクライヴの自由を否定することに繋がるんじゃないかと。すべてを成し遂げたときに、彼が何を想うのかと考えたら、多分めちゃくちゃ個人的なことだと思うんですよね。いままでともにしていた仲間のことや、ジルのことを、月を見ながら思い浮かべて「これでよかった」と思う。それと同時に、彼は真摯で誠実な人間ですから、自分の起こした所業に対して恐れおののいてもいるんじゃないかと、そういう気がしたんですよね。これで本当によかったんだと清らかに浄化していくよりも、何か遺恨が残るような後ろ暗さ、言ってしまうと煮えきらなさみたいなものが、そこにあるべきだと思ったんです。そういう空気感がなければ、さっきも言いましたが、彼の自由というものを認められないんじゃないかということはすごく考えていましたね。
――歌詞にはジルの視点も入っているのかなとも感じました。
米津そうですね。物語を文字だけの脚本で見ていたころは、クライヴとジョシュアの曲にしようと思っていましたが、吉田さんと話していくなかで、彼の中でジョシュアとの物語には決着がついているけれど、ジルとは決着が着いていないと感じました。なので、ジルとクライヴの関係を歌うべきなのではないかと話し合って、ふたりとそのあいだにある月というものに完全にフォーカスした曲作りをしました。
――なるほど。ちなみに、曲名が決まったのはいつですか?
米津タイトルはいちばん最後でした。最初は仮タイトルだったのですが、『FF16』が完成に近づいた段階で正式タイトルを考えるときに「『月を見ていた』しかないな」と思いました。
――実際に『FF16』をプレイしての感想をお聞きします。お気に入りのキャラクターやイベントシーンをお教えください。
米津ディオンがいちばん好きですね。彼を取り巻く環境や流れが個人的にすごく好きなんですよね。あとはバルナバスも印象深かったですね。幻想の母親の膝に頭を預けて、こどものように眠っていくシーンも好きでしたね。あの部分の詳細は語られないじゃないですか。あれはある意味で、クライヴと違い自由を獲得できなかったことを示すシーンなんじゃないのかなとも思うし、そういう彼のパーソナリティーがものすごく凝縮されて残っていたのが、いいシーンだなと感じたりしました。
――『FF16』のアクションやバトルで、でいちばん“スゴイ”と感じたところはどこですか?
米津やはり召喚獣合戦……、あれは大怪獣バトルですよね。迫力という意味ではタイタン戦が限界に挑戦している感じでした。バトルという意味では、バルナバス戦。オーディンの召喚獣の登場の仕方とか、異質な感じがしてすごくかっこよくて、アクションが得意というわけではないのでめちゃくちゃ苦戦しましたが、いちばん記憶に残っていますね。
――アクションゲームが得意ではないとのことですが、サポートアクセサリは使いましたか?
米津いえ、オート系のものは全部はずしていました。
ゲームはその世界や空間そのものに価値がある
――米津さんにとってゲームとはどういうモノですか?
米津自分の知らないところへ連れて行ってくれる存在であるというのが、いちばん強くあるかもしれないですね。それこそ魔法が使えたり、多様な人種がいてウサギの耳が生えていたり、トカゲのリザードマンみたいなのがいたり。ものすごく遠い世界へ連れて行ってくれるもの。そういう意味では、マンガでも小説でも映画でもいいと思うんですが、ゲームってコントローラを通じてその中のキャラクターと同一化を図っていくもので、没入感という意味で言えば、秀でている分野だなと思うんですよね。自分はRPGがいちばん好きなのですが、多様な人間だとかファンタジックな世界だとかに、コントローラを通じて飛び込んでいき旅をするというのが、理由としてとても大きいです。
――たしかに、ほかの媒体とはひと味違う作品の楽しみかたができますよね。
米津オンラインゲームでも、そこにひとつの世界があって、自分もそこにいるし、ほかの人間もそこにいる。その空気こそが自分にとって大事な気がするんです。そこに人がいて、友だちにならなくてもよくて、ただ道をすれ違うだけでもいいし。世界のどこかで、自分と同じ時を過ごしているんだなという実感がそこにはあって。空間そのものに価値がある気がするんですよね。自分にとってゲームのいちばんいいところとは、その世界に入り込める部分だと思っています。
――米津さんは過去のさまざまなインタビューでも好きなゲームを答えられていますが、いまパッと頭に思い浮かぶ好きなゲームはなんですか?
米津いまぱっと浮かぶと言われると『ゼルダ』ですが、それこそ『FF7』と同時期に遊んだ『アークザラッドII』がすごく好きです。シリアスなストーリーで、村が焼かれるところから始まって、幼なじみが研究機関みたいなところに入れられて……という。子どもながらに、とんでもない世界の秘密に触れているんじゃないか、みたいな気持ちになり、傷のようなものを残されました。
――『SILENTHILL』や『SIREN』もお好きとのことで。どちらも外山圭一郎さん(BokehGameStudio代表取締役)が手掛けた作品ですが、これらの作品にはどういう出会いかたをしたのでしょうか?
米津これはニコニコ動画初期のころのゲーム実況で流行っていたので。あまりホラーゲームはやったことなかったのですが、ゲーム実況を観て自分でもプレイするようになって、おもしろいと思いました。美しいという言葉にもいろいろあると思いますが、どれだけ美しい世界がそこに在るかというのが、自分にとっていちばん大きな評価軸で。『SIREN』のような絶望的な空間の中で群像劇としていろいろな人間が絡みあいながら相互に作用していく、そういった形や人の心を映し出すクリーチャーの在りかたなどがすごく美しいと感じ、好きではありますね。
――米津さんがこれまで好きだと語られていたゲームはいずれも、プレイした人の心に引っかかる作品が多い印象ですね。
米津自分が強烈な経験をしてきたからというのもありますが、子どもにとってそういうものは必要なんじゃないかなと思うんですよね。“毒にも薬にもならない綺麗なもの”だけを与えるのではなくて、「なんてものを見てしまったんだ」っていうトラウマ的体験があるからこそ、豊かになる側面というのがあると思います。たくさん傷つけられて苦しむ可能性もあるにはあるのですが、少なくとも自分はそういうものから得た傷のようなものが、人格に大きな影響を及ぼして、音楽を作る源になっているので、経験していてよかったなと思います。ゲームをよからぬことと捉える風潮もありますが、そういうところからしか得られない何かっていうのは絶対にあると思うんです。ファンタジーっていうものを通さないと捉えられない現実の在りかたというのがそこにはあると思っていて。ゲームこそ、ファンタジーにいちばん没入できる分野だと思うんですよね。
――とてもよくわかります。大切な経験ができる媒体として「ゲームはいいものだ」と伝えていきたいですね。ちなみに、アプリでハマったゲームはありますか?
米津アプリゲームだと、昔は『グランブルーファンタジー』をやっていましたね。
――ほかに、布教したいなと思うタイトルはありますか?
米津『バテン・カイトス』ですね。中学生のときに出会ったのですが、何もかもが自分にとってすごく鮮烈な体験で。荒廃してしまった大地から逃れるために浮島を作って、そこで暮らしているうちに“こころの翼”と呼ばれるものが生えるようになって。主人公は生まれつき片方しか翼が生えず、もう片方は機械の翼。この機械のデザインもかっこいいのですが、そんな理由でひねくれた主人公がいて、その中に宿る精霊として、世界に関わっていくというのは、中学生の自分にとってすごく鮮烈な経験でした。リマスターを遊んで、いまの自分が改めてどう思うかが、すごく楽しみですね
――さきほどもお話に出ましたが、ゲーム実況もお好きとのことで。
米津そうですね、最近は適当に探して出てきたものを見たり、ジャック・オ・蘭たん(※4)やキヨ(※5)は友だちなんで、いま何をしているのかなと見たりしていますね。蘭たんの実況動画は昔からずっと見ていて。当時はニコニコ動画での活動で、いまみたいにゲーム実況が仕事として確立しているわけでもなく。暇な大学生の集まりみたいな空気感も含めて好きでしたね。
※4……2007年よりニコニコ動画やYouTubeなどでゲーム実況を投稿している人物で、実況グループナポリの男たちの一員。プライベートでも米津さんと交流がある。
※5……2009年よりニコニコ動画などでゲーム実況を投稿し、現在はYouTubeをメインに活動。実況グループ最終兵器俺達の一員。プライベートでも米津さんと交流がある。
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――最後に、今後ゲームに対してどのように関わっていきたいか、お聞かせください。
米津音楽の部分で関わりたいという想いは、もちろんあるのですが、自分はそもそもマンガ家になりたかった人間なので、そういう世界というものを作ってみたいという気持ちはすごくありますね。
週刊ファミ通2023年8月3日号(2023年7月20日発売)でも、同内容のインタビューを掲載。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202307/22310089.html