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SIE上海代表・江口達雄氏に中国PS市場の“いま”を聞く。『原神』の大ヒットが家庭用ゲーム機に対する認識を変えた。スターを生み出すChina Hero Projectにも手応え【ChinaJoy 2023】 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com

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 中国最大級のゲームイベントChinaJoy 2023の開催に先駆けて、2023年7月27日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)上海は、“China Hero Project 第3期 プレス発表会”を開催。同発表会にて、第3期の2弾目となる入選ゲーム3タイトルを発表した。

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 China Hero Projectは、SIE上海による中国クリエイター発掘の取り組み。2016年に第1期が、2019年に第2期が開始され、2022年11月には第3期の募集がスタートした。
 第3期に関しては、今年(2023年)5月に、第1弾として、『潜限界(Exiledge)』、『醒刃(Awaken - Astral Blade)』、『空行(Will-less)』の3タイトルが発表されていたのだが、この度第2弾タイトルが発表されたことになる。今回明らかにされたのは、以下の3タイトル。いずれもアクションRPGとなる。
『逆神者(The God Slayer)』(Pathea Games)
『従風行(The Winds Rising)』(TiGames)
『ダバ: ウォーターマークの国(Daba:Land of waterscar)』(DarkStar Games)

『逆神者(The God Slayer)』(Pathea Games)
自由度の高いインタラクティブシステムと深みのあるストーリーが特徴のオープンワールドアクションRPG。2027年発売予定。

『従風行(The Winds Rising)』(TiGames)
小さな村に住む少女が波乱万丈の旅に乗り出し、王国全体の興亡に影響を与えることになる。2024年発売予定。

『ダバ: ウォーターマークの国(Daba:Land of waterscar)』(DarkStar Games)
土人形である主人公が、崩壊寸前の世界で、水のかけらの行方を辿りながら、世界と自分自身への答えを探す。発売時期未定。

 そんなChina Hero Projectのさらなる動きを受けて、SIE上海の会長兼社長である、江口達雄氏にインタビューを実施。China Hero Projectの目的や、今後のSIE上海の戦略などを聞いた。江口氏は、2013年にSIE台湾の代表として、台湾市場におけるプレイステーションプラットフォームの普及に務め、2019年6月にSIE上海の代表に着任。長くアジアのプレイステーションマーケットを牽引してきた方だ。(聞き手:ファミ通グループ代表 林克彦)

江口達雄氏

ソニー・インタラクティブエンタテインメント上海 会長兼社長

中国市場では、PS5はPS4の倍のスピードで販売されている
――そもそも日本のゲームファンはSIE上海の役割などをあまり知らない方が多いと思うので、そのあたりから教えていただけますか。
江口はい。SIE上海の役割を語るためには、まずは、中国市場の特殊さをお話したほうがいいかもしれませんね。日本の方でご存じの方はあまりいらっしゃらないかと思うのですが、もともと2013年まで、中国ではコンソールゲームのビジネスが禁止されていたんですね。それが2013年に開放されるという決定がなされまして、それを受けて我々SIEは2014年に中国市場に参入しまして、SIE上海という会社を立ち上げました。2014年にはChinaJoyにも出展しています。

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 プレイステーション4は翌年の3月に、その後2021年5月には、グローバルから約半年遅れでプレイステーション5を発売して、いまにいたっています。ですので、SIE上海は会社を設立して、9年目です。
 我々と同じタイミングで、マイクロソフトさんもXboxで中国市場に参入していますし、2019年にはNintendo Switchの販売も正式に開始されていますので、コンソールゲームのプレイヤーは揃っている状況です。
 とは言え、コンソールゲームのスタートが歴史的に少し遅いということは間違いなくて、世界最大のゲームマーケットである中国ですが、モバイルゲームがメインの市場なんですね。ですので、我々もXboxもSwitchも、いっしょになってコンソールゲームの認知活動をしていると言ってもいい状況だと思っています。
 子どものころ家にテレビゲームがなかった方がほとんどなので、皆さんスマホで十分楽しんでいる、ゲーム=モバイルゲームという中で、コンソールゲームの価値だったり楽しさをみんなで普及活動しながらビジネスを展開しているというのが現状です。

2014年に開催されたChinaJoy 2014の模様から。この年中国市場で家庭用ゲーム機が解禁となることが発表された。翌2015年にプレイステーション4が中国国内で発売されている。

――日本や欧米の市場からすると、少し特殊であるとは言えそうですね。
江口はい。そんな中、SIE上海という会社の役割は大きく分けてふたつあります。
 ひとつは、プレイステーションのサービス、コンテンツを消費者にお届けして普及すること。もうひとつは、中国のデベロッパーやパブリッシャーが開発したゲームを発掘して、世界のマーケットに向けて発信していくことです。いわゆるインバウンドとアウトバウンドですね。
 今回第3期として3タイトルを発表させていただいた、China Hero Projectは、おもに後者のほうの取り組みとなります。
――いま江口さんがおっしゃられたように、もともと中国は歴史からいうと、PC中心の国であって、近年はモバイルが活性化されていて、コンシューマーゲーム機は根付いてきませんでした。SIE上海や他社も含めて、ここ何年間は普及に向けての努力をされているとのことですが、いまの手応えはいかがでしょうか。そもそもプレイステーションプラットフォームは中国市場ではいかがですか?
江口手応えという意味で言いますと、具体的な数字は申し上げられないのですが、中国市場で2年少し前にローンチされたプレイステーション5は、これまで非常に好調な売上を記録しています。実際のところ、プレイステーション4の中国での普及に比べて、2倍のスピードで販売されています。伸びているという手応えはあります。
 さらに言えば、我々はいろいろなオフラインイベントを中国各地で展開しているのですが、そこに来ていただいているお客様の数や、そのときの皆さんの反応を見ていると、完全にプレイステーションのファンになってくれて、コンソールゲームのよさというものをわかってくれているお客さんが増えているという実感もあります。
 同時に、「コンソール向けのゲームを作ってみよう」と考え始めている中国の開発者の皆さんも確実に増えてきていますので、徐々に存在意義を出せているのではないかと思っています。
――2014年以降の成果が、少しずつ出てきているということですね。
江口そうですね。実際のところ、この環境は少し特殊ですよね。ほかの国では、コンソールゲーム機どうしのライバル関係というか、競争・競合があると思うのですが、中国市場はコンソールゲーム自体のシェアが少ないので、ライバルという関係にはならない。
 3社が同じステージイベントに登壇して、コンソールゲームの普及のために話をしたこともありますし、ある意味で“共闘している”感覚もあります。中国のゲーマーさんに少しでもコンソールゲームのよさを知ってもらって、「コンソールゲームをちょっと遊んでみようかな」というふうに思っていただくのが、我々の使命です。
――一概に言えないかもしれないのですが、プレイステーションで遊ばれているユーザーさんの年齢層はどのあたりが多いのですか?
江口年齢層は30歳から35歳がいちばんのボリュームゾーンです。大学を卒業して結婚されるまでくらいの男性が中心でしょうか。ただ昨今は、『原神』のプレイステーション5版などの登場によって、さらに若いファンだったり、女性ファンだったりが徐々に増えてきています。ライトなゲーマーさんが新たに入ってきてくれているという印象ですね。
――裾野が広がってきている手応えを感じているということですね。
江口そうですね。
China Hero Projectは、その名の通り中国からスターを出すプロジェクト
――そういった状況にある中で、2016年からSIE上海独自の企画として、China Hero Projectを立ち上げました。改めてのご質問になるのですが、China Hero Projectとは、どういったプロジェクトなのでしょうか。
江口China Hero Projectは、その名の通り中国からスターを出そうというプロジェクトです。2014年にSIE上海を設立して、“会社やブランドのことを知ってもらおう”という段階でスタートしています。そこには、ある種社会貢献的な意味合いもありましたし、中国のゲームクリエイターの方に、コンソールゲームのことを知っていただきたいという想いもありました。
 中国のゲーム開発者の皆さんの中に、モバイルやPCゲームの開発者はたくさんいたのですが、コンソールゲームを作ったことがある方はとても少なかったものですから、「我々の技術やノウハウ、開発のコツみたいなものをご紹介しますので、コンソールゲームを作ってみませんか? そしてプレイステーション4向けのソフトを発売してみて、そのうえで海外でリリースしてみませんか?」とアプローチしたプロジェクトですね。
――中国のクリエイターに、プレイステーション4に興味を持ってもらおうというプロジェクトだったのですね。
江口はい。まずはインディーゲームクリエイターの皆さんだったり、中小のゲーム会社の皆さんを対象にして、お声かけしました。「友だちとふたりでやっていいですか」という方が応募してきたりしましたね。実際にそういう方が選ばれたりしていたのですが……。
 ですので、当初はビジネスうんぬんというよりも、まずはエコシステムを築き上げることが念頭にありました。この国で地産地消のゲームをちゃんと産んでくれる人たちを育てて、その人たちが将来、5年後、10年後、20年後に作るゲームによって、中国におけるプレイステーション独自のエコシステムの構築を目指して、2016年にスタートしたんです。
 で、2016年に第1期、2019年に第2期と来まして、昨年11月に第3期のキックオフを発表して、いま徐々に入選作品を発表しているところです。

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――China Hero Projectのいちばん大きい目標と言うと、プレイステーションプラットフォームでゲームを作ってくれる新しいチームを発掘したいということと、中国からグローバル市場に向けての新規IPの創出となるのですか?
江口そうですね。おっしゃる通りです。
――第1期、第2期、第3期と、徐々にスケールアップしているのは、端から見ていてもよくわかるのですが、第1期のときの手応えはどうだったのですか?
江口第1期がスタートした2016年当時は、私はSIE台湾に所属していたのですが、近くからつねに見ていましたし、こちらに来てからも当時の創業メンバーからいろいろと聞いていましたので、その範囲でお答えさせていただきますと、どちらかというと、こちらから探しにいっていた感じだったようです。
 「募集します」と言って、どわーと応募が来たかというと、そういうわけではなかった。知り合いの知り合いをあたってみたりして、地道に取り組んでいたようです。
――インディーゲームクリエイターなどに地道に働きかけたのですね。
江口そもそもですが、China Hero Projectをやろうと、うちのチームで企画が立ちあがったタイトルがあるんです。第1期にラインアップされている『Lost Soul Aside』です。あのタイトルの存在がじつは大きくて。『Lost Soul Aside』は、クリエイターの冰(ヤン・ビン)さんが、コンピュータグラフィックスを独学で勉強して、ひとりでUnreal Engineでトレーラー的なものを作って、ネットにあげたプロジェクトだったんですね。それがその当時、非常にバズって、「こんなに美しいグラフィックスの動画を作れる人がいるのか」ということで話題になりました。
 そこで我々のチームメンバーが、「おもしろそうな人だね」ということで興味を抱いて、上海の彼の自宅まで訪ねたんですね。そこでヤン・ビンさんは、「ただ好きなものをアップしているだけです。いずれゲームにできるといいなと思っていますけど……」とおっしゃっていたのですが、ひとりだし、とにかく若い(当時高校生)。そこで、こういう人たちがいるのだったら、いろいろなノウハウを提供してサポートすれば、彼らの夢をかなえられるのではないかと発想したんです。かつ、彼はコンソールゲームを作ってみたいということでもありました。
――とにかく、自分が作りたいゲームを開発したいと?
江口そうですね。本当にピュアな発想の若者がいるということで、だったら彼みたいな方を探してきて応援することができれば、将来エコシステムができるのではないかということで、第1期が始まったんです。『Lost Soul Aside』は来年2024年発売を目標にただいま開発中ですが、China Hero Project立ち上げのきっかけになったタイトルですね。

『Lost Soul Aside』

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――では、具体的にプロジェクトが立ち上がったタイトルには、どういった支援があるのですか?
江口具体的な技術支援としては、開発にあたってのコンソールゲーム独得の部分ですね。一例を挙げると、コントローラーでの操作を前提としたゲーム作りをどうするかです。スマホとPCのインプットデバイスでの開発をしてきた方々なので、コントローラーでどうやって遊んでもらうか、コントローラーでどうやって没入してもらうかといった部分の知識があまりないんですね。そこを教えてあげる必要があります。
――なるほど。そこは日本とはぜんぜん違うところですものね。
江口そうなんです。コントローラーを使ったことがない皆さんに対しての技術支援ですとか、あとは、ストーリー重視のゲームを作った経験がない方であれば、ストーリーの構成の仕方とかも相談に乗ります。
 さらには、グローバルで売っていくというときに、マーケットの特性に関してアドバイスをすることもできます。中国、アメリカ、日本などそれぞれにお国柄や好まれる傾向がありますので、もちろん押し付けることはしませんが、我々はデータをもとにターゲット市場に対して適宜アドバイスができます。「こうしたほうが日本人の方は好まれる」、「アメリカの方はこういったことが好まれる」ということを、SIE、プレイステーションだからこその知見を持って、アドバイスしています。
――そのへんは、初代プレイステーションがリリースされてからの膨大な資産がありますね。
江口それだけではなく、China Hero Projectには何社も協賛していただいている企業がありまして、彼らもこのプロジェクトに賛同してくれて、いろいろなものを提供してくれています。
 たとえば、エピック・ゲームズが、選ばれたチームに関しては、Unreal Engineのシステムを無料で提供してくれますし、CRI・ミドルウェアさんやヴァンガードさんも、開発ツールや素材を無料で提供してくださいます。デジタルハーツさんについても、FQA(機能デバッグ)や、字幕、翻訳のシステムを提供したりと、ゲーム開発のプロである会社さんが、持ち場持ち場の得意分野でサポートしてくださるんです。とてもありがたく感じています。
――技術支援は心強いですね。
江口サポートしていく金額に換算すると、100万元ですから、日本円で2000万円くらいの価値のサポートを無料で提供します。加えて、3年も4年も5年もかけて開発すると、やはり資金調達がすごく重要になりますので、ファンドの紹介ですとか、タイトルによってはSIE自身が開発費をサポートするとか、そういった支援も含まれます。
 それで、出来あがったあと、では世界で売るとなったときにSIEのほうで世界中のパブリッシャーさんと話しをして、発売のお手伝いまでしていきます。タイトルによっては、SIE自身がパブリッシングするというところまでやります。
――パブリッシングに関しては、必ずしもSIEのみが担うというわけではないのですね? 場合によっては他社がやってもいいし、開発スタジオが自社でやってもいい?
江口そうです。ただ、「プレイステーション版は必ず作ってください」というのはお願いしています。とはいえ、同時並行でPC版を別に出していただいても構いません。
――とくにそこはプレイステーション独占だったり、先行でないとダメということはないのですね?
江口そうではないです。
――なかなかここまで踏み込んで支援されるプロジェクトはないように思います。しかも、以前のインタビューでもお話しされていましたが、かなり長期にわたっての支援で、クオリティーを優先するというスタンスなのですよね?
江口そうです。今回第3期がキックオフしましたが、制作に数年かかるタイトルもあります。
――今回選出された『逆神者(The God Slayer)』は2027年リリース目標のようですね。
江口そうですね。非常に足の長い話ではあります。ただ、コンソールゲームの開発はそういうものですから。さすがに、あと半年でリリースしますというタイトルを捕まえてきて、「これがChina Hero Projectです。我々がサポートしました」といっても説得力がありませんよね。
 China Hero Projectに関しては、「開発初期の段階でどうしていいかわらない、でもアイデアとパッションだけはある。で、よく見たらちゃんと実力もある」というスタジオを、インキュベーションしていくことに意味があると思っています。
 どうしても足は長くなりますし、正直なところ途中でチームが解散するとか、プロジェクトから撤退するということも、ある程度は出てきてしまうのも仕方ないところではあります。それでも第1期、第2期のほとんどの会社さんがいまだにがんばってくれていますし、ちゃんとリリースを目指して開発を続けてくれていますので、ここは我々は辛抱強くと言いますか、「いいものを作ってください!」というスタンスです。
――第1期と第2期で、どれくらいのタイトルが実際にリリースされているのですか? また、まだリリースされていない開発進行中のタイトルはどれくらいあるのでしょうか?
江口すでに発売されているのは7タイトルですね。“PlayStation Awards 2019”で、“インディーズ&デベロッパー賞”に輝いた『ハードコア・メカ』ですとか、メタクリティックで80点を獲得した、『フィスト 紅蓮城の闇』などが発売されています。非常にハイクオリティーのタイトルが出せたと思います。進行中のタイトルは、現在6本ですね。その中には、昨年11月にご紹介させていただいた『Lost Soul Aside』や『Convallaria』もあります。

2021年9月7日にプレイステーション5、プレイステーション4向けにリリースされた『フィスト 紅蓮城の闇』。開発を手掛けるのは第3期でも『従風行(The Winds Rising)』が入選作となったTiGames。

『原神』に大きな可能性を感じてPSでサポート
――今回の第3期は、昨年の11月からエントリーを開始したとのことですが、どれくらいの応募があったのですか? 応募してくれるスタジオの規模も変わってきているのでしょうか?
江口第2期から第3期の開始までは、けっこうあいだが開いているんですね。ご存じの通り、2020年からのコロナ禍が大きくて、足掛け3年、言ってみれば不自由な生活が続きました。そのあいだ中小のインディーゲームクリエイターの皆さんや、中小の開発会社の皆さんにはけっこうタフな状態が続いたので、開発がそのあいだ全部止まってしまったとか、コロナによってチームを解散せざるを得なかったというところもけっこうありました。
 ただ、今回の第3期に関しては、ほぼコロナが終息した段階でキックオフできました。また、開発会社の皆さんも動きだしているタイミングで発表できたのもよかったと思います。
――コロナが終息して、いよいよ……のタイミングでの発表だったということですね。
江口第2期と第3期のあいだに大きな出来事がふたつあって、ひとつはコロナ禍です。もうひとつものすごくインパクトがあったのが『原神』というタイトルの出現です。
 我々が2016年から、「いっしょに海外に行こう」、「プレイステーションのタイトルを作ろう」と中国の開発会社さんに声をかけてはいたものの、「いやいや、国内のモバイルゲームで十分成功しているから、いまさらコンソールゲームをやる必要性が見い出せない」というイメージで捉える方もいることはいたんです。中には、「子どものころから遊んでいた、コンソールゲームが作りたいんだ」というパッションを持った方もいましたが、どちらかというと、個人クリエイターだったり、中小の開発会社の方が多かったんです。中国においてビジネス的にスタンダードなのはモバイルゲームなわけですから。
 ところが、そんな中『原神』が世界的な成功を収めたんです。中国国内でも大ヒットしたうえに、さらにアメリカや日本を始めとする海外でも大ヒットした。これは、中国の開発会社が作ったゲームとしては、非常にエポックな出来事でして、これにより、中国のほかの開発会社も、「あれ? 中国の会社が開発するゲームでも、コンソールと組み合わせることで世界にでていけるんだ」となったんです。「我々にもできるんじゃないか?」と。
 『原神』のおかげで欧米を含めた海外で成功するにはコンソールで取り組む必要がある、ということが中国のゲーム業界内でも浸透して、我々のChina Hero Projectも改めて注目を集めることになりました。まさに『原神』の成功と、China Hero Projectのコンセプトが、中国の開発会社の皆さんの中でぴったりとくっついたんですね。
――『原神』がプレイステーション5、プレイステーション4でリリースできたのはなぜだったのでしょう?
江口『原神』はChina Hero Projectのタイトルというわけではもちろんなくて、HoYoverseさんと我々SIEとで、発売前からいいリレーションを作っていたんです。SIEでは『原神』の発売をずっとサポートさせていただいて、発売までいっしょに走ってきました。
 中国のゲーム業界的には、「どうやら『原神』が海外展開に成功したのは、SIEがサポートして、プレイステーションでリリースしたということがポイントらしい」というのは周知のことだったんですね。HoYoverseさんもそれを隠さずに、オープンにみんなに伝えてくれています。
 ですので、そんな機運が高まったころに、昨年11月に「第3期の募集を始めます! みなさん、ここにメールを送ってください」とご紹介したところ、現時点で100タイトル近い応募が集まっている状況です。
――それはすばらしいですね。
江口第1期、第2期と比べて、第3期に関しては、かなり応募していただけるようになった感じです。さらには、応募してくださった会社の規模も大きくなってきました。「世界展開したいから」、「SIEと組みたい」という発想の中規模、数百人規模の会社さんがエントリーしてきてくれたのが大きな変化ですね。
――グローバルに打って出るときに、プレイステーションであることがとても重要なファクターなんだ、魅力のあるハードなのだということが、ゲーム作りにおいても、ビジネスにおいても中国の国内のデベロッパーの皆さんに、ちゃんと知れ渡ったということですね。
江口そうですね。ようやく……ということですね。
――にしても、よく『原神』に着目しましたね。
江口さきほどお話しました通り、“中国でエコシステムを作るために、中国で開発会社を育てる。そして、そこからいずれ世界に飛び出すタイトルを作っていく”というのは、2014年に会社を設立したときからの目標のひとつではありました。
 ですので、もともと中国産の良質なタイトルを見つける社内チームはあったんですね。担当者はテンセントさん、ネットイースさん、パーフェクトワールドさんといった大手に始まり、さらにはモバイルでいいゲームを作っている会社さんともリレーションを作ってお話しをしていく中で、当時『崩壊3rd』を作っていたHoYoverseさんとお話をする機会があって、「じつはいま次回作を作っているんだよ」という話をしていただいて、SIEの担当者が、未発表だった『原神』を見せてもらったんですね。それが非常に可能性を感じさせる企画だったんです。
 かつ、チームのパッションがすごかったんです。“tech otakus save the world(技術的なオタクは世界を救う)”は、彼らの社是ですよね(笑)。
――いい言葉ですよね。ゲームが大好きだということが伝わってきます。
江口はい。本当に愛が溢れていますし、作品を見てもわかる通り、日本のゲームやアニメ、日本の文化をすごくリスペクトしてくれているのが伝わってきます。さらには、パッションがあるし、かつ企画もいいということで、担当の彼は、「ぜひ、これをプレイステーションで出したい」と思ったんですね。
 で、「これをサポートしていこう」ということで、会社を説得して、『原神』を推していくことになったんです。そして情熱的な担当者ですから、さきほどもお話しした、“コントローラーによる操作はどうすればいいのか”、“大画面とスマホの画面での表示はどう違うのか”といったことも含めて、コンソールへの最適化をサポートして、いっしょにプロモーションのプランなども考えて、「世界同時発売で行こう!」というような話で盛り上がって、無事に発売できたんです。
――担当の方がすごく熱意を持って接して、そしてお互いに手と手を取り合ってみたいなことができたということが、いまにつながっているんですね。
江口それが本当に大きな出来事です。この3月に、SIEで200社くらいの開発会社の方に集まっていただいて、「もっとプレイステーションのゲームを作ってください」との主旨で、開発社向けのカンファレンスを実施したのですが、ゲストスピーカーにHoYoverseのVPの方が来てくださったんですね。そこで、彼女が非常な情熱をもって、「私たちの成功はソニーさんといっしょ成し遂げた」とオーディエンスの皆さんにおっしゃっていただいたいて。とても感動しました。
――いい話ですね。考えてみると、『原神』とプレイステーションプラットフォームとの関係は、奇しくもChina Hero Projectの最高のモデルケースとも言えそうですね。
江口まさにその通りですね。
China Hero Projectでは、開発チームトップのパッションをもっとも重視する
――そうしたことが、China Hero Projectの説得力にもつながったということですよね。今回100近くの応募があって、かつスタジオ規模も大きいところが増えたということですが、応募作の質も上がっていって、選びたいタイトルも増えたということですか?
江口おっしゃる通りです。応募してくださるタイトルの傾向も少し変化が出てきたようにも思います。
 国内向けでずっと考えていた皆さんは、やはりどうしても中国の人が好むような企画になってしまいますよね。それが、世界で売ろうと思ったときには、やはり海外の方が好まれるような世界観であったりを意識することになる。世界では、どんなタイトルがヒットしているのか見極める目ですよね。という意味では、いま大ヒットしているタイトルというよりも、いま流行り始めている、主流になりかけつつあるジャンルに、ちゃんとフォーカスして作ってきているなという感じはします。少しトレンドを意識しているようなところはあると思います。
――ああ、なるほど。応募作にもそんな変化があるのですね。
江口世界観もそうですし、ゲームシステムや遊びかたなども確実に変わってきていますね。以前はシューティング的なものも多かったのですが、いまはアクション・アドベンチャーが増えていたりと、応募作品のゲームジャンルの傾向も変わってきているような気がします。
――第3期ですが、今年5月に3タイトルが発表されて、今回のタイミングでも3タイトル発表と、発表のしかたが以前に比べて変則的ですね。ふつうだと一気に10タイトルなりを、「今回の選出タイトルはこれです!」と発表するケースが多いかと思うのですが、分けて発表するのは、わりと意識的にやっているのですか?
江口そうですね。いまだに応募は受け付けていますし。第1期と第2期のときは、10タイトルを一気に選んで、発売に向けて走り出しました。とはいえ、新しい話って、つねに出てきますよね。新しいパートナーもどんどん見つかっていきますし。だから、「選びました、発表しました、そこからはもう受付は停止します」ではなくて、選びながら、探しながらやっていこうという発想です。これは第3期を始めるにあたって、当初から考えていました。
 第3期もまあ、10タイトルくらいというイメージはしていますが、別にそれは超えてもいいわけですし、逆にそれに満たなくてもいいわけですが、いいタイトルが見つかったところで、契約して発表していくというスタイルです。これは第3期からの初めての取り組みとなるのですが、私としてはいいやりかたかなと思っています。タイトルを一挙に10タイトル発表となりますと、どうしても注目度が分散されてしまいますし。第3期では、重量級のタイトルが多く選ばれていますので、しっかりと時間をとって紹介していったほうがいいのではないかと思っています。
――発表会を取材させていただいて改めて実感したのですが、今回選ばれた皆さんはとてもパッションがありますよね。開発の皆さんに対しては、どのような印象をお持ちですか?
江口やはりああいう方たちではないと、このプロジェクトを続けていけないですよね。ただ「儲かりそう」ということで、3年も4年も5年もたくさんのスタッフを引っ張っていくことはできないと思います。パッションがあって、「何があっても絶対にゴールまでいくんだ!」という人でないと。我々がタイトルを判断させていただくときには、いろいろなところを見るのですが、いちばん重視しているのは開発チームのトップの方のパッションです。そしてチームの実力。「ちゃんとゴールまで走り切れるのか」というところを重視しています。
 皆さん本当にゲームに対する愛があって、やりたいことがあって、かつSIEといっしょにやりたいと言ってくださる方なので、熱く語ってくれる方が多いです。それが、China Hero Projectのひとつの特徴かもしれないです。
――そうですよね。中国経済はコロナの影響で、多少停滞期に入ったような印象がありました。おそらくそれと連動して、ゲーム市場全体も、とくにモバイル市場は、これまでの右肩上がりではない状況にあるかと思います。でも発表会のトークショウで開発者の皆さんが、「そんなことはどうでもいいんだ。俺たちがいいゲームを作れば、ちゃんと売れるんだ」といった主旨のことをおっしゃっていたのが印象的でした。中国人クリエイターの、コンシューマーゲームへの目の向きかたも変わってきているのかなとも思うのですが、そのへんはいかがでしょうか?
江口実際に海外市場を狙い始めているというのは、中小ゲームメーカーの皆さんだけではなくて、メジャーなトップティアの中国のゲーム開発者の皆さんも同様ですね。グローバルマーケットに向けて進出していこうということで、皆さん準備されています。
 彼らがなぜいま、海外に目を向けだしたかというと、ひとつは、国内のゲーム市場が一定のレベルに達しているということがあります。これまでものすごく伸びできた中で、けっしてもう伸びない、これが天井だとは言わないのですが、前みたいな急激な伸びが収まってきた中で、海外にビジネスチャンスを求めるというのは、規模に関わらず、中国開発者の皆さんが考え始めていることではあります。
――そういったこともあって、プレイステーションプラットフォームも含めたコンシューマー市場にチャレンジしよう、という機運が高まっているということなのですね。
江口そうですね。

“China Hero Project 第3期 プレス発表会”でのパネルディスカッションの模様から。

中国で作ったゲームが楽しいのであれば、それを世界の皆さんに遊んでほしい
――いまは第3期を継続中とのことなのですが、このさきのSIE上海としての取り組みとしてはどのようなことを予定していますか? 「中国市場でこういうことをやっていきたい」といった、先のビジョンがありましたら教えてください。
江口冒頭で申し上げた通り、ふたつのミッションが我々にはあります。ひとつは、この国でプレイステーションのハードやコンテンツを普及させていくというミッション。もうひとつは、この国でゲームを発掘して世界の皆さんに届けるというミッションです。
 前者のほうでは、引き続き、プレイステーション5の普及台数を着実に伸ばしていきたいと思っています。そして、ひとりでも多くのコンソールを遊ぶゲーマーさんを作っていく。ですので、我々のいまの宣伝活動も、それに則ったものになります。
 たとえば、海外のユーザーの皆さんに対しては、「プレイステーションって何か?」ということは周知しなくてもいいですよね。でも、我々の宣伝活動というのは、「コンソールって何?」「プレイステーションって何?」というところから語っていかないといけないんです。モバイルのゲーマーさんに対して、「コンソールゲームというのはすごいんだよ」「4Kの大画面でゲームをプレイできるんだよ」「コントローラーというものを使って遊ぶと、モーションフィードバックのような新しい体験もあるんだよ」「ストーリーに起承転結があって、1本の映画のように楽しめるんだよ」「没入感があって、ライブインできて、そこにどっぷりと浸れるんだよ」という、いわば、モバイルゲームとの違いに答えるような宣伝活動やプロモーション活動から始めていかないといけないんです。
 ですので、引き続きそういった活動をしつつ、丁寧にユーザーを増やしていくということをやっていきます。中国市場はプレイステーションにとっても、非常に重要なマーケットのひとつでもありますので、戦略的地域と捉えてトライしていきます。
 もうひとつの中国のゲームを世界の皆さん届けるということで言いますと、China Hero Projectにはもちろんこれからも注力していきますが、それと同時にトップティアの中国メーカーの皆さんにも積極的にアプローチしていきたいと思っています。HoYoverseさんも含めて、そういった方たちとは直接のコミュニケーションで世界に向けた大作をいっしょに企画すべく進めているところもありますので、今年から来年にかけて、つぎつぎにそういったタイトルが出てきます。中小から大きいところまで含めて展開される中国のプレイステーション向けタイトルを、世界の皆さんに楽しんでほしいと思っています。
――それは楽しみですね。
江口実際のところをお話しますと、私はけっして中国企業の代表者でも、利益代表でもなんでもありません。とにかく、おもしろいゲームがここにあるのだったら、皆さんに知ってもらいたいという、気持ちでいます。中国のゲーマーさんだって、海外のゲームをどんどん遊んでいます。それと同じように、中国で作ったゲームが楽しいのであれば、それを世界の皆さんに遊んでいただきたいです。もっと言えば、そういったグローバルな視点でゲームを提供できることが、プレイステーションというプラットフォームの価値だと思いますので、バラエティー溢れるタイトルを、どんどん紹介していきたいです。
 世界中の皆さんにいろいろな選択肢を与えたいという気持ちで取り組んでいます。もちろん、「中国のために」という気持ちもありますが、全世界のユーザーさんにいろいろな遊びを提供しつつ、かつ中国の皆さんにもすばらしいゲームを紹介したいという思いで取り組んでいます。
――ありがとうございます。日本のゲームファンも、けっきょくどこの国のクリエイターが作ったゲームかということはほとんど気にしないわけで、手にとっておもしろかったゲームが結果的に中国のゲームかもしれないし、ほかの国のゲームかもしれないということであって、ゲームファンとしては、おもしろいゲームが増えるに越したことはありません。中国のクリエイターさんのゲームもこれからどんどん広がってほしいですね。
江口本当にそうですね。実際のところ、やはり民間交流の大事さというは本当に思いますし、エンターテインメントというのは、いろいろな国の若者どうしが交流する場としては、すばらしい舞台だという認識でいます。ゲーム、アニメ、音楽、映画といったエンターテインメントコンテンツがハブとなって、いろいろな国の人が情報交換をしたり、もっとおもしろいものを作っていこうということで、交流が広がっていくわけです。
 私も海外生活が長いですが、日本のコンテンツに対する愛や、日本のコンテンツに対するリスペクトは海外の人はものすごくありますので、「じつはこういうのがあるんだよ」という、共有したい気持ちがあります。それと同じように、これからも中国のコンテンツを世界の皆さんに知ってもらうべく、取り組んでいきたいです。

...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202308/10312725.html

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