HIMEHINA LIVE 2023「提灯暗航、夏をゆく」レポート 会場を包んだ声援と笑顔、やっとボクらはひとつになれた
2023年8月11日 16:47 VTuber
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田中ヒメと鈴木ヒナによるバーチャルアーティスト「HIMEHINA」は8月5日、大宮ソニックシティホールにてライブ「提灯暗航、夏をゆく」を開催。全40曲(!)という超ボリュームのセットリストをアンコールも含めて3時間オーバーで歌いきり、2階席まである2500人収容のホールをいっぱいに埋めた観客を大いに熱狂させた。
ライブ中には、YouTubeチャンネルの見た目をアーティスト路線に統一し、5年以内に日本武道館でのライブ開催を目指すと宣言して、こちらもファンを大いに驚かせた。筆者も現地で取材し、盛り上がりを体感してきたので、写真と共に見所をまとめていこう。
未見という人は、4分弱の無料ダイジェスト動画を公式が用意しているのでまずは見ておいてほしい。全編を求める方は、YouTubeのメンバーシップで「JOJIVIP」か「JOJIGOD」に加入すると視聴可能だ。
過去開催のワンマン、半分以上が声に制限
ライブといえば、どんなアーティストやファンにとって特別な機会になるものの、今回の「提灯暗航、夏をゆく」は「ジョジ」(HIMEHINAのファンネーム)にとってさらに格別なものを感じた。
今回、開演時間は18時だったところ、会場となった大宮ソニックシティには昼間からグッズを求めるファンが集まり、売り切れが出るなど開始前から来場者の心が踊っていることを感じた。ホールで待っている際も、運営のゴゴさんの呼びかけで「HIMEHINA LIVE 2023『提灯暗航、夏をゆく』、行くぞー!」「おー!!!!」と交わしたコール&レスポンスからも、このライブにかける強い意志が感じられた。ライブ中のMCによれば、海外から来たという猛者もいたようだ。
なぜファンはそんなに気合いを入れてこの場に集まっていたのか。それは3年半も待ち望んだ「声出し解禁」のライブだったからだ。
VTuberについて、ここ1、2年で「にじさんじ」や「ホロライブ」などをきっかけに興味を持ったという方も多いはず。HIMEHINAがデビューしたのも、そんな2つの事務所が立ち上がったのとだいたい同時期である2018年だ。
2018年3月に田中ヒメ、5月に鈴木ヒナがそれぞれ始動し、バラエティー路線の動画だけでなく、カバーである「歌ってみた」も投稿。2018年8月に公開した「劣等上等(Cover)」が執筆時点で1870万再生を超えるなど、笑いだけでなく歌声の力でもVTuberファンを魅了してきた。
2019年1月にはアニメ「バーチャルさんはみている」のエンディングテーマとして作られた初のオリジナル曲「ヒトガタ」が注目を集め、9月に初のワンマンライブ「心を叫べ」が満員御礼、内容自体も珠玉の出来で大成功を収める。本人たちはライブのMCで「最初から歌をやる予定はなかった」と語っていたが、デビュー後、Vシンガーとしてもキャリアを順調に積み重ねてきたわけだ。
しかし、ちょうど2020年2月末のアコースティックライブ「田中音楽堂オトナLIVE 2020 in TOKYO『歌學革命宴』feat.鈴木文学堂」が厳戒態勢での開催となったように、新型コロナウィルスの感染拡大防止が原因ですべてのイベントに制限がかかることになる。続く「藍の華」「希織歌と時鐘」は2回連続でオンラインのみの実施となり、2022年の「アイタイボクラ」はリアルで会えたものの観客の発声はハミングという状態だった。つまり、過去5回あったリアルでのワンマンのうち、3回は消化不良な状態だったわけだ。
そもそも、われわれはなぜライブに行くのか。それは大好きなアーティストと一緒にあの空間でしか得られない一体感や高揚感を味わいたいからだろう。その場において、会場のあちこちから上がるファンの声は心を一つにするきっかけをつくる大切な要素だ。
つまり「顧客が本当に必要としていた」ライブが約3年半ぶりに戻ってきたことになる。これに気持ちがたかぶらないほうが「嘘でしょ!?」となるだろう。
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空白の3年半をやり直すような怒涛のメドレー
そんなファンの気持ちを汲んでくれたのか、ライブはオープニングから見事な内容で一気に気持ちがたかぶった。
冒頭、会場が暗転して聞こえてきたのは、今年5月にリリースした3rdアルバム「提灯暗航」の1曲目「夢のおわりの菊の花」。日本の夏を感じさせるお囃子をバックに、2人のコーラスが会場に響き渡り、コール&レスポンスの後で暖かさに包まれていた空気が一気に荘厳なものに切り替わる。そして挟まるMC。
ヒナ なんだか今日は。
2人 声が聞こえる気がする。
巨大LEDに「声を聞かせて」というテロップが映し出され、間髪入れずに会場から歓声が上がった。
ヒメ 声って、こんなに美しかったんだね。
ヒナ あの頃の記憶が甦るね。
続けて曲にドラムのビートが加わり、ステージバックの巨大LEDには声があった時代のライブ映像が早いテンポで差し込まれる。
ヒナ 人生は線香花火のようだね。魂に火を灯し、生まれ、空を見上げ、伸びるように時を過ごし、苦しみ、抗い、輝き、もがき、生きて、生きて、花を咲かせようと生きて、終わりの風を感じながら、やがて地に落ちる。
ヒメ 僕たちはどこまできただろうか。たくさんの友が散った。失った絆も、失った未来も、欠けた月のように、鈍い光だけを残して心に暗い影を落としている。
ヒナ この長く短い人生が終わりを告げる頃、僕らは何を思い返すのだろう。
ヒメ 記憶。
ヒナ 記憶。
ヒメ それはきっと提灯のようなぼんやりと。
ヒナ そしてほのかに温かい心の塊なんだろう。
ヒメ ねぇ、歌を歌おう。独りで寂しくならないように、一緒に歌おう。
ヒナ うん。
続けて「悲しさも~」とサビを歌い出し、再びMCが挟まる。
ヒメ まだ生きて愛したかった。
ヒナ 哀しい言葉だけど、そんなふうに生きるように恋をできるような、美しい人生を生きたい。
ヒメ ドンと舞って咲いて。
ヒナ パッと散ってお別れを。
ヒメ 夢を始めよう。
ヒナ 夢を始めよう。
ヒメ 今夜は死の淵まで残るような記憶の花を夏の空いっぱいに。
2人 咲かせよう。
そうして始まったのが、HIMEHINAのライブで恒例、彼女たちの挨拶「はおー!」をモチーフにした80(ハオ)のカウントダウンだ。余談だが、まずこのカウントダウンのためのカウントダウンが挿入されて「!?」とちょっと笑ってしまった。客席が大声で数字を叫んでいる最中も、巨大LEDには過去に投稿してきたMVやイラストが次々と現れて、過去の記憶を呼び起こしてくれる。
もはや抑えるものは何もない。減っていく数字に合わせてどんどん大きくなる観客の声。最後に数字が0になり、2人が「レディースアンドジェントルマン! HIMEHINA LIVE、PARADISO WARADISOへようこそ!」と高らかにライブの開幕を宣言。ヒメ、ヒナが巨大LEDにうつ伏せで寝そべった姿で交互に現れて、実質1曲目(だが3曲目)の「WWW」を歌い出した。
今までの思いを集約して見事に心をつかんだオープニング。これに続く展開も怒涛の一言だ。何せ30分以上、13曲目までMCなしのメドレーをノンストップで歌い続けるという構成だ。HIMEHINAのライブにおいて、この初っ端メドレーは定番の流れなのだが、わかっていても「最初からクライマックス」のように興奮してしまう。
個人的には、時代に沿ったようなメドレーの組み合わせがグッときた。1stアルバム「藍の華」(あいのはな)から「ヒトガタ」「ヒバリ」、2ndアルバム「希織歌」(きりか)より「ボクラハ&ナイデ」「ヒバリ」「氷少女と陥落街」とライブに映える曲を盛り込み、3rdアルバム「提灯暗航」の曲につなげる。
それはまるで、後悔が残った過去3回のライブをみんなの声付きでやり直してるような感覚だ。
「その声に」「ずっと会いたかった!」
3年半も待ち、やっと実現できた。ステージで叫び、声出しを煽る彼女たちを見て、「これだよ!」と喜びで目を潤ませ、胸に熱いものが込み上げてきたというファンも多かったはず。
筆者は2階席で見ていたが、客席から立ち上がる興奮の熱気と、それをかき消そうとする冷房がかき混ざったライブ会場特有の湿度を感じ取り、「ライブって……やっぱりこれだったよね!」と忘れていた久しぶりの感覚に鳥肌を立てていた。
音楽や映像だけでなく、深いメッセージにも感銘
その後のライブは、MCを挟んでカバー曲やバラードメインのパート、アンコールと続いていく。1曲ごとは筆者が語るより、ぜひアーカイブを見て直接感じ取ってほしい。
といっても突き放すわけではなく、それが彼女たちのライブを伝える上で一番いい方法だからだ。今までHIMEHINAを知らなかった、または名前だけ聞いたことがあるという人でも、ライブ自体のクオリティーが非常に高いため、「歌うまいなー!」「映像すご!」と素直に楽しめるはず。
例えば、2人の歌声。アップテンポな曲は体の芯が震えるほど力強く、バラードば思わず体を横揺れさせてしまうほど美しく、カバーでは「こういう歌い方もいいね!」と思わせるようなパワーをそれぞれ伝えてくれる。その美声を生音のバックバンドと合わせて体全体で吸収できる……というのがHIMEHINAのライブの醍醐味だ。
舞台と映像の完成度も見逃せない。今回、HIMEHINAの2人はステージ中央に置かれた2つの「箱」に登場。これは2019年2月の「田中音楽堂」でも使っていた舞台装置だが、当時は確か背景が真っ黒だった。それが箱の内部をきちんと描写し、奥行きがあるように映すようにしたことで、ステージにおける2人の存在感を強めていた。ちなみにこの「箱」は、旧約聖書で契約の箱を示す「Ark of the Covenant」からとって「アーク」と呼ばれているという。
ステージの後ろにある巨大LEDでは、MVなどの映像や歌詞のモーションタイポだけでなく、一般的なライブのサービス映像のように「箱」の2人を望遠カメラで抜いて大きく映し出すというカットも表示していた。後半のバラードパートではこのズーム演出を多用し、歌声を発している彼女たちを集中して見られたのがよかった。途中のMCでは、例の土管を通って「箱」からLEDにワープし、2人が巨大化するという仕掛けもあって面白かった。
彼女たちの衣装も見所だ。率直に言えば、どれも可愛くてよく似合っていた。今回は夏ということもあってか、「うる星やつら」のラムちゃんやサンバなど、いつもより露出度の高い衣装もまとっていて、「そういうのもあるのか」と驚いた。
そうした特別に知識がなくても楽しめる音楽や映像に加えて、歌の歌詞や間に入る語りがライブに深みを与えている。「ジョジ」に向けた想い、VTuber業界、コロナ禍のような世相、そしてHIMEHINAの歌詞を多く手掛けるゴゴさん独自の世界観──。様々なテーマが織り込まれた言葉が彼女たちの声となって空間に広がり、ステージの諸々と一緒に体で受け止めることで、色々なことを考えるきっかけを与えてくれる。
筆者的には、VTuber業界を俯瞰したようなストーリーが心に残った。例えば、前述したMCの「僕たちはどこまできただろうか。たくさんの友が散った。失った絆も、失った未来も、欠けた月のように、鈍い光だけを残して心に暗い影を落としている」という言葉は、絆=キズナアイ、未来=ミライアカリ、欠けた月=輝夜月と、活動休止や卒業していったVTuberの仲間に思いを馳せているようでグッときた。中盤のMCでもこの3人の名前を上げていたが、長く活動を続け、今なお多くのファンを魅了している彼女たちだからこそ口にできる話だろう。
アンコールで歌った「希織歌と時鐘」のリミックスも同様だ。リミックスといっても実質、代表曲の短いサビを歌うメドレーで、「Mr.VIRTUALIZER」では卒業や引退していったVTuberが当時のMVそのままにバックダンサーとして映ったり、「流れ行く命」では「生きたいよ、生きたいよ、生まれてこれてよかった」と繰り返してVTuber活動を続けていられる喜びを伝えたりと、随所で歴史を感じさせていたのがよかった。
それより前面に出ていたのが、HIMEHINAと「ジョジ」の関係で、声を出してみんなで楽しもうというポジティブさだった。例えば、本編が終了し、「アンコール!アンコール!」の声が数分続いた後に始まった、オルゴールBGMの「うたかたよいかないで」合唱。コロナ禍中はファンから募集した声を合成で載せていたところ、今回、みんなが生で声を合わせる様子を体感できたことになる。
「ようやくだ。ようやくなんだ」
サビからラスサビまでだいぶ長い時間をとって、ファンの声だけがホールに響く中、そんな気持ちを抱いた人も多かったはずだ。
声が出せることで、コロナ禍につくられたオリジナル曲の歌詞の受け止め方も変わった印象だ。会いたいけど会えない、でも今は頑張ろうという同じ歌詞でも、当時はだいぶ悲壮感があったところ、ようやく声がだせるようになった今なら「あのときは辛かったな」と吹き飛ばせるように感じられた。
さらに2023年、まさにこのライブのために歌詞を仕立てたアルバム「提灯暗航」の歌詞もかぶさってくる。例えば、本編とアンコールのダブルでラストだった「閃光花火」にある「愛してる 愛してる 今日は幸せです」というフレーズは、彼女たちの本心がストレートに伝わってくるように感じた。そもそも元になったチョウチンアンコウ自体が雌雄で同化する特性があり、アルバムにも「ボクラはひとつ」という思いが込められている。
アンコールにおけるメッセージもだいぶポジティブだった。ヒメが口にした「念願の1stワンマンぶりにみんなの大きな声が聞けて、本当に幸せだよ。ありがとう!」という言葉。ヒナによる「やっぱり自分たちが作詞した曲、想いを込めた曲で、詞が誰かの心に届いたんだなって思って、それが今日すっごく嬉しかったの!」という告白。いずれも少し涙声だったが、それは以前のように辛さからくるものではなく、嬉しさが理由だろう。
単純にいい音楽と舞台演出だけでない、心を見透かしたような丁寧な物語でも観客の心をグッと引き込んでくれる。そんな深みもあるから、HIMEHINAのライブは毎回来たくなってしまうのだ。
このチームだから安心して期待できる武道館ライブ
ライブ体験に徹底的こだわれる背景には、2022年に株式会社LaRaを設立し、1億円でHIMEHINAの権利を買い取ったことも影響しているはずだ。株主などの意向を無理して汲むことなく、無理にお金稼ぎに走るわけでもない。ただ実現したいクリエイティブとファンに喜んでもらうことに真摯に向き合いたい──。
人気商売のタレントの世界において、彼女たちのようにチケットのソールドアウトが続いている状況なら、安易にオリジナル曲を増やし、ライブをどんどん打っていけば短期的には収益が上がるはずだ。でもあえてそうせず、自分たちがやりたいことや世界観、ファンが求めることのバランスとって体験をデザインしていく。そんな原点を忘れないからこそ、HIMEHINAチームのライブはファンを惹きつけてやまないのだろう。
この先に待っているのは、「5年以内に日本武道館でのライブ開催」という目標だ。キャパ8000~1万人という、今回の4倍ほどの大舞台に彼女たちが立ったときに、どんなライブを見せてくれるのか。ぜひ「JOJIVIP」「JOJIGOD」に加入しているファンなら今回のアーカイブを振り返りつつ、そのときを楽しみにして待ちたい。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク・「提灯暗航、夏をゆく」・HIMEHINA公式サイト
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引用元:https://panora.tokyo/archives/70450