コンピュータエンターテインメント協会が2023年8月23日(水)から25日(金)まで、パシフィコ横浜ノースならびにオンラインにて開催する“CEDEC2023(Computer Entertainment Developers Conference 2023)”。当記事では、その2日目に行なわれた講演“FINAL FANTASY XVI ~オールレンジのプレイヤーに向けたコンバットデザイン~”の内容を紹介していく。
広告
講演者はスクウェア・エニックスの第三開発事業本部コンバットディレクター鈴木良太氏だ。こちらの講演は、『ファイナルファンタジーXVI』(『FF16』)の幅広いプレイヤー層に楽しんでもらうことを目指したバトル制作方針、ならびにそのための具体的な制作手法の一部が紹介された。アクションゲーム制作における入門用としても参考になる内容だ。
万人が“不正解”のないアクションを楽しめるために
まずは従来の『ファイナルファンタジー』シリーズのバトルシステムについての振り返りから。
『FF』シリーズのバトルは初代から『FF3』までのコマンドバトル、『FF4』以降のATB(アクティブタイムバトル)システム、近年のナンバリングタイトルでのセミアクションバトルとさまざまな手法を用いて発展してきた。
『FF16』ではシリーズ初の本格派アクションゲームとしてコンバットパートのデザインを実施。加えて、幅広い層にゲームを手に取ってもらえるようなバトルデザインを目指したとのこと。檀上ではゲーム内の戦闘シーン動画が実例として紹介された。
リアルタイム性が高いバトルデザインでコンバットを構成するにはクリアーすべき課題がいくつかあった。想定されるプレイヤー層が従来シリーズファンのほか、アクションゲームを好むライトプレイヤー層やヘビープレイヤー層と幅広かったのだ。遊びかたが異なるそれぞれの層にリーチするため、従来のゲーム性からの大きな改革が求められた。
そこで目指したのは、それぞれの層にマッチする遊びかたの“多様性”。
『FF16』ではゲームの進行とともに主人公がさまざまな“召喚獣”の力を得る。多様性を生むために、これら召喚獣の力を用いた特殊なアクション“フィート”と、召喚獣ごとの必殺技のような大技“アビリティ”のふたつについて、アクションが苦手な層向けのものと得意な層に向けてのものを多数用意したという。
各プレイヤーは多彩なフィートとアビリティから自分にマッチしたものを選べる。同時に、プレイヤーごとの戦術が大きく変わる設計になっている。
『FF16』のバトルデザインが最終的に目指したのは、アクションが苦手な層にも「アクションをプレイできている」という実感を得て楽しめるようにすること。そしてアクションが得意な層には、「研究し甲斐がある」と感じてもらえる魅力的なバトルシステムとアクションであること。このふたつを両立すべく設計されたという。
ここでポイントになるのは、アクションが得意か不得意かで“効率性”に変化は出つつも、遊びかたに対してゲーム側から“不正解”をなるべく作らないようにするという点だ。以降、そのために実際に行なわれたアプローチ方法が紹介された。
敷居は低く天井は高く、成功体験と多様性をより重視
敷居が低く天井が高いコンバットデザイン
先述のとおり『FF16』のプレイヤー層には、従来のコマンドバトル形式のシリーズを遊んできたファンも含まれるため、リアルタイム性の高いアクションゲームを遊んできていない人でも楽しめる敷居の低さが必須となる。
『FF16』では敷居の低さを実現するために、難易度の側面からではなくバトル中のサポート機能を手厚くすることで対応。サポート機能を使用しても自分の手でプレイできているという“実感”を得られるようにすることがポイントとのこと。
敵の攻撃に合わせて回避ボタンを押すという、反射神経を求められる場面をスロー演出でサポートする機能“オートスローサポート”。あくまで回避ボタンは自分で押すという点が、アクションの実感につながる。
体力が減ると自動で回復アイテムを使用する“オートポーションサポート”。回復アイテムの性能を考慮し、回復量が無駄にならないタイミングを自動で判断する。
ボタン連打だけで敵との距離などを踏まえた最適の攻撃がくり出せる“オートアタックサポート”。ダメージ量が多い最適解が優先ではなく、習得してきた多彩な技が見栄えよく繰り出されるアルゴリズムになっている。
アクションが苦手な層のなかでもプレイヤーごとに苦手とする要素は異なり、攻撃アクションは自分で行ないたいが、回避だけはサポートしてほしいといったニーズもある。そこで『FF16』では、これらのサポート機能を装備品の効果として提供した。
装備品を付け替えることで、プレイヤー自身が苦手とする部分を任意でフォローできる。
従来のイージーやノーマルといった難易度選択では、多様なプレイヤー層に対して敷居の低さの設計が追い付かない。また、最初の難易度選択でイージーを選ぶことに抵抗を覚えるライトプレイヤーも多い。そうした層に対しても、この装備品による任意の機能提供は効果的に働く。
また、サポートで敷居を低くするにあたって、何も考えず□ボタンを連打しているだけで戦うなど、プレイヤーが考える要素がゼロになる調整は避けたという。そのため、他作品などで見られるオートバトルの機能は意図的に採用しなかった。
敵が予兆とともに広範囲の大技を放ち、そのあと大きな隙をさらす。ここは引くべきところ、ここは攻めるべきところというターン思考が見て取れる。
続いて、“天井の高さ”の実現についても解説された。
『FF16』にはプレイヤーの“技術介入”によりアクション性能が大きく跳ね上がる要素を多数採用している。この技術介入とはいわゆるテクニック要素であり、高度なテクニックに成功することで戦闘の“効率性”が向上する。
低難度のテクニック要素として調整された“ジャスト回避”。攻撃を引き付けて回避することで、敵がスローになったり、限定技を放てたりといったメリットが生まれる。
中難度のテクニック要素“マジックバースト”。基本攻撃となる剣での攻撃がヒットするたびに追加入力で魔法による追撃が可能。連撃威力の増加や、敵の体勢を崩しやすいというメリットがある。
高難度のテクニック要素“パリィ”。敵の攻撃にタイミングよく攻撃を合わせると発動し、敵の攻撃を中断。敵の攻撃ターンをこちらの攻撃ターンに無理やり挿げ替えられる。
今回紹介されたこのみっつはあくまで技術介入要素の一部。召喚獣のフィートやアビリティなど、ほかにもさまざまな技術介入要素が容易されている。
また、これらの要素ができないことによるペナルティーはなくし、討伐条件に含めるなど、できないプレイヤーに強要はしないという点も重要。成功時に得られるものが大きすぎると「やらなければいけない」という感情が生まれるため、成功してもすこし得をする程度の範囲に留めている。
戦闘における成功体験を感じやすくする
こちらは技術介入要素の調整方針にあたる。先述したジャスト回避やパリィの成立条件は『FF16』では意図的に緩めに調整されており、「うまく操作できている」と感じられる瞬間をより多くしているという。
針の穴に糸を通すような戦術に、針の穴をゲームバランスが崩れない範囲で大きくするというイメージだそうだ。
講演者の鈴木氏が過去に手がけたタイトルにはアクションゲーマー層をメインターゲットにした作品が多くあった。これらのパリィシステムでは、パリィが成立する受付時間は4フレーム(60ぶんの4秒)程度と、かなり短め。対して『FF16』ではトータルで13フレームと、前者の3倍に及ぶ長さに設定されている。
これは戦闘における成功体験を感じやすくするとともに、簡単すぎず難しすぎずというギリギリのラインを詰めた調整結果とのこと。プレイヤーのテンションが跳ね上がる瞬間を増やしつつ、プレイヤー自身に成長を実感してもらうこともまた狙いとなっている。
遊びかたに多様性を持たせる
さきに触れたとおり『FF16』では、ゲーム進行とともに主人公が多種多様な召喚獣の能力を得て、プレイヤーの戦術が大きく拡張されていく。全7体の召喚獣に合わせて、大きく分けて全7パターンにプレイヤーの戦術が変化するようにデザインされている。
最大3体までのどの召喚獣の能力を使うかというカスタマイズ性も用意されている。
召喚獣のフィートは戦術性を拡張する要素。アビリティは各召喚獣ごとの戦術の深みを作る要素だ。檀上では動画とともに、一部召喚獣のフィートとアビリティについて紹介された。
フェニックスの能力(フィート)で、離れた場所から敵の目の前に一瞬で移動できる。空中にいる敵に対しても使用可能な汎用性が高い能力だ。
ガルーダの能力は敵をプレイヤーの目前まで引き寄せつつ体勢を崩す攻撃的なもの。引き寄せられない大柄な敵相手でも特定のタイミングに使えば攻撃チャンスを生み出せる。
タイタンの能力は腕で攻撃を弾く防御特化型。引き付けて防御に成功すればほぼすべての攻撃を弾いて反撃できる、技術介入要素を好むプレイヤー向けの能力だ。
ガルーダのアビリティは敵の体勢を崩すものや敵を空中に打ち上げるものとなっている。攻撃的な能力と合わせることでアグレッシブな戦闘が可能だ。
タイタンのアビリティはスピードはなく予備動作も長いが、チャージにより破壊力が格段に高まる。タイタンのカウンター能力で敵に隙を作れば大振りなアビリティも決めやすい。
これらのアクションの調整では尖った部分と凹んだ部分を必ず設けつつ、凹んだ部分をほかの召喚獣アクションでカバーできるという点、ならびにずっと使われることがない“死にスキル”を出さないことが方針になっていたという。これらを用いた多様なプレイスタイルの一例も壇上で紹介された。
各召喚獣のクールタイムが長い大魔法を連発する火力特化スタイル。瞬間火力は随一だが、ここぞというタイミング以外ではアビリティ使用を控える必要がある。
敵の攻撃を誘いカウンター技で優位に立つスタイル。成功すれば攻撃性能が大きく跳ね上がり、アビリティのクールタイムも短縮されるが、つねに被弾のリスクを背負う。
これらの調整で目指したのは各プレイヤーがエンディングを迎えたときにそれぞれのカスタマイズが大きく異なるようになる形とのことだ。
操作キャラクターとプレイヤーの“リンク感”を上げる
アクションゲームで「ボタンを押したのに反応しなかった」という感覚を覚えた経験は多くの人にあるかと思う。
こういったケースは“操作感が悪い”という悪印象につながる可能性がある。アクションゲームが得意な層はクセのある操作感も受け入れてくれることが多いが、苦手な層にとっては操作感の悪さが大きなマイナス要素になる。
『FF16』では操作時の手触り感と、キャラクターとプレイヤーの“リンク感”についても重視して調整している。
まず、キャラクターが操作できないときには「操作できなさそう」と見て感じられるような、わかりやすいポージングを採用。ほかの行動でその行動の動作を中断し、即座に推移する“キャンセル”のタイミングについても、各アクションごとに細かな調整がされている。
檀上ではその一例として、“ランジ”(突進斬り)の調整が動画で解説された。
回転しつつ斬りつけた後、重心を低くして「動けない」という納得度を伝えている。
専用のエディタにより各アクションでのキャンセルが可能になるタイミングが別々に設定されている。ランジの場合28フレーム目からジャンプや回避が、48フレーム目から移動が可能となる。
敵の攻撃にも納得感を出すための調整
講演の最後にはプレイヤー編からエネミー編に解説が推移。エネミー側のアクション調整についても本作で実施された調整が紹介された。
ゲームオーバーになったときの納得度を上げる
アクションゲームでよくあるのが敵の様子を離れて伺っていたら、一瞬で接近されて一撃でやられてしまうなどといった展開。このような攻撃でゲームオーバーになった場合、理不尽感こそあれ納得度はまったくない。
こういった理不尽感を可能な限り払拭するために『FF16』ではみっつの調整が施された。まずひとつは攻撃の“予兆記号”の徹底だ。
敵の攻撃にはすべて、必ず予兆となる動作を入れることを徹底。
プレイヤーにそれが予兆動作であると気付いてもらえないケースを避けるため、感覚的にわかりやすい調整を実施したという。この予兆記号によって被弾したときの理不尽感を軽減しつつ敵の攻撃にカウンターを合わせたりと、プレイヤー側からの攻撃の軸にもなる。
“ギガース”の横振り攻撃の場合、体の捻りと武器を横に持つ動作を目立たせる。これらは誇張しすぎるくらいがちょうどいいと考えているとのこと。
攻撃動作でシルエットに大きく変化をつけ、放たれるタイミングが感覚的に伝わるようにしている。
ふたつめのエネミー側の調整として、“カメラ外からの攻撃の抑制”が紹介された。これは近接攻撃をする敵に限った調整で、遠距離攻撃をしてくる敵が画面外から攻撃してくる場合、警告のアラートを画面端に表示するというもの。
画面外の近接敵は、まずはカメラ内に入ってくる移動行動を最優先。カメラ内に入ったことを検知した敵のみ攻撃を開始する。
エネミー側のみっつめの調整は“攻撃権のチケット制の導入”だ。
敵が大量に出てくる場面で、多数の敵が制限なしに一斉に殴りかかってくるとなると、戦闘難度に大きなゆらぎが生まれる。そもそもアクションゲームが苦手な層には複数の敵に同時に対処することが困難だ。
調整しない場合、このように敵が一斉に駆け寄って殴りかかってくる。これだけで戦闘の難易度が格段に上がってしまう。
そこで『FF16』では、システム側から枚数が限られた“チケット”を受け取った敵のみが攻撃行動をするように調整した。
このチケットは攻撃後にシステム側に返還され、ほかの敵に渡される。このチケットはベースとなる“アクションフォーカスモード”では2枚まで、ゲームクリアー後に解放される“ファイナルファンタジーチャレンジ”では4枚まで、チャレンジコンテンツである“アルティマニアックチャレンジ”では8枚まで同時に配られる。
このチケット制の対象になるのは通常エネミーのみで、ボスエネミーは対象になっていない。
チケットを受け取っていない通常エネミーはストライフ移動や、演出行動といった様子見行動を取る。
このチケット制は、コンテンツの難易度調整にも非常に効果的だったとのこと。また、盛り上げる演出として通常エネミーを20体出したいなどといった場面でも、20体が同時に攻撃してくるといった状況を防げる。
調整の成果は、プレイしてみればさらに分かる
以上で本講演は終了。総括では、今回の講演で紹介された内容について、『FF16』を実際にプレイすることで確認できる内容になっているとも説明された。
『FF16』は、製品版だけでなく体験版も引き続き配信されている。上述の調整が実際のプレイ中にもはっきりと確認できるので、興味を持った人はぜひ実際のプレイで“成功体験”や“リンク感”、“納得感”などいった要素を確認してみてほしい。
PS5『ファイナルファンタジーXVI』の購入はこちら(Amazon.co.jp)
...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202308/25314438.html