2023年8月23日~25日の期間に開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2023(Computer Entertainment Developers Conference 2023)”。
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本記事では、23日に開催されたカプコンの『ストリートファイター6』(以下、『スト6』)にまつわるセッション“『ストリートファイター6』対戦を熱く盛り上げる自動実況機能の取り組み”をリポート。
セッションの前半で『スト6』に搭載されている自動実況システムの仕組みについての解説が披露され、後半からは実況としてのセリフ作りや、英語版のローカライズ方法などが公開された。
登壇したのは、プランナーの薮下剛史氏、プログラマーの岩本卓也氏、ローカライズディレクターのアンドリュー・アルフォンソ氏の3名。
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2023年8月23日~25日に開催された“CEDEC2023”。初日に行なわれたセッション“『ストリートファイター6』(スト6)ワールドツアーモードにおける2D格闘システムと3Dレベルデザインの関係”の模様リポートする。
薮下剛史氏。自動実況のほか、バトルハブやコラボ関係などさまざまな分野に関わる。対戦格闘ゲームが好きでカプコンに入社したそうで、とにかくいろいろな作品が好きとのこと(『ウルトラマン ファイティングエボリューション』を挙げるのはシブい!)。
岩本卓也氏。自動実況の実装を務めた。入社時から『ストリートファイターV』に関わっている。入社前から格ゲープレイヤーであり、大会の実況をよく聞いていたことから担当者となったそうだ。
アンドリュー・アルフォンソ氏。カナダ出身で、『モンスターハンターポータブル 2nd G』より現在に至るまで『モンスターハンター』シリーズの数々や、『ストリートファイターV』のローカライズを担当。じつは『ソウルキャリバー』勢で、海外大会に出場したこともあるそうだ。
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初心者を呼び込むための自動実況
『スト6』の自動実況機能とは、オンにすると試合展開に合わせて音声とテキスト(テキスト表示オフも可)により、適切な実況を適宜入れてくれるシステム。『ストリートファイター』シリーズとしては初となる意欲的な試みとなっている。
まずは薮下氏より、なぜ『スト6』に自動実況を取り入れたのか、そのきっかけが語られた。発端は、ふだんから対戦格闘ゲームを遊んでいない人たちにとっては、どうしてもハードルが高く見えてしまう点にあった。何が起きているのか、どんな駆け引きがくり広げられているのか、正直見た目ではわかりにくい。
しかし、対戦格闘ゲームはやり込めばやり込むほどに奥深い楽しさを持っている。「それを知らないのはもったいないです」と語る薮下氏は、対戦格闘ゲームのおもしろさを知ってもらうきっかけとして、自動実況システムを取り入れたのだ。
ちなみに、対戦格闘ゲーム界においては、セガの『バーチャファイター5』シリーズが自動実況システムが取り入れていた。もとはアーケード版のリプレイ動画保存用のオマケ的機能で、のちに家庭用で対戦中にも実況を付けられるようになった。約17前の話で、セガはいつも時代が早すぎる。
自動実況により何が起きているかの解説をし、起きていることがスゴイことであると盛り上げる。
そして大会に参加しているような気分と緊張感を味わってもらうことで、プレイヤーに楽しんでもらう狙いもあったそうだ。
自動実況の設計について
目的がわかったところで、つぎはプログラムとしてどのような設計になっているのか、薮下氏が解説。まず事前準備として、技や行動・状況など、各シチュエーションで何をしゃべるのかすべて設定。セリフがなければ、もちろん実況にはならない。
内部的には、用意していたセリフがバトル中にシチュエーションと一致した場合、リストの中にチェックマークを付けて、“話すことができるセリフ”としてマークするという。この段階では、まだ音声は流れない。
リストを内部で毎フレーム(1/60秒)チェックしており、マークされたセリフ群から優先度をつけている。その中から、もっとも優先度の高いセリフが流れるようになっている仕組みだ。
セリフを作る条件は、既存の『ストリートファイター』シリーズを参考に、実際の実況者の方々が言っているようなセリフを大会実況などを聞いて洗い出していったという。シリーズ作品の根本的な駆け引きやルールを中心に、まずは選定したそうだ。
新システムに関する実況は、実況者が反応しそうなポイントを予想して洗い出したのだとか。発売前なので、もちろんまだ世界で誰も実況したことがない。何度もテストプレイを重ねて「ここは実況者が言及してくれそうだ」と、駆け引きの盛り上がりを肌で感じながら決めていったそうだ。
他社へ向けたアドバイスとして、この方法ができたのは『ストリートファイター』シリーズが長い歴史を持つ作品だからと、薮下氏。従来の楽しさと駆け引きがゲームの根本にあるからこそ、新要素にじっくり時間を掛けられた。完全新作の場合は条件設定が難しいだろう、と分析していた。
セリフの条件はかなり細かく設定されており、350種類以上の条件があるという。たとえば通常投げの場合、ヒット状況から体力状況まで見ているので、バリエーションは非常に多い。
続いては、セリフ数の決めかた。各条件に合ったセリフを用意すればいいわけだが、基本的にはひとつの条件につき専用のセリフを用意したという。たとえば通常投げの場合は「投げる!」というセリフが、ほかの行動では絶対に発せられないセリフになっているそうだ。
ほかの行動で同じセリフが出てしまうと、そのワードが頻繁に出てきてしまうため、プレイヤーが飽きないようにバリエーションを増やしたという。
また、ひとつの条件につきセリフの数やボリュームはバラバラ。体力がギリギリの状況など、試合が大きく動く場面や、よく見るシチュエーションではバリエーションを持たせるために、セリフ数は多めにしたそうだ。
そして、セリフの数は本セッションで明かされた“テンションシステム”にも関連している。
実況者の興奮度を伝えるテンションシステム
テンションシステムとは、ようは自動実況のセリフが試合の状況に合わせて勢いや言葉の強さを決めるシステム。試合の流れや展開に合わせて、内部的には自動実況者のテンションが変わってくる。
たとえば実際の大会実況で通常投げを決めた場合も、試合の序盤には淡々と「投げる」と言い、もう1発で試合が決まるという瞬間には「投げるーッ!」という感じに、言葉を強く発することが多い。それを再現するのがテンションシステムなのだ。
システムの内部にはテンション係数というものが存在し、試合の展開に応じて変動。そして各ラウンドその係数をもとに、テンション値が増加していく。そのときのテンション値に応じて、1から5まで用意されたテンション別のセリフを再生する、という仕組みになっているそうだ。
テンション係数
テンション係数は、実況者が展開に応じて熱くなる・盛り上がることを数値化するもの。何が実際の実況テンションに影響するのか、大会の試合などを通じて注目してみたところ、残り体力がテンションに影響を与えていると薮下氏は分析した。
狙いとしては、試合の勝敗を左右する、残り体力は少なければ少ないほどにテンション係数を高くしたい。また、プレイヤーどうしの体力差が少ない状況も見ているという。お互いギリギリの接戦ともなれば、テンション係数は最大値になるわけだ。
テンション係数の内訳は、体力は0.0から1.0まで数値が動き、体力が少ない側のプレイヤーの体力を参照して変動するという。プレイヤーどうしの体力差がすごく開いているときは0で、開いているときは0.5の値になるそうだ。加えて体力差には最低保証の0.5が入っている。最低保証があるのは、大幅にリードしている状況でもテンションを上げてほしいからだという。
これらの条件で値を割り出し、体力差の数値×体力でテンション係数が決まるというわけだ。ただ、これだけだとシンプルすぎて、少し物足りないと感じたのだとか。そこから、残り時間も参照してみることに。残り時間ギリギリというのも、試合の盛り上がるポイントのひとつだ。
残り時間については、短くなるほどテンション係数がアップ。タイムアップを意識しなくてもいい時間帯で変動しても意味がないので、変動するのは30秒を切ってから。タイムアップが迫るごとに、だんだんとテンション係数が上がっていくというわけだ。
結果的にテンション係数は、体力差変数に残体力変数か残時間変数を掛け合わせて決めるものを採用。残体力変数と残時間変数は、より数値の高いほうを選ぶようになっている。
テンション値
テンション値は各ラウンドでそれぞれで変動する幅が決められている。その幅の中で、テンション係数によって変動するようになっている。たとえばファーストラウンドは、最大約3レベルのテンション値にしかならないようになっている。
その理由は、すごくいい試合をしたとしても、1ラウンド目でテンション値が上がり切ってしまっては、収拾がつかなくなるからだ。また、ファイナルラウンドのみテンション値が最大の5レベルに達するようになっている。また、ラウンド開始時、ラウンドごとに決められたテンション値にリセットされるため、ずっと低いという状況はないのだとか。
セリフにはそれぞれテンションレベルが設定されており、そのときのテンション値によって再生される音声を選んでいく。また、テンション値には呼び出せる可能範囲がそれぞれ決まっていて、たとえばテンション値が3.4など細かくなる場合は、よりテンション値に近いほうが選ばれるようになっている。
セリフ数とセリフの調整
これらのシステムに合わせてセリフを選定していったところ、最終的にボツになったものも含めて約4000セリフを用意することになったという。
セリフの内容は汎用的なものが80%を占めており、「波動拳」、「昇竜拳」に関するものなどはキャラクター固有の実況が20%となっているようだ。
大量にあるセリフとテンションの設定は、考えただけでも膨大な作業量。どのように調整したかというと、技術的な要素はナシ。ひたすら人力でセリフごとのテンション値を設定し、トライ&エラーを重ねながら調整していったそうだ。
バトル中にどのセリフが呼び出されたか集計するツールなど、デバッグ用ツールは多数用意していたが、それでも作業の物量はとても多かったのだとか。そしてそのセリフが、本当にそのテンションレベルで合っているのか、というバランスについては、明確な正解はない。ここは感覚による調整だったという。
大量の物量をひとつひとつ手作業で潰していく泥臭い作業ではあったが、実況者を除くと関わったスタッフが4人と、超少数のチームだったこともあり、試行錯誤については逆に手早い作業が実現できたのだとか。
見えてきたプログラムの課題
ここからは、プログラマーの岩本氏による解説。システムとセリフは構築できたが、それをシステムに落とし込むとなると技術的な面で課題も生まれてきた。
まずこのセリフ量をリアルタイムで参照しつつゲーム内で再生するとなると、やはりゲームへの負荷がすごく掛かってしまう。仮で取り入れてみたところ、つねに60FPS(フレームレート)で描画することができなかったという。細かい攻防が多いため、滑らかに安定して動くことが求められる対戦格闘ゲームにおいては致命的な課題だ。
また、組み込んだあともクオリティアップを図るために仕様変更や追加などが想定されたため、制作が進むとより負荷もアップすると予想。その点を考慮しながら、システムを構築する必要があった。
もうひとつの課題が、オンライン対戦時の課題。『スト6』はロールバックネットコードというシステムを採用しており、簡潔に言えば快適にオンライン対戦を楽しめるもの。細かく言うと、バトルの進行に合わせて特定の状況ではバトルを内部的には巻き戻しており、対戦相手の入力情報に合わせてバトルを内部で早送りし、スムーズなネットワーク対戦を実現している。
そのため、自動実況システムがシーンを参照してセリフを再生したとしても、早送りや巻き戻しが掛かったときに、本来の状況ではない嘘のセリフを放ってしまう場合がある。
それらを解決するために、実況システムは0.3秒前の状況を見て音声を再生するようにしているという。もともとロールバックネットコードは現在の状況から、過去の状況の情報をある程度保持している。実況システムはさらにその過去の情報を見るようにしているので、早送りや巻き戻しに干渉しないというわけだ。
過去を見ることにしたおかげで、思わぬ恩恵も多数あった。変更前は0.1秒レベルの処理を瞬時に続ける必要があったので、急いでバトルの状況を見て、バトルの状況からセリフを参照し、そしてサウンドを再生する必要があった。更新後は、過去のバトル状況を見るということは、過去のバトル状況はすでに確定しているため、安定したセリフの参照ができるようになった。
もうひとつの恩恵が、リアルな実況を再現することにつながったということ。少しだけ過去の状況を見るということはセリフは遅れて再生するわけだが、実際の実況者たちは超反応でセリフを発しているわけではない。人間らしい確認の速さで、状況を見て言葉を発している。狙っていたわけではなかったそうだが、それを再現できたのだ。
また、負荷の問題はテンションシステムの5段階のレベルの仕様を駆使し、現在再生されるかもしれないセリフのみを保持するように調整。おかげで読み込むべきセリフの更新数を約40%ほど削減。
ただし、テンションレベルごとにセリフ数が変わると、負荷も変動してしまう。呼び出せる範囲の中でセリフ数を均等に分ける必要があった。薮下氏がそこを考慮して選ぶセリフ数をコントロールしたため、うまく均等になるようにできたという。
最後に岩本氏は、プログラマー目線から実況システムを作ってみた感想を述べた。まずロールバックネットコードを採用したゲームは、実況システムと相性がよかったと語る。相性が悪そうに見えるものの、実際にはセリフ再生が遅れても違和感がないので、バトルに影響しないシステムを構築できた。
結果的に負荷としては余力を残している段階で、まだ手を加えてクオリティアップを図れるような状況だという。
そして実況システムには、対戦格闘ゲーム部分と実況に関して、深い理解のある企画担当が必要ということもわかったという。システム的にはバトルの状況に合わせて音声が流れる、というシンプルなもの。だからこそ、セリフ配分や物量のコントロールを企画とプログラマーが理解しないとクオリティの高いものは作れないそうだ。
「ほかの対戦格闘ゲームにも応用できると思うので、つぎの開発者に伝えられればと思います」と語り、岩本氏による解説は終了となった。
ふたりの実況者を選出した理由
続いては薮下氏に戻り、どのように実況担当者を選んだのか、というお話。まず、自動実況システムで目指した目標を叶えるためには、リアル大会に参加しているような感覚が味わえることが前提のため、生の声が必要だった。カプコンが架空の実況者キャラクターを作って言わせるのではなく、実在の人物を取り入れたかったそうだ。
「恐縮ではありますが」と前置きしつつ、実況者を選ぶ基準も語られた。まず膨大なセリフ量をずっと聞いていても、違和感のない人。そして、しっかりと盛り上がりを演出できる人。最後に、現役の実況者でプレイヤーたちにも認知度の高い人。最後の理由はゲームのプロモーションも兼ねており、実際の大会で実況している人に、自分も実況してもらえるというワクワク感を産み出したかったそうだ。
結果的に日本語版で決まったのが、『ストリートファイター』シリーズの実況者としておなじみのアール氏。アール氏は対戦格闘ゲーマーでもあるため、自動実況システムに関するアドバイスも多く、取り入れた要素も少なくないという。
もうひとりが、元アナウンサーのeスポーツキャスター・平岩康佑氏。FPSなど、ほかのゲームジャンルでの実況も担当しており、ジャンルの垣根を超えてより多くのプレイヤーに遊んでもらいたい想いから選んだそうだ。
セリフ選び、つまり台本については、実況者たちの発言を優先したそうだ。事前に台本を作ってはいるが、収録したときに出てきた生のセリフを優先しているという。台本は収録しながらリアルタイムでガンガン変わっていったそうで、これにより本人っぽさがより自然な形で演出できたそうだ。
また、セリフっぽくならないようにもしたという。実況なので、言葉が聞きにくくても勢いのよさが評価され、採用した音声も多いそうだ。さすがに採用が難しい音声の場合は再収録したが、多少のことならば実際に使用する音声として採用していたのだとか。
なお、プレイヤーを下げる、ミスへの指摘などは取り入れていないという。プレイヤーの行動を否定する、というのはもちろん倫理的に採用しないだろう。ミスの指摘は、ミスの判断が難しいからだという。あえて取った行動の可能性もあるので、ミスへの指摘は自動実況で基本言わせないようにしたという。
テンションレベルは5段階と言っていたが、当初はテンションが低い・普通・高いの3段階だったそうだ。たとえば、テンションが普通から高いレベルになったとき、いきなり元気に実況しだすような感じになってしまい、違和感があったという。その結果、5段階で感情のグラデーションを出すように変更。ジャストパリィシステムを例に、以下のような振り分けにしたとのこと。セッションで実際に流れたセリフはアール氏のもの。
テンションレベル1:「この攻撃はジャストで止めた さぁここからどう動く?」(落ち着いた感じ)
テンションレベル2:「うまく噛み合わせて! ここからどうする!?」(1よりも若干抑揚がある)
テンションレベル3:「このジャストパリィで流れは変わるかぁ~!?」(セリフ速度が速く 勢いがある)
テンションレベル4:「ジャストで取ったぁ~! 反撃が始まるぅ~!!」(いい試合展開に興奮気味)
テンションレベル5:「うぉぉぉぉ!! ジャストパリィ~ッ!! うますぎだろぉ~~~!!」(試合の決着を決定付けるような大興奮の状態)
テンションレベル5のセリフは大興奮の状態ゆえに、あまり聞くことがない。そのため、セリフの中でも数はいちばん少ないそうだ。ただこれが聞けたときには、相当いい試合ができたことがわかるような狙いもあるそうだ。
英語版はオリジナル台本
ここからはローカライズを含めた、英語版の自動実況システムについて、アンドリュー氏が披露。英語版はまず台本を作る前に、実況者の選定から始めたそうだ。選定理由としては、大規模大会で実況経験があること、将来的にアップデートでセリフを追加できそうな人を選んだそうだ。若すぎず年を重ねすぎていない、丁度いい塩梅の経歴や年齢が求められた。
また、カプコンのeスポーツ部門と連携し、カプコンプロツアーのレギュラーキャスターにする狙いもあったという。そして英語版に選ばれたのは、Vicious氏とTasty Steve氏だ。ふたりはお笑い芸人でいうボケとツッコミのような関係性で、相性もバツグンだという。
台本は日本語版の翻訳ではなく、各実況者それぞれのオリジナルになっている。アール氏の放つ「パニッシュカウンター 一閃!」などの特徴的なワードセンスをそのまま英語にすると、英語圏では意味のわからないことになってしまうからだ。
ちなみに「パニッシュカウンター 一閃!」は、Tasty Steve氏版だと「ワォ! パニッシュカウンターで宇宙を救った!」という実況になっている。ほかにも「上はケアしている!」(相手の飛び込みを注視していた、という意味)という実況は、Tasty Steve氏版は「落ちた! 地球にお帰り!」的なセリフに。コメディ要素の強いワードが選ばれているが、英語圏では大きく評価されているそうだ。
なぜオリジナルにしたかというと、せっかく海外の実況者を選んだので、やはりその実況者の色を出したかったことが、台本作りの大前提。また、採用されているスラングは日本だけで通じるもので、英語圏では通用しない。
たとえばリュウの特殊技“鳩尾砕き”は古来より“大ゴス”と呼ばれているが、英語圏にはそのスラングがない。海外だけのスラングもあり、波動拳や真空波動拳は“プラズマ”と呼ぶそうだ。
バリエーションもまったく異なり、マリーザの必殺技“クアドリガ”がヒットした際には以下のセリフを放つ。
アール氏「さあクアドリガ!」
Vicious氏「イタリア製ブーツでやっちまえ!」
Tasty Steve氏「ゴーーーール!」
Vicious氏はマリーザがイタリアのファイターであることから、キック攻撃に対する冗談を交えたり、Tasty Steve氏はアメフト由来のスラングを使ったりと、かなり個性が強いことが分かる。
収録については、日本語版の音声の長さに完璧に合わせるのは難しいので、システム側で音声が0.5秒伸びたり縮んでも問題ないセーフゾーンが設けられているという。また、自然な演技に聞こえるように、一部のセリフにはあえてリアクションだけの言葉を入れているそうだ。たとえば、「あ~この状況は投げへの意識が高いか!」という感じで、話し言葉に聞こえるように調整していったのだとか。
ユーザーの反応で気づいたことも
最後のまとめは、薮下氏にバトンタッチ。そしていざリリースしてみたところ、自動実況システムは当初の狙い通りの評価を概ねもらえたとのこと。ポジティブな意見が多く、動画を見ることがメインの層や、カジュアル層の興味を大きく引けたと薮下氏は語る。
そこから気づいたのは、技名や固有名詞を呼んであげることで、没入感が上がること。また、技名やシステム名を教えることで、プレイヤー知識を広げることにもつながる。しかしアップデートでキャラクターが追加されれば、その都度追加しなくてはならないため、作業はよりたいへんになってしまうそうだ。
また、“これ それ”などといった、曖昧な指示語は使わないほうがいいなと感じたという。そういったセリフはいくつかゲーム内に組み込まれているが、展開が早い中で“あれ”というセリフが流れたとしも、プレイヤーは「いまのって何に対して言ったの?」と戸惑う人もいるようだ。
ネガティブな意見としては「セリフの中身が薄い」という意見。対戦格闘ゲームゆえに、奥深い実況を望んでいる人も少なからずいたようだ。ただ「これは想定内ではあったのかなと思います」と、薮下氏は語る。
理由としては、対戦ゲームはアップデートを重ねて技やキャラクターの性能などが変わることが多々あり、高度な駆け引きも環境や時間とともに大きく変化している。マニアックな言及をしてくれる実況機能も可能なのだが、アップデートで駆け引きが変わっていったときに、間違った状況を実況してしまう可能性がある。そのため、深い言及はしないように設定していたという。
反応からの新しい発見もあり、実況者たちのセリフはある程度決めつけたセリフも好まれることがわかった。たとえば平岩氏の実況で、相手を対空攻撃で倒した際「上への意識がしっかりできていました! KO!」と言う。
実際には相手の飛び込み攻撃を警戒していたか、自動実況システムでは判定していない。意識せずに振った技かもしれないし、コマンドミスで出た技かもしれないし、本当に意識していたのかもしれないが、「上への意識がしっかりしていた」と言われるわけだ。まぐれだろうと「そうだよ? 意識してたよ?」とウソでもドヤれるので、プレイヤーに喜ばれる要素だったそうだ。
また、ゲーム配信は配信者がしゃべるので、配信文化とは相性が悪いと考えていたそうだが、意外と相性がよかったことに驚いたという。対戦中は集中しているのでしゃべらないタイプの配信者は、自動実況を場つなぎとして使う人も少なくなかったようだ。
そして、セリフに対して反応しておもしろがる、という配信者もいて、こちらも楽しく見ていたようだ。例としてはあげられなかったが「VTuberの方々の切り抜きがいくつかアップされているので」と、薮下氏は言っていたので、ぜひ検索してみるといいだろう(個人名は控えるが、“アールさんに八つ当たり”とYouTubeで検索するのが個人的にオススメペコ)。
最後はこれらの情報をまとめつつ、「方向性の決定とセリフ数の見積もりが重要です」と、薮下氏。セリフの条件は無限に用意できてしまうため、つねに取捨選択を心掛けながら用意していくのが大事だと語り、本セッションは終了となった。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202308/31315109.html