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いまだから語れる『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』開発者インタビュー。“遊び優先”を貫いて完成させた驚異の続編【ティアキン】 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com

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『ブレス オブ ザ ワイルド』を超える衝撃。驚異の続編はいかにして生まれたか
 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、『ティアーズ オブ ザ キングダム』)の発売から4ヵ月。シリーズ最高傑作との呼び声も高い『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、『ブレス オブ ザ ワイルド』)の続編として、プレイヤーの大きな期待を受ける中で発売された本作では、その期待を遙かに超えるボリュームと、圧倒的な自由度、そして壮大なスケールの物語が展開。広大なハイラルの大地と大空、さらには地底までも舞台にした冒険は、世界中の人を魅了し、新たな“発見”や“創造”が日々生まれている。

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 今回その魅力ある世界を作り上げた任天堂の開発チームから、プロデューサーの青沼英二氏と、ディレクターの藤林秀麿氏にインタビューを実施。発売後のいまだから語れる秘密などを直撃してきた。
 なお、一部ストーリーなどに関するネタバレを含む“ミンナニ ナイショダヨ”の話もあるため、未プレイの人、まだ冒険途中の人などは注意してほしい。

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青沼英二氏(写真右)(あおぬま えいじ)

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』プロデューサー

藤林秀麿氏(写真左)(ふじばやし ひでまろ)

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』ディレクター

発売まで隠し続けた地底世界は超短期間で作成!?
――最初に、開発の初期の話をうかがいたいのですが、開発は『ブレス オブ ザ ワイルド』の制作終了直後から始まったのでしょうか?
青沼「開発が始まる」と言うのが、具体的に何を指すのかは難しいですね……。『ゼルダの伝説』シリーズは、1タイトルを作り終えると、すぐにつぎを考え始める流れになっていますから。藤林は、つぎに何の新しい遊びに挑戦するのかを考えていましたし、僕は僕で続編を作るべきなのか、それとも新しい世界の『ゼルダの伝説』にチャレンジすべきなのかを考えていました。そうやって考え始めた時期で言うと、『ブレス オブ ザ ワイルド』の有料追加コンテンツ(第1弾『試練の覇者』、第2弾『英傑たちの詩』)の開発が終わってすぐ、というころになりますね。
――任天堂公式サイトの「開発者に訊きました」で、『ブレス オブ ザ ワイルド』のフィールドに、前作のパーツだけを組み合わせて戦車などを作ったという話がありましたが、それはいつぐらいの時期だったのでしょうか?
藤林それも追加コンテンツの開発が終わってからですね。追加コンテンツもかなり力を入れて作っていたので、そのあいだに頭の片隅で別途考えていたものを、開発が落ち着いてから実際に試してみたと記憶しています。
青沼当時の藤林の企画書には、新たな能力をわかりやすく説明するために、“ペンパイナップル”(※)と書いてありました(笑)。
――ああ! まさに、ウルトラハンドやスクラビルドの楽しさがすごくイメージしやすいですね。
※ペンパイナップル(ペンパイナッポー):2016年にYouTubeで世界的に大流行した、古坂大魔王さん扮する“ピコ太郎”による歌“PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)”のワンフレーズ。
――本作は、当初“『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』続編”という仮称で発表されていました。『ゼルダの伝説』シリーズファンの中には、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998年11月21日発売)の続編として、約1年半後に発売された『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』(2000年4月27日発売)を思い出し、冒険自体も大規模なものではないのかなと考えた人も多かったと思うのですが……。いざ蓋を開けたら、冒険の規模も、もの凄いものになっていて驚きました。これは、開発当初から想定していたのでしょうか。
藤林単なる続編として、新要素を少し追加しただけにはしたくなかったので、まったく新しいものを作ろうと考えていました。じつは、『ブレス オブ ザ ワイルド』を作っているあたりから、別方向で作れるというのは気づいていたのですが……、『ブレス オブ ザ ワイルド』が目指す方向と異なっていたので、当時はそのアイデア自体に蓋をしていました。
――それは、新要素の洞窟や、地底世界だったりするのでしょうか。
藤林地底はもう少し後ですね。続編の基本になっているのは、“『ブレス オブ ザ ワイルド』のシステムでほかのことができる”ということでした。洞窟や地底世界は、“ウルトラハンドでいろいろなモノを作る”という“遊び”ができたあとに、その“遊び”をさらにおもしろく膨らませる方向として生まれました。
 ちなみに語弊を恐れずにいうと、地底世界はびっくりするくらい短い期間でできています。
――ええっ!? そうなのですか?
藤林 こう言うと、「そんなに簡単なものじゃない!」とスタッフに怒られるのですが(笑)。厳密にいうと「地底世界のベースとなる地形が出てきたのは超短時間だった」ということなんです。
 地底世界は、地上と反転の関係で地上フィールドの高いところが地底では低く、逆に川など低いところは高くなり壁になっています。これはもともと地上のエリアを作るとき、川で分けてレベルデザインしていたので、そういう反転地形を作れば、同様にエリア自体が川のあった場所で分けられ、自然にレベルデザインされた地形がもう一つできあがるんです。ですので、それが検証してみたくて、お話ししたようないくつかの条件をプログラマーに伝えて相談したら、速攻でプロトタイプが出てきて。
青沼藤林だけではなくそのほかのスタッフたちも、前作を作ってきた流れの中で「『ブレス オブ ザ ワイルド』の材料を使って、何か違うことができないかな?」といろいろ試していました。そうした中、自動化のアプローチでプログラマーが短時間で実現してくれたんです。
藤林 もちろん、そこから長い時間を掛けて調整を行い、現在の形になったのですが、ベースを作り上げるための時間自体はあまりかかっていません。
青沼時間や労力があまりに掛かり過ぎてしまうことは、まず僕が止めますから。「いや、これ意外と手間がかからずに作れるんですよ」、「じゃあ、やろうか」みたいな形で導入が決まりました(笑)。

――となると、地底世界はまずフィールド自体を作って、そこからどういう要素を入れるかを考えた、ということになるのでしょうか。
藤林いえ、“遊び”が先ですね。『ブレス オブ ザ ワイルド』のときもそうでしたが、『ティアーズ オブ ザ キングダム』でも、“ゲームのサイクル”を、さらに新しいモノにできればと考えていました。
――それは具体的にはどのようなことでしょうか?
藤林簡単に言うと、地底を、すごく暗くて怖い“準備が必要なフィールド”として作り、そこを探索するための準備を、地上や、ちょっと不思議なアイテムが手に入る空で行うという構造にしています。
 地底ではハートの回復手段が限られているので、自分が事前に準備してきたものだけで探索して、危険になったら地上に戻り、また準備をして地底に挑戦してもらう……という“サイクル”ですね。このサイクルを作るために、プレイヤーが地底に潜りたいと思わせる、地底にしかないもの、アイテムなどを配置しています。
――確かに、古びた地図などをゲットすると、また地底に潜って探索したくなりますね。
藤林そして、地底で探索と発見を楽しんでもらおうとすると、地底が暗いほうが、どれだけ自分が潜ったか、どれだけ開拓したかがわかりやすくなってよかったんです。
青沼たいまつを持って暗闇を照らすのは、シリーズの伝統的な遊びのひとつですが、あれだけ広いところをダイナミックに自分で光源を点けながら探索していくのは、いまのハードの性能だからこそできる“遊び”なのかな、と思いますね。

――発売前のプロモーションでは、空が舞台であることが前面に押し出されていたので、みんなの目は空に向いていましたが……実際にプレイしたらとてつもなく広い地下世界が存在して、プレイした誰もが驚いたことと思います。見事なサプライズだったと思いますが、「プロモーションで地底世界を見せたい」という考えはなかったのでしょうか?
青沼そこは、ディレクターの藤林が「絶対に隠したい」と言っていました。
藤林地下世界があることをゲーム内で知ることも、『ゼルダの伝説』の“発見”と“探索”の“遊び”なのかな、と思ったんです。「まさか、そうなっているとは!」と思っていただけたほうが、プレイしたときに、最大限に世界を楽しんでもらえると考えて、プロモーションでも触れないようにお願いしました。
青沼それに、部分的に地底を切り取って事前に見せたとしても、きっと「ああ、暗い世界もあるのね」で終わってしまいますよね。地底世界は地上からシームレスに全部つながっているのが驚きだと思うし、そこで遊びが展開することを、切り取った形で発売前に全部伝えるのは無理だと考えたんです。
 実際に体験してもらったうえでなければ楽しさが伝わらないということであれば、発売前にあえてお見せしないほうがいいだろうと。

――我々も完全に手のひらで踊らされて、本当に驚きました(笑)。改めて、地底世界をどのように肉付けしていったのか教えてください。
藤林今回の遊びのテーマのひとつに、“縦の遊び”というのがあります。『ゼルダの伝説』シリーズでは、“表・裏”とか、“過去・未来”という対の関係からなる遊びをよく取り入れていますが、今回も、“空と地上”、“地上と地底”が、じつは背中合わせになっていて、上下で対の関係になっています。
 たとえば地上ですごく気になるランドマークがあった場所は、その地下にも何かがあったり、地上でゾナウの遺物がたくさん落ちている場所から空を見上げると空島が見えたりと、上下のつながりを推測できるようにフィールドをデザインしています。ダイビングで空から地底までシームレスに飛び降りられるのも、その“縦の遊び”から取り入れたものですね。
――シームレスで空から地上を突き抜けて地下に移動できるというのは、技術的にもたいへんなことをされているのでは?
藤林そうですね。プログラマーがかなり工夫しながら、最後までいろいろ調整して、最適化を進めて実現してくれました。
青沼じつは開発の終盤まで、シームレスになっていなかったんです。途中で読み込みが間に合わなくて、リンクが止まって落下しなくなったりしていました。
――やはり相当に困難なことだったのですね……。
青沼プログラマーは「大丈夫です」と言うけど、終盤までずっとそんな状況が続いていたので、「これ本当にシームレスにできるよね?」と何度も確認して……でも、最後の最後にはしっかり実現してくれました(笑)。

――(笑)。今回、本作をクリアーする時間が、個人の体感としては100時間くらいかなと思いました。1本のゲームの一般的な平均クリアー時間を大幅に超えていると感じたのですが、これは当初から想定していたのでしょうか。それとも作り込みすぎた結果そうなったのでしょうか?
藤林最初の企画段階から、確かに長く遊んでいただくような想定をしていました。
――当初から想定されていたのですね。
青沼『ゼルダの伝説』は、要素と要素をかけ合わせることで楽しさが増すということで、よく“かけ算の遊び”と言っているのですが、新要素を入れたら、プレイ時間もかけ算で長くなり、それによって生まれるよい面もあると思うんですよね。多くの人に長い時間じっくりプレイしてもらえることで、コミュニケーションが生まれて、ほかの人に伝わっていくという点です。
 昔は、速攻でクリアーしちゃってそこで終わり、となってなかなか広まらなかったものが、今回は時間をかけて広がっている。やはりそれは、多くの人に長く遊んでいただけている結果だと感じています。
シンプルだからこそ組み合わせが自由に
――今回、リンクの能力が『ブレス オブ ザ ワイルド』から刷新されていますが、これは最初から決まっていたことでしょうか。前作からの変更に迷いはなかったのでしょうか。
藤林『ゼルダの伝説』の新作を考えるときに、まずは大前提として、リンクの能力でどういう“遊び”ができるかを考えるところから始まります。ここで前作のシーカーストーンの4つの能力を引きずってしまうと、“遊び”自体が変わらないことが、明確にわかっていたので、決断であったり、迷いというのは、そもそもなかったですね。
※シーカーストーン:前作『ブレス オブ ザ ワイルド』でスタート直後に手に入る重要アイテム。ゲームを進めるにつれてさまざまな能力が追加されていき、探索を進めるうえで不可欠なリモコンバクダン、マグネキャッチ、ビタロック、アイスメーカーなどの能力を使えるようになる。
――新たに導入された、ウルトラハンドやトーレルーフなどは、能力自体の汎用性が高く、プレイヤー次第でいろいろな使いかたができてしまいますが、やはり開発は大変だったのでしょうか?
藤林前作を制作した際のスキルが、おもにプログラマーなどスタッフの中に蓄積されていたので、リンクの新たな能力を使うとどんな不具合が起きうるのか、ある程度は想像できていました。ですので、事前にハイラル世界の“建築基準法”みたいなものを作り、スタッフで共有しましたね。
青沼だから、前作のベースがなければ、ここまで思い切ってやれなかったかな、とも思います。
――“建築基準法”、気になりますね(笑)。ウルトラハンドは、対象を回転させたり、角度を変えたりと、直感的に操作できますが、現在の形はスムーズに決まったのでしょうか?
藤林ここは今回の開発で、何回もテストプレイを重ねて、スタッフがいちばん工夫や時間を掛けたところです。
 わかりやすく言うと、当初イカダを作るまでに5手(5回の手順)かかっていたんですよ。でも、スタッフに「5手では長い。これを4手でやれるような感覚にならないと、面倒臭くて誰も作らないよ」と話して、4手で作れるようにしてもらいました。そして4手でできると、「こうしたら3手でいけるよね」と、さらにスタッフと手数を詰めていって、最終的には「2手、1手になったら最高だよね」と少しずつ手順を減らす形で最適化をくり返して、あの形になりました。
――プレイヤーが作りたくなる手軽さを追求したのですね。
藤林当初は、回転する角度も1度単位で行えて、まさしく好きな形のものが作れました。でもそこはトレードオフで、実際に角度まで細かく設定してくっつけることに満足なさるプレイヤーよりも、少ない手順でプシュッとくっついたほうがうれしいと感じるプレイヤーのほうが多いのではないか、と。

――となると、やはりブループリントは、ウルトラハンドのお助け要素的な能力として導入したのでしょうか?
藤林ブループリントは、テストプレイしていたときに自然に出てきたアイデアです。やはり、一度作ったものをもう一度作り直すのは面倒に感じますから。
 また、開発側からも「こういうものが作れますよ」とウルトラハンドの使いかたを言葉を使わずに提案することができますし、ブループリントの設計図を、ゲーム内でプレイヤーが入手できる“お宝”としても使えるな、と考えました。
――ゾナウギアについては、多くの種類があり、SNSなどでもユニークな使われかたをされているものもあって楽しいですよね。実装するゾナウギアは、どのような基準で決められたのでしょうか。
藤林たくさんの候補から、できる限りシンプルで、でも機能が際だって、特徴を持っているものを選んでいます。それぞれのゾナウギアで何ができるのかを100%想像し切れていたわけではないのですが、きっとその作りにしておけば、まさにプレイヤーの方々が動画で上げてくださっているように、想像もしないようなものが生まれるだろうと考えたんです。そうした遊びを狭めないように、開発側が個性を付けたり、「これはこういう風に使ってもらいたい」というこだわりは入れないように心掛けました。
 そういうこともあったので、候補はもっとたくさんあったのですが、その中でもできるだけシンプルで汎用性の高いものを、みんなでプレイしてモニターを取ったり、プレイした結果で取捨していって、現在の数と種類になっていきました。

――ゾナウギアは、1回叩くと自動的に起動するのがシンプルで使いやすい反面、うっかり起動してしまったりしますよね。クルマに乗れずに走り去られたり、思わぬ失敗も起きたりします。あのあたりの少しの不便さも含めて意図したものでしょうか。
藤林じつはこの形に至るまでに、もっと起動に時間がかかるようにしたり、暴発しないようなアイデアを実装したりして、いろいろ試しているんですよ。ただそうすると、先ほど話した「5手が4手、3手」にならなかったりするんです。
 また、暴発が起きるであろうこともわかってはいたのですが、それが笑えるという一面もあるように思いまして。現在の形が、ゲームとしておもしろい状態なのではないかと考えています。
青沼スイッチみたいなものを作ると、それを押す行為を新たに行わなければならなくなる。そうではなく、原始的に叩けばいいや、ということにすれば、離れている場所から矢を当てても動きますし、いろいろな形で起動させることができるので、理にかなっているんですよね。
――遊んでいて、すごく動画配信の時代に合った、動画映えする要素だなと感じました。思わぬリアクションが発生して、それを笑い話のように話せるのも、凄くおもしろいなと。
藤林開発スタッフも、開発中にチーム内で動画をやり取りする場所に、「こんなのできた」と、いろいろなモノを作ってアップロードして楽しんでいましたね。
青沼スタッフが楽しみだしたら、「よっしゃ!」みたいな感じですね。スタッフがそういうものに手を出さずに、仕事だけをガチガチやっていて、「もう、いいや」みたいになってしまうと、あんまりいいゲームはできないんじゃないかと。スタッフが開発中のゲームで楽しみだしたら、きっとおもしろいゲームが作れている証拠だと思ったんです。
藤林開発スタッフの全体会議で、スタッフが作った動画からピックアップして「おもしろいものがあるよ」と紹介したりしていましたね。すると、「僕も紹介されたい!」という社内インフルエンサーを目指すスタッフが出てきて、クリエイティブが加速するし、みんなの発想が自由になっていくんです。
青沼これは開発スタッフが多いことのメリットだと思っています。よく、「プレイヤーの意見を参考にしているのですか?」と聞かれることも多いですが、もうスタッフ全員がある意味プレイヤーの塊ですから、ある程度は事前の反応がリサーチできるんです。
――ちなみに、前作『ブレス オブ ザ ワイルド』で採用していた、ゲームをスタッフ全員で遊び、意見をフィードバックすることをくり返す開発スタイルは、今回も続けられたのでしょうか?
※詳しくは前作のインタビュー記事にて。

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青沼はい、もちろんやっています。
藤林新しいスタッフも、「当然あるんでしょ?」、「いつやるの?」、「このタイミングでそろそろ遊べるかな?」みたいな感じでした(笑)。
――前作では、誰がどのようなルートで進んでいるか、やられた場所はどこかを確認するツールもあったと思いますが……。
藤林今回は、モニターするためのツールも、前作『ブレス オブ ザ ワイルド』の時よりさらにパワーアップしたものを使ってデータを取りました。
青沼今回は、フィールドが横だけでなく、縦もありますし。縦の動きはどうだったのかも、しっかりチェックしましたね。
プレイヤーのクリエイティブと思いつきを尊重した謎解き

――前作では、試練の祠やダンジョンの謎解きに“3つ以上の解法”を用意していたとお聞きしましたが、今回も同じように作られたのでしょうか。
藤林そこは変わらないですが、正解! となる方法や状況が前作よりも多くなっています。その結果、「クリアーしたけど、これが本当に正解だったのかな?」となることもあるかもしれません(笑)。今回はプレイヤーのできることを、よりクリエイティブな方向に振っていることもあり、むしろ解法が3つよりも多くないと、なかなかうまくクリアーできないだろうな、と思いました。
――かなり強引に突破できてしまうことも多いですよね。
青沼人によっては、板と板を何枚もつなげて長い板を作って、単純に橋として渡したり、立て掛けたりして突破するのが最強じゃない? って言っている人もいますね。
――長い板で強行突破するのが好きな人は多いみたいですね(笑)。
青沼「これはやってはいけないんじゃないかな?」ということができちゃったときの喜びは、すごいですからね。
――そこまで許容してくれるのが、プレイヤーとしてはうれしいですよね。
青沼それが楽しければ、全然オーケーです。やはり作業になってしまったらおもしろくないので、そのさじ加減は難しいところではありますが、かなり気をつけて調整しています。
――プレイヤーの反応と言えば、発売後すぐに、プレイヤーのあいだでコログの「もう疲れちゃって 全然動けなくてェ…」がSNSでバズりましたが、あれは狙って仕掛けたものなのでしょうか?
藤林バズり自体を狙っていた訳ではないのですが、ウルトラハンドやゾナウギアで、コログがどういう扱いをされることになるのかというのは、なんとなく想像はできていました。
――ああ、乗り物にくっつけたり、投げたり、高いところから落としたり……。
藤林そのときにプレイヤーの方が思い付いたことを、「かわいそうだからやめておこう」とは思ってほしくなかったんです。どんなことでも罪悪感なく、ニコニコして楽しくやれるようなキャラクターにしてほしいとオーダーして、あんな形になりました。じつはあの口調やキャラクターは、担当したスタッフ本人とそっくりなんですよ。

――お会いしてみたい!(笑) ほかにもフィールドで印象に残ったキャラクターとして、看板を支えているカバンダがいますが、彼はどういった経緯、狙いで誕生したのでしょうか。
藤林カバンダは、キャラクターからでなく、機能から生まれています。ウルトラハンドと物理演算で遊ぶゲームを、フィールドでさりげなく遊べる形でできないかなと考えて導入した、シンプルなパズルゲームですね。
――確かに、看板が倒れないようにというのは、わかりやすいです。
藤林ただ、そのパズルが無機質だとあまりおもしろくない。そこも旅コログじゃないですけど、冒険しているプレイヤーが、見付けたときに気になって立ち寄ってくれないかなという形で、あのキャラクターが生まれました。ちなみに作った担当者は、旅コログと同じ人物です。
――そうなんですね! ますますじっくりお話してみたいですね。ちなみにゾナウギアの浮遊石でカバンダの看板を簡単にクリアーできてしまうのは、いいのでしょうか?
藤林じつは浮遊石は、いろいろなところに使えたりします。つねに浮遊石でクリアーしてもらっても構わないですし、ほかにもいろいろなクリアー方法があるので、それを試してもらってもいい。プレイヤーの方に楽しんでいただけるのであれば、クリアー方法を自由に選べるのも“遊び”だと思って作っています。

『ティアーズ オブ ザ キングダム』の物語のテーマとは?
※ここからのインタビューはストーリーに関するネタバレを含みます。プレイ中の方はご注意ください!

――今回、物語もとてもドラマチックで魅力的ですよね。とくにシリーズの宿敵であるガノンドロフが、ひさびさにとことん悪いヤツとして描かれていて印象的でした。今回の物語で描こうとしたテーマは何でしょうか?
藤林今回の物語は、ガノンドロフありきではなく、続編であることが決まっていたので、前作と世界がつながっていることを活かして、ゲームの中で“生きた人間の成長を描く”ことがテーマのひとつでした。
 さまざまな人間の成長を描くうえで、やはり大きな存在となるのはゼルダ姫です。彼女は前作で、ハイラル王国がシーカー族の技術に頼り過ぎたことで、王国が滅ぶトリガーを引いてしまった、そのせいで民が苦しんだという、自責の念がありました。だから、『ティアーズ オブ ザ キングダム』では、シンプルに"王国の復興”を唱えず、自分の立場で何をすることがベストなのかを悩んでいて、そんな状態のときに今回の事件が起き、彼女は過去の世界に飛ばされてしまうんです。
――なるほど。前作では自分自身の不甲斐なさに悩むシーンが印象的でしたが、今作ではそこから成長し、ハイラルに住む民のためにできることをしていたという形跡がたくさんみられました。
藤林そして、ハイラルの建国の時代に行ったゼルダ姫は、国を作った王ラウルとそれを支えた王妃ソニアと出会うのですが、彼らとの交流を通して、「国とは?」、「王とは?」を間近に見て成長していく。その流れの中で、民に尊敬される王だけでなく、絶対悪の王という存在が欲しかった。そこで、ガノンドロフがもっとも適しているキャラクターだと思い、魔王として物語に登場させました。ですので、彼は彼で、魔の王としての矜持を持ったキャラクターとして描いています。

――ガノンドロフは、成長を描くうえで重要なキーとして必要だったのですね。
藤林あと、前作『ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイしてくださったお客様の最終的な感想や思い出を聞いたときに、皆さんすごい時間をかけて、ゲーム内でいろいろな体験をし、自分なりの物語をプレイしてくださったことがわかったんです。「蓄積された自分の苦労が、最後にゼルダ姫を救うことで報われたときに、ものすごく感動できた」と。
 これって、お客様自身の成長で、その成長や体験からくる、その人だけの感動なんだろうと感じたんです。そして、これはゲームだからできる手法だろうというのも。ですので『ティアーズ オブ ザ キングダム』では、ゼルダ姫たちの成長以外に、そのお客様の成長がゲームをクリアーしたときに、より特別なものになる仕組みにしたいと考えていました。
――今回、ゼルダ姫はたいへんな目に遭いますが……。
藤林長い冒険の末、再会するゼルダ姫そのものが深く描かれていたほうが、先ほどお話した理由で、お客様の体験がより豊かなものになるだろうと考えました。そのため、ゼルダ姫にスポットを当てたカットシーンが多かったりします。

青沼ちなみに皆さん、過去に飛んだゼルダ姫の運命って、どのあたりで気づき始めました?
――僕は該当のムービーシーンを見て、でした。編集部にはマスターソードを手に入れるまで気づかなかった人や、 “龍の泪 ミネルの助言”でピンと来た人など、いろいろですね。
青沼じつは僕の知り合いでふたりほど、序盤にマスターソードを手に入れちゃった人もいるんですよね。「あれ、これどういうこと!?」みたいな感じになって、ゲームを進めていくという(笑)。
――その幅広いプレイを容認しているところは、本当にすごいですね。
藤林”どんな遊びかたをしてもよい”を成立させるために、さまざまな工夫をしています。
青沼物語やゲームとしての辻褄を合わせるように、多くの皆さんがゲームでは見ないようなシーンも、じつはけっこうたくさん作っています。
――ストーリーに関わる大きなところ以外にも、天候によって絵描きのカンギスのセリフが変わるなど、細かい部分のセリフのパターンなども前作より多い気がします。
藤林セリフのパターンに関しては、開発途中だと「それは本当にかける時間と労力に見合うだけの価値があるのか?」と議論することが多く、ハンドリングがいちばん難しいところでした。でも、そういうところをきちっと作り込んだほうが、ゲームが生きたものになると思っていたので、開発後半にゲームの形がある程度固まった後で、集中的にセリフを増やしました。
青沼ローカライズグループからは、「なんだ、このテキスト量は!」って(笑)。ものすごく驚かれましたね。
――ストーリー的には、前作にもゾナウ文明の遺跡はありましたが、続編の可能性はある程度考えていたのでしょうか?
藤林当時は、続編の可能性はいっさい考えずに、『ブレス オブ ザ ワイルド』を全力で作っていました。「後で何かあるかもしれないから置いておこうか」となると、本末転倒になってしまうので。
青沼そうそう、毎回全力投球ですから、そんな先のことまで考えてないですよ(笑)。
藤林『ブレス オブ ザ ワイルド』の制作時に、いろいろな設定を深掘りして置いていましたが、それは、『ブレス オブ ザ ワイルド』の世界をできるだけ生きたものと感じていただけるようにするためです。結果的に、その中のひとつとして、ゾナウ文明が『ティアーズ オブ ザ キングダム』で伸ばしていけそうだとなって、世界や物語を作っていくことになりました。
 ですので、ものすごく思わせぶりにフィールドに存在しているけど、まったく触れられることなく終わったものもあったりもしますが、ゲームで語られなかった“謎”をゲームの外で考えて楽しむのもゼルダらしい“遊び”なのかなとおもっています。
――今回、ライクライクやゴーマなど、『ゼルダの伝説』シリーズおなじみの魔物が復活登場していますが、追加された魔物はどのような形で決まったのでしょうか。
藤林じつは作り手側としては、“復活”という感覚はないですね。魔物もアイテムも、ストーリーも、全部“遊びが先”でして。
 魔物で言うと、前作の強敵だったライネルのような強敵を新たに欲しいという考えが最初にあり、今回フィールドに空が追加されたので、“その強敵は空にいると映えるよね”となったときに、羽があって身体の大きい敵として、シリーズの過去作に登場したグリオークがぴったりハマる、という流れで決まりました。
 一方、初登場の魔物のホラブリンは、今回洞窟が新たに追加されたことで、洞窟の天井から攻撃をしてくる敵が増えたら……、と考えて、シリーズの過去作を探したけれどいなかったため、地形と相性のいい長い棒を武器にする新しい魔物として誕生しました。
青沼ゴーマにしても、ユン坊の突進攻撃で戦う敵として、足があって、足を破壊するとダウンするという仕組み、そしてトーレルーフで通り抜けて上に乗れる魔物を考えたときに、ゴーマみたいなものがいいだろうと。大前提として“遊び”ありきなのです。

シリーズの時系列について
――毎回恒例でお聞きしていますが、『ゼルダの伝説』の時系列として、今回の『ティアーズオブ ザ キングダム』は、どこに当てはまりますか? 『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』では始祖を描き、『ブレス オブ ザ ワイルド』で最後を描いていましたが、『ティアーズオブ ザ キングダム』は『ブレス オブ ザ ワイルド』の続編でありつつ、ハイラル建国の話もあるので始祖にもなりえるのかと…………。
藤林『ブレス オブ ザ ワイルド』の後の話であることは間違いないです。そして、基本的に『ゼルダの伝説』シリーズは、破綻しないように物語と世界を考えています。現時点で言えるのは、その2点のみです。
 「破綻しない」という前提があれば、ファンの方々にも「ということは、それじゃあこういう可能性も?」といろいろ考えていただける余地があると思うんですよ。あくまで可能性として話すとすれば、ハイラル建国の話があってもその前に一度滅んだ歴史がある可能性もあります。「ここをこうしたらおもしろいんじゃない?」といった適当では作っていませんから、あえて語られていない部分も含めて、想像して楽しんでいただければと思います。
――なるほど。では、気になる次回作のお話を聞きたいのですが……。さらなる続編なのか、新しい舞台なのか、いろいろな可能性があると思います。
藤林次回作かどうかはわかりませんが、“つぎの楽しい体験”は何なのか、を考えています。それがどういう形になるかというのは、現時点ではわからないとしか言えません。
青沼今回は追加コンテンツの発売予定はないのですが、それはあの世界で遊びを作ることを、やり尽くした感じがあるからです。そもそも今回、前作の続編にした理由は、新しい遊びが、あのハイラルの場で体験することに価値があると思ったからなんですよね。ならば、そういう理由が新たに生まれれば、また同じ世界に戻るかもしれないです。続編にしろ、新作にしろ、それはそれで、まったく新しい遊びになると思うので、楽しみにしていただけるとうれしいです。
――『ブレス オブ ザ ワイルド』で上がった次回作へのハードルを、今回『ティアーズ オブ ザ キングダム』でまた超えてしまっただけに、「さらにすごいもの作ってくれる」と、プレイヤーの期待値がより高くなったような気がしますが……。
青沼藤林を始め開発チームは、それをハードルとは思っていないので、ぜひ期待していてください!
――おおおっっっ!!!
藤林『ゼルダの伝説』シリーズを歴代作ってきたスタッフたちも、つねにそう思って作っていたと思います。多くのお客様に『ティアーズ オブ ザ キングダム』を長く、深く遊んでいただけていることはとてもありがたいことですので、次回作ももっと喜んでいただけるように、がんばりたいと思います。
――それでは次回作、楽しみにしております。もちろん『ティアーズ オブ ザ キングダム』もまだまだ遊ばせていただきます! 本日はありがとうございました。

...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202309/06314767.html

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