『名探偵ピカチュウ』シリーズを生み出したクリーチャーズ常務取締役の陣内弘之氏とポケモン代表取締役社長 CEO兼クリーチャーズファウンダーの石原恒和氏にインタビューを実施。『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』開発の裏話やこだわりはもちろん、『ポケットモンスター』の誕生から関わるレジェンドのおふたりだからこそ話せる、貴重な想い出話や誕生秘話にも注目。
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インタビューは石原社長セレクトのこだわりコーヒーとともに──
インタビューは、クリーチャーズオフィス内の“ハイハットカフェ前”で行われた。このスペースはゲーム内でも登場するカフェを社内に再現したもの。石原社長が焙煎されたこだわりのコーヒー(非常に飲みやすくておいしい)を、お手製のカップでいただくという何とも貴重な体験に、ファミ通取材班は一同大興奮!
コーヒーを淹れてくださったのは、『ピカチュウげんきでちゅう』の開発を担当し、現クリーチャーズ取締役でハイハットカフェ副店長の小澤宗明氏。
なお、 “おっさんピカチュウ”は深煎りの濃いコーヒーが好きで、コーヒー好きという設定は、“名探偵っぽさ”が理由らしい……!
石原社長お手製のカップ
石原恒和(いしはら つねかず)
ポケモン 代表取締役社長 CEO
クリーチャーズ ファウンダー
『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』エグゼクティブプロデューサー
『ポケットモンスター 赤・緑』を始め、ポケモンのビデオゲーム全作品でプロデューサーを務める。また、株式会社ポケモンにおいて、ビデオゲームのほか、カードゲームや映像・アプリなどのプロデュースとブランドマネジメントを手掛けている。
陣内弘之(じんない ひろゆき)
クリーチャーズ 常務取締役
『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』ゼネラルプロデューサー・シナリオディレクション
『ポケットモンスター 赤・緑』や『MOTHER2 ギーグの逆襲』の開発を手掛けたのち、ポケモンの関連ソフトやテレビアニメの開発に携わる。
レジェンドが語る『ポケットモンスター』誕生時の思い出
――『名探偵ピカチュウ』シリーズについてお伺いする前に、まずはおふたりとポケモンの関わりについて改めてお訊きしたいと思います。
石原陣内くんとは『ポケットモンスター 赤・緑』(以下、『ポケモン 赤・緑』)からなので、長い付き合いですよね。『ポケモン』のスタート地点からずっといっしょに関わってきたわけですが、当時のことは覚えていますか?
陣内クリーチャーズが設立されたのは1995年の 11月ですが、それよりも前に田尻さん(※)が石原さんのもとに作ったゲームソフトを持ってきて、石原さんが「遅いぞ」なんて言っていましたよね。ふたりともキラキラした表情ですごく楽しそうに最終調整を行っていたことが印象深く、いまでも当時の光景が鮮明に思い出せます。
※田尻智氏……ゲームフリーク代表取締役。『ポケットモンスター』シリーズの生みの親。
――おふたりが楽しんで作られたから、素敵な作品になったんでしょうね。いまやポケモンは世界中の人たちから愛される存在になりましたが、ここまでの存在になるというビジョンはいつごろ見えていましたか?
石原ゲームフリークとのいちばん初めのプロジェクトが動き出したのは1980年代で、そもそもビデオゲームというものが、ようやく世に出てきたくらいの時代です。ゲーム開発は未経験の人間が当たり前で、みんながどうすればいいのか模索していました。そんな状況でしたから、最初は国内で盛り上げるだけで精いっぱいで、海外展開は考えていませんでした。
陣内まずは設立したばかりのクリーチャーズおよびゲームフリークさんの経営面の安定を確保することが最優先だったと記憶しています。『ポケモン 赤・緑』のブームが爆発的だったので、逆に何かのきっかけで急速に熱が冷める可能性も危惧していました。次回作の『ポケットモンスター 金・銀』が発売されるまで、なんとか人気を維持しなければと必死でした。
石原世界を意識しだしたのは、任天堂から欧米展開の話をされてからです。『ポケモン 赤・緑』が発売された1996年か、その翌年だったと思います。まだ国内だけでもたいへんだと感じていたので、風呂敷を広げることにやや不安はありました。しかし、Nintendo of Americaからの助言があり、成功へつながったかと思います。
――その助言というのはどのようなものだったのでしょうか?
石原当時アメリカでは、テキストベースで物語が進むRPGがまだあまり受け入れられていませんでした。日本では最初にゲーム、つぎにカードゲーム、そしてテレビアニメという順番で世に出しましたが、アメリカではそうした事情を鑑みて最初にポケモン自体を知ってもらうべくテレビアニメ、つぎにゲーム、そしてカードゲームという順番で展開していくというものです。
陣内すでに日本国内では大きく盛り上がっていたこともあり、先にテレビアニメを展開する戦略がうまくハマっていたと思います。アニメがヒットしたおかげでゲームやカードゲームも売れて、そこからは本格的に世界も視野に入れて考えるようになりました。
長年模索した“人の言葉をしゃべるポケモン”のひとつの到達点
――本題の『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』に関するお話をお伺いできればと思います。まずは『名探偵ピカチュウ』シリーズの立ち上げの経緯から教えてください。
陣内前提からお話しすると、クリーチャーズでは、『ポケモン』に関する派生作品をおもに担当しています。“ポケモンえほん”シリーズを始め、『ポケモンレンジャー』シリーズや『ポケパーク』シリーズ、そして『名探偵ピカチュウ』シリーズです。ポケモンというコンテンツのメインとなるのは、やはり『ポケットモンスター』シリーズとポケモンカードゲーム、テレビアニメの3本柱だと思います。近年では『ポケモン GO』も名を連ねる印象ですね。それらのメインコンテンツに対して、我々の扱う関連タイトルはあくまでもサブであると一歩引いた立ち位置を取りつつ、それでもメインのコンテンツに何かしらプラスの影響を与えたいという想いで作っています。
――そんななかでも『名探偵ピカチュウ』はどうして企画を考案したのですか?
陣内『ポケパーク』の開発が終わり、つぎにどんなゲームを作ろうか考えた際、『ポケモン』の派生タイトルの中ではあまりないアドベンチャーゲームに目を付けたんです。ただ、ふつうに作ってもおもしろみは生まれない。いろいろと考える中で“しゃべるおっさんピカチュウ”を味付けに加えたことで、『名探偵ピカチュウ』が形になってきました。
――確かに、中身はおっさんのしゃべるピカチュウというのは、ほかには絶対にないですね……!(笑)
石原最初は、「ピカチュウが人の言葉をしゃべるのはダメでしょう」と思いましたよね(笑)。テレビアニメでも長らくピカチュウ役の大谷育江さんが、鳴き声だけですばらしい演技をしてくれていて。ただ、テレビアニメの中でもニャース以外にもいろいろなポケモンが人の言葉をしゃべるようになる未来の可能性について、模索していた時期はあったんです。
――そうなんですか!?
石原やはりコミュニケーションを深くするためには、言葉が大切なのだという考えのもと、試行錯誤しました。けっきょく、なしということでいったん話はまとまったのですが、それでも何か方法はないかと考えることは続けてきました。中身が“おっさん”というのは突飛な発想だと感じましたが、同時に可能性も感じました。その後さまざまな実験を経て、ようやく行きついたのが『名探偵ピカチュウ』なんです。
陣内結果として多くの方々に受け入れてもらえたと思っていますが、作り手としても設定が固まっていく過程でこのピカチュウのことをどんどん好きになっていました。
――それこそハリウッドで映画化もされ、魅了された人は多いと思います。映画化が決まったときの衝撃はすさまじいものがありました。
陣内そうですよね。テレビアニメではニャースがポケモンたちの言葉を翻訳し、人間たちに伝えてくれました。ゲームでは『ポケモン不思議のダンジョン』、『ポケパーク』でポケモンどうしが話している内容が理解できる造りでした。本作は、人間とポケモンが言葉で通じあう、というのが大きなテーマで、我々もしゃべるおっさんピカチュウで何かしらの映像作品を作りたいという想いが強くありました。当初は深夜アニメでもいいからどうにかやれないかと検討していたのですが、石原さんから「ハリウッドでやるから」という話を聞いて、本当にビックリで(笑)。
石原もともとポケモンで映画を作りたいというオファーはいろいろとあったのですが、テーマを何にするか決めかねていました。そんな中で『名探偵ピカチュウ』が形になっていくにつれ、ピカチュウがしゃべることができるのなら映画として成立させやすいのではないか、と考えるようになりました。あとはその理屈や世界観に納得感をいかに持たせられるかというところを突き詰めていきましたね。
陣内映画のシナリオ会議にも私は最初から参加していて、最終的にゲーム完結編として考えていたプロットを映画で採用することになりました。またピカチュウたちのCG監修も弊社のCGスタジオを統括する氏家淳子が中心となって手掛けておりまして、じつはクリーチャーズも映画制作に大きく関わっているんですよ。
――映画公開後の反響を受けて、どのように感じられましたか?
陣内先ほどもお話ししましたが、人間とポケモンが言葉で通じあうというテーマがハリウッドで実現し、それがお客さんに受け入れられて「間違っていなかった」と、ホッとしましたね。……まぁ、あまりにも出来がよすぎて、我々が作ったゲームが霞んでしまわないかという心配もありましたが(笑)。
謎解きが億劫なら飛ばしてもオーケー!? 時代のニーズに合わせた斬新なアドベンチャーゲーム
――そんな映画『名探偵ピカチュウ』の公開から4年、ゲーム『名探偵ピカチュウ』からはじつに5年越しとなる続編『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』がいよいよ発売されます。続編となりますが、前作を遊んでいなくても楽しめるのでしょうか?
陣内もちろんです。冒頭で前作の物語を振り返るパートを用意していますし、本作では前作とは異なる新しい事件の謎を解いていくことになります。前作をプレイしていない人や映画を見ていないという人でも問題なく楽しんでいただけるように作っていますので、安心してプレイしていただければと思います。
――完結編ということですが、『名探偵ピカチュウ』シリーズはいったんここでひと区切りに?
石原はい。前作に続く物語が、映画とは異なる形で結末を迎えることになります。
陣内ティムとピカチュウ、そしてハリーの物語はこれで終わりです。ただ、スタッフもみんなしゃべるおっさんピカチュウが大好きなので、もしかすると何か本筋とは別の展開があるかも……?
石原現時点でお約束することはできませんが、『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』が好評で、かつ皆さんからの要望が大きければ、スピンオフなどを描く余地はあります。
――それは非常に楽しみですね! 『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』で前作から変化したポイントについて教えてください。
陣内まずはハードがニンテンドー3DSからNintendo Switchに変わったことで表現の幅が広がっています。また画面がひとつになったため、UIも一新しています。ゲームシステムの面でいうと、前作は操作できるのがティムだけでしたが、本作ではピカチュウを操作して調査を進めるパートがあります。以前のピカチュウはティムとポケモンが会話する際の通訳のような役回りになっていましたが、本作ではピカチュウとポケモンたちが直接会話する様子を楽しんでいただけます。
――ポケモンとピカチュウが直接会話する様子は、プレイヤーがテキストでどんなやり取りをしているのか確認できますよね。ポケモンたちが話す様子を描く中で、大切にしていた点などはありますか?
陣内ポケモンには一匹ずつ性格があり、個性があります。本作ではピカチュウがガーディやヒヒダルマ(ガラルのすがた)、レントラー、ゴロンダたちの力を借りて調査を行うのですが、この4匹についてはとくに、生活環境や設定を基に深めて表現しています。
――ほかにも本作の注目ポイントがあれば教えてください。
陣内ポケモンと人間が共生しているライムシティの風景をすみずみまで見てほしいです。ムービーの品質も上がっているので、この世界観を存分に味わってもらえればと思います。また、先ほども説明したように力を貸してくれるポケモンたちとの調査の際には、ピカチュウがポケモンたちに乗って移動するので、そうしたポケモンどうしのふれあいにも注目してほしいです。
――協力してくれるポケモンたちはどのように選ばれたのですか?
陣内まずは謎解きの仕組みとの親和性などで何匹かの候補を出しています。最終的には、そのポケモンを愛するスタッフの意思がわりと反映されていると思います(笑)。
石原このポケモンにピカチュウを乗せてみたいとか、ピカチュウもこのポケモンに乗ってみたいのではないかという視点でも考えられていましたね。
――本作では推理パートや現場検証でどれが正解かを教えてくれる“正解表示”機能や、クリアーしていなくても好きなエピソードを選んで遊ぶことができる“つまみぐいモード”といった、アドベンチャーゲームとしてはかなり珍しい機能が盛り込まれていますが、これらを実装した狙いはどんなところにあるのでしょうか。
石原時代が進むにつれ、プレイヤーが求めるものや体験したいものは大きく変わってきていると思います。もちろんすみずみまでじっくりとプレイしたい人もいるでしょうし、早くストーリーの続きを見たいから、謎解きパートはぱぱっと終わらせたいという人もいるでしょう。また、自分でプレイするよりほかの人がプレイしている動画を見て楽しむという人も多いですよね。そうした需要があるなら、それを満たすための仕組みがあるべきだろうと考えたんです。
陣内もちろん、制作側の立場としては最初から最後までじっくりプレイしてもらえたほうがうれしいのですが、それよりも優先すべきは、より幅広いお客さんのニーズに応えることだと思っています。“つまみぐいモード”に関しては、じつは順番通り最後までプレイした人にとっても、後からもう一度見たいシーンを簡単に見返せるというメリットがあって、いざ実装してみるとこれはこれでよかったなと感じます。
石原たとえば、本はランダムアクセスができる媒体です。推理小説などを読む際に、最後の部分を読んでから、頭から読むという楽しみかたもできてしまいます。時間がなくてもぱらぱらとめくって、物語を楽しむことができるんです。それと同じ仕組みを作ろうというものです。さまざまな層の方に楽しんでいただきたいので、アドベンチャーゲームとしての、ひとつの試みですね。
※つまみぐいモードは、プロローグをクリアーすることで 機能が解放される
※実際のゲーム画面ではすべてのエピソードが表示される
――時代に合わせた新たなゲーム体験かと思います。幅広い層に向けてというところでいうと、『名探偵ピカチュウ』シリーズは物語がどちらかというと大人向けかと感じたのですが、どのような年代向けになっているのでしょうか?
陣内ふだんゲームをやらない方や、ご年配の方でも楽しめるようなシナリオになっています。ただ、本作に限らず『ポケモン』関連のゲームを作るときは、必ずお子さんでも楽しめるように心がけています。本作で言えば謎解きの難易度やポケモンの表現などについてしっかりと監修が行われていて、その条件はもちろんクリアーしています。お子さんからご年配の方まで幅広い世代の方に遊んでいただけるとうれしいですね。
――最後に、ファンの方に向けてメッセージをお願いします。
陣内前作を遊んでくれた方には、長いあいだお待たせしてしまって申し訳ございませんでした。ようやく『名探偵ピカチュウ』シリーズの結末をご覧いただけますので、楽しんでいただけるとうれしいです。また映画をご覧になった方は、ティムとピカチュウといっしょに事件の謎を解く楽しみを味わっていただければと思います。そして本作で初めて触れるという方も、先ほどお話しした通り安心してプレイしていただけますので、秋の夜長に一風変わったポケモンの物語をお楽しみください。
石原まずは、映画とは異なる物語を楽しみながら、その結末を見届けてください。そして、ピカチュウのおしゃべりぬいぐるみを始めとする関連商品もたくさん出ていますので、興味を持っていただけるとうれしいです(笑)。商品開発チームもゲームにインスパイアされて楽しみながら開発していますので、こちらもあわせてぜひ手に取ってみてください。
...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202310/19320055.html