ファミ通.comの編集者&ライターが年末年始のおすすめゲームをひたすら紹介する連載企画。ライターのヨージロがおすすめするタイトルは『Thirsty Suitors』です。
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【こういう人におすすめ】
スケボーゲームが好きな人
変わったゲームが好きな人
なにかに悩んでいる人
ヨージロのおすすめゲーム
『Thirsty Suitors』
プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、Xbox One、PC
発売日:2023年11月3日発売
発売元:Annapurna Interactive
開発元:Outerloop Games
ジャンル:アドベンチャー
価格:各3750円[税込]
対象年齢:CERO 15歳以上対象、IARC 12歳以上対象
備考:ダウンロード専売
※本レビューではXbox Series X|S版を使用しました。
インドからカナダに移住してきた一家の物語が、料理を通じて描かれるアドベンチャーゲーム『Venba』。ポップなアートスタイル、見ているだけでお腹がなりそうになるインド料理の魅力など、一見ファニーなムードの作品だが、描かれる物語はシリアスでときに物悲しい。そのギャップも含めてじつに印象的なタイトルだった。
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ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームを語る企画。インド料理がおいしそうなアドベンチャー『Venba』からライターのありみちが感じ取ったのは、家族の顔でした。
今回紹介する『Thirsty Suitors』も南アジアから移住してきた一家がメインに登場する作品で、お料理がテーマのひとつになっているという点も『Venba』と共通している。また方向性は異なるが、アートスタイルもポップで印象的だ。
ただ、両者には決定的に異なる点がひとつある。『Venba』と近しいテーマの『Thirsty Suitors』だが、本作は少し……いや、かなりお行儀が悪い。
『Venba』の料理に込められていたものが“愛”だとしたら、『Thirsty Suitors』の料理は“罵詈雑言”で満ちている。
失意の底にいる“バイセクシャルの歩く災害”は自身の過去にケジメをつける
年上の恋人にフラれ、通っていた大学も辞め、ひさびさに故郷のティンバーヒルズへ帰ってきたジャラ。しかし家出同然で飛び出したため家族との関係は良好とは言えず、とくに姉のアルニとは半年も連絡をとっていない状況だ。
問題はほかにもある。かつてヒドイ別れかたをした元カレ、元カノの存在だ。それぞれがジャラに対して複雑な思いを抱き、殺気立っている。
さらに、怪しい動きを見せるカルト集団、遠く離れた両親の故郷からやってくる古い慣習の権化(=祖母)といった、じつに面倒くさそうな存在もいたりして事態は混沌とする一方だ。
「バイセクシャルの歩く災害、セクシーの権化、人の形をした痴話喧嘩の火元」(ゲーム内の文章より抜粋)として憧れの眼差しと畏怖の念を集めていたのも過去の話。いまや誰からも歓迎されていない故郷で、それでも生きていくためにジャラは、イマジナリーフレンドである"理想化された姉”のアドバイスにも助けられながら、あらゆるトラブルに向き合いケジメをつけていく――どうやって?
スケートと、口論と、クッキングでだ。
スケートテクでカルト集団のスケートパンクをわからせろ
『Thirsty Suitors』ではマップ内の移動にスケートゲームのアクションを採用している。フリップやグラインド、マニュアルといったベーシックなトリックはもちろん、消火栓の上でブレイクダンスをしたり、電線をジップラインのようにすべったりといった、『トニー・ホーク プロスケーター』シリーズを彷彿とさせるエクストリームなアクションも可能だ。
ただし、一般的なスケートゲームに比べると操作はだいぶ簡易的。入力ミスで転んだりすることもないので、アクションが苦手だったとしても移動でストレスを感じるようなことはないだろう。むしろ簡単操作でつぎつぎとトリックがくり出せるので、“触っているだけで楽しい”気分ってやつになれるかもしれない。
スケートには移動手段以外にも重要な役割がある。街外れにある、建設途中で放棄された廃遊園地を根城にするクマの着ぐるみ男がリーダーのカルト集団(なにを言っているかわからないかもしれないが、書いてある通りだ)へ潜入するために、スケートテクニックが求められるのだ。
カルト集団はジャラより一世代下の“スケートパンク”たちで構成されており、彼らに認められるためには、スケートで“わからせる”しかない。廃遊園地は全体が本格的なスケートパークになっていて、ここでは移動手段としてのスケートから一転、クマの着ぐるみから与えられるミッションへ挑むことになるのだ。
とは言え、『Thirsty Suitors』はスケートゲームではない。ジャラにとって目下の最優先事項は元恋人との過去にケジメをつけることであり、その際に用いられるゲームシステムは、意外なことにクラシックなRPGを彷彿とさせるコマンド選択型のターン制バトルとなっている。
口論で相手の感情を揺さぶり、ときには母も召喚して元恋人と和解せよ
本作のバトルで交わされるのは攻撃というよりは口撃だ。
たとえば、ジャラが最初に再会する元恋人のセルジオ(元恋人と言っても、授業の課題でたまたまパートナーになったのをきっかけに一度キスしただけの関係である)は、ジャラへの未練を口にしたり、いかに自分が世の女性にとって理想的な男性であるかを主張(その内容は典型的な“マンスプレイニング”だ)したりしながら攻撃をしてくる。対するジャラも「あんたみたいに偉そうな男どもにはうんざり」など辛辣な言葉で応酬しつつ殴り返す。
やっていることは「セルジオのこうげき」「ジャラは14ダメージをうけた」というシンプルな攻防のはずだが、画面上で起きていることは、悩める若者たちが剥き出しの感情で言葉をぶつけ合う光景というのがおもしろい。
口論の要素は会話のやり取りだけでなく、システムにも組み込まれている。
バトル中に選べるコマンドの中には“あおり”というものがあり、そこには相手の感情を揺り動かすためのさまざまな選択肢がある。たとえば“扇情渇望のあおり”を選ぶと、ジャラは相手に対して誘惑的だったり褒め殺しだったりのような言葉を投げかけ、成功すれば相手が“渇望”状態になるという仕組み。
そして、感情を揺さぶられ心が不安定になったところに強力なスキル(必殺技)を叩き込む、というわけだ。
ほかには某国民的RPGにおける召喚獣のように、ジャラと関わりのある人物を呼び出すシステムもある。
たとえば、インナーシスターいわく「大抵のアジア人男性に共通している、精神的に恐れを抱くような人物」こと“母親”を呼び出すと、山のように巨大な母親が登場。右手に持ったスリッパを振りかざして相手をゴキブリのように叩き潰すという、本家の召喚獣に勝るとも劣らないファンタスティックな演出を見ることができる。
そうやって相手のHPを削っていけばやがてバトル勝利となるわけだが、ここで求められているのは相手を成敗することではない。和解だ。
途切れることなく続く口論は確かに口撃的だが、同時にそれは自身の心の渇き(Thirsty)を露わにする行為でもある。
セルジオであれば、ジャラとの口論を通じて、自身のジャラに対する熱烈な求婚(Suitors)行為が一方的な幻想に基づくものであったことを理解し、ふたりは和解を果たすのだ。
母と娘はクッキングを通じて心を通わす……ことができるのか?
元恋人たちとは口論バトルでケジメをつけられるが、そうはいかない相手もいる。ジャラの母親ルクミニだ。
夫のアルヴィンドとともに南アジアからアメリカへ移住してきたルクミニは、ティンバーヒルズで教職を得て、地域コミュニティの中で地位を築いた自立した存在であり、いつまでもフラフラしているジャラとはつねに衝突をくり返している。
ふたりの会話は朝の挨拶からしてバチバチに険悪で、売り言葉に買い言葉ばかり。そんな状況を見かねた父親は、母から料理を教わってみることをジャラに提案する。
かくして、母と娘はクッキングを通じて心を通わ……すまでの道のりは決して平坦ではない。
当然のようにふたりは料理中ですら言い争いをしており、「料理の前にもう一度手を洗いなさい」という指示も母の口を通すと「塩酸を使えって言っているわけじゃないんだろ。もう一度水洗いしたって、手が溶けたりなんかしないよ」というなかなかパンチの効いた表現になってしまう。
そんな母を打ち負かすためには、母が認めざるを得ないすばらしい料理を作るしかない。クッキングは画面に指示されたボタンを押すQTEに近いシステムだが、リズムゲームのようにタイミングを判定する要素もあるため、絶妙な難度で飽きずに楽しむことができるだろう。
ちなみにこのQTE×リズムゲームのシステムは、クッキングだけでなくゲーム内のあらゆるシーンで発生するので、本作のテンポに慣れる練習にもなるはずだ。
マサラ映画ならぬマサラゲームをご堪能あれ
以上の通り、『Thirsty Suitors』はケバケバしくてバカバカしくて騒がしい、陽のムードに包まれた作品だ。でも、物語や設定を仔細に眺めるとじつは意外なほど内省的な内容であることに気付かされる。
主人公のジャラからしてインナーシスターと終始会話しているような不安定さだし、元恋人たちも皆、なにかしらの問題を抱えている。
“有害な男らしさ”に染まったセルジオ、レズビアンであることを理由に家から追い出されたディヤ、マレーシアに住む両親に嘘をついて親の金で遊び呆けているブルーノ、ジャラのかつての運命の恋人で中学時代にトランジションを行ったタイラー……それぞれにそれぞれの地獄があって、生きることに苦悩しているのだ。
さらに、“女性にとって結婚は最高の幸せ”という古い価値観との戦いや、衰退する地元経済の中で行き場を失った子どもたちといった社会的問題への言及もある。『Thirsty Suitors』の時代設定は90年代だが、扱っているテーマはどれも現代的で、各種問題と向き合ううえで対話(口論だけど)と和解を重視しているところもじつにイマっぽい。
もちろん、家族間の軋轢、クィアな人々、因習を打破する若者たち……といったものは、本作ならではのテーマ性というわけではない。むしろインディーゲームの分野では比較的よく見るものだ。しかし、家族間の軋轢、クィアな人々、因習を打破する若者たち……といった多様なテーマを一度に扱い、かつゲームとして破綻することなく“触っているだけで楽しい”レベルのに仕上がっている作品を、僕はほかに見たことがない。
インド料理には“マサラ”というミックススパイスがあり、そこから転じて複数のジャンルがかけ合わさったインド映画のことをマサラ映画と呼ぶようになった。
これに倣えば、複数のゲームジャンルに複数のテーマ性が組み合わさった『Thirsty Suitors』はマサラゲームと言っていいだろう。
初めはちょっと刺激が強く感じるかもしれないが、遊び続ければ夢中になることは間違いなし。年末年始の休みを利用して、ぜひこのすばらしい味を堪能してほしい。
執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。『Thirsty Suitors』はスケートゲームかと思って遊んだら、とてつもなくブッ飛んだゲームでビックリしちゃいました。
『Thirsty Suitors』ニンテンドーeショップサイト
『Thirsty Suitors』PlayStation Storeサイト
『Thirsty Suitors』Microsoft Storeサイト
『Thirsty Suitors』Steamサイト
...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202312/30329254.html