2023年7月27日に発売予定のNintendo Switch/PS5/PS4向けのソフト『クライマキナ/CRYMACHINA』(以下、『クライマキナ』)。機械の少女たちが本物の人間となるために戦い、運命に立ち向かう姿が描かれるアクションRPGだ。企画、プロデュース、シナリオなどをフリューの林風肖氏が務め、造形作家のYoshi.氏やイラストレーターのろるあ氏、『Kanon』のシナリオを手掛けたことで知られる久弥直樹氏など、そうそうたる制作陣によって重厚なストーリーと爽快感のあるアクションが送られる。
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そんな本作の壮大でディープな世界観を構築する一端を担っているのが、かっこよさ、不気味さ、神秘さを持つエネミー。今回は、エネミーをデザインしたYoshi.氏と、その設定を生み出した林氏への独占インタビューを実施。Yoshi.氏のデザインへのこだわりや、デザイン時に交わしたふたりのやり取りなどをうかがった。さらに、貴重な設定画も合わせて公開しているので必見だ。
※本記事は週刊ファミ通2023年6月8日号(No.1799/2023年5月25日発売)に掲載した『クライマキナ/CRYMACHINA』続報内のインタビューに加筆・修正を行ったものになります。インタビューは4月上旬に実施しました。
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Yoshi.氏(よし)
キャラクターデザインやゲームのモデリング、フィギュアの造形などを手掛ける造形作家。『クライマキナ』では、エネミーのデザインを務める。文中はYoshi.。
林風肖氏(はやしふゆき)
フリューのゲームクリエイター。『クライマキナ』のプロデューサーだけでなく、企画、シナリオも担当。文中は林。
世界観を色濃く写す汎用エネミー・ケルビム
――まず初めにYoshi.さんにデザインをお願いした経緯を教えてください。
林Yoshi.さんの「独立しました!」というツイートを拝見したことがきっかけです。発見してからすぐにツイッターでダイレクトメッセージを送りました。
Yoshi.ツイートをした約15分後に林さんから連絡をいただきました。
――早い! 『クライマキナ』の制作とYoshi.さんの独立がタイミング重なったのですね。
林そうです。Yoshi.さんはクリエイターとして前から目を付けていた方で、いつかいっしょに仕事をしたいと思っていました。『クライマキナ』が動き始めた直後にYoshi.さんが独立したのを知り、これは千載一遇の好機だと思いましたね。
――Yoshi.さんを起用した理由を教えてください。
林ツイッターで投稿しているオリジナル作品や“紡ギ箱(※)”を拝見した際、Yoshi.さんの造形と描く世界観が、僕の好みや本作の世界観にマッチしていると感じました。本作のキャラクターは機械ですが、メカメカしくない半無機生物、またはケイ素生物にしたいと考えていたので、まさに“紡ギ箱”のようなデザインをイメージしていました。Yoshi.さんが作る造形には、冷たいもののはずなのに生命感があります。その艶やかさを本作でも表現していただこうと思いました。
※紡ギ箱…… Yoshi.氏が制作・販売する造形作品シリーズ。流線系を多用することで表現される独特の不気味さやクールさが魅力。
――なるほど。本作の世界観や設定を見せてもらった際の印象はどうでしたか?
Yoshi.企画書にはメカものと書かれていて、自分の作風的にどういったメカなのかという若干の不安がありました。しかし、完成イメージのところに『シドニアの騎士』を手掛けられた弐瓶勉さんのアートがあって不安は払拭され、好みのメカだから大丈夫という安心感とワクワク感に変わりました。林さんに「僕もこちらの方向性が大好きなのでやらせてほしいです」と食い気味に返答したのを覚えています。
――林さんはYoshi.さんにどういったオーダーを出したのでしょう?
林そもそもオーダーをする前にYoshi.さんから、各エネミーについての設定、ビジュアルのテーマ、ゲームでどのように活躍させるのかといったシチュエーションを含めた情報が欲しいという要望がありました。ですので、ラフに僕や開発プランナーの意見をまとめたエネミーの行動と攻撃のイメージを書いてお送りしました。
――かなり具体的なオーダーを出していたのですね。
林各エネミーのイメージについて話した際に、僕とYoshi.さんが共感した要素もデザインに盛り込んでいただきました。なので、こちらのオーダーをベースにしつつも、Yoshi.さんらしさを全面に出したデザインになっています。
――Yoshi.さんの解釈やセンスにおまかせする部分も多かったと。本作では多数エネミーが登場します。数が多いとイメージのすり合わせに苦戦しそうな気がしますが……。
林Yoshi.さんの作家性を知ったうえでお願いしたので、イメージのすり合わせはほぼゼロで進行できました。
――そうだったのですね。デザインの際にYoshi.さんから提案したことはありますか?
Yoshi.ケルビムと呼ばれる汎用的な敵のデザインをする際、思想や派閥によって見た目を変えたいという提案をさせていただきました。また装甲を外した素体のケルビムは人の姿をしているのですが、無機質でどこか人の形と違ったデザインにしたいという提案もしました。林さんから「ケルビムのコンセプトに合っていていい!」と言っていただけて、うれしかった記憶があります。
ケルビム設定画
――提案をどのようにデザインに落とし込んだのでしょう?
Yoshi.人間で言うところの心臓や脳の部分が空っぽのイメージで、胸にぽっかりと穴が空いていたり、頭部も側面から見ると空洞になっていたりと、人の形を模倣しながらも人として大切な部分が存在しないデザインにしてみました。また、基本となるケルビムの顔をのっぺらぼうにし、思想によって各個体に装甲や仮面を付けるという方向性にしました。
――そもそもケルビムはどのような敵なのでしょうか?
Yoshi.役割としてはザコ敵です。ですが、明らかにザコとわかる見た目にはしたくないという話を林さんとしました。主人公たちが強すぎるだけであって、じつはケルビムたちもかなり強い個体です。ですので、あまり弱そうに見えないデザインを心がけました。
林「ドラゴンクエスト」シリーズでいうところのスライムのような立ち位置なのに滅茶苦茶イカついですよね(笑)。でも本当に美しくて、画家のH・R・ギーガー(映画『エイリアン』のクリーチャーをデザインした造形作家)のような艶めかしいYoshi.さんらしさが溢れるシルエットと造形で、何度見ても最高です!
Yoshi.ありがとうございます(笑)。
――ケルビムには本作の世界観が色濃く反映されていたのですね。
Yoshi.はい。見た目をこだわるとともに、本作の重要な設定である思想や派閥をケルビムに盛り込みました。
林仮面に合わせて装甲のビジュアルが変化していくのはおもしろいです。
Yoshi.せっかくデザインをさせていただくので、林さんの描くおもしろい物語に沿わせて変わる形にしようと考えました。設定を見たときに、敵ながらそれぞれが人間を再生したいという気持ちを持ち、極端な悪役ではないという印象を受けたので、遥か未来で順当に進化していった存在をイメージしました。
――ということは、ケルビムが人型なのも人間を再生したいという気持ちが強いからでしょうか?
Yoshi.そうです。文献などを参考に人の形を再現してはいますが、関節の位置が外にずれていたり、背骨の概念がなかったりなど、よく見ると構造がぜんぜん違う人もどきになっています。私たちが見慣れた形と構造が違う不気味さがあっておもしろいかなと。
最強の神機エクレシアに潜むデザインへのこだわり
――エネミーの中でとくにデザインが難しかったキャラクターはいますか?
Yoshi.難しかったといえば、林さんと何度もやり取りした“エクレシアの顔事件”ですかね。第二神機エクレシアの顔の不気味さとカッコよさのバランスを互いに悩み、かなり意見を交換し合ったのが印象的です。
エクレシア
設定画
――なんと!
Yoshi.オーダーの際の資料に、エクレシアは秩序を司る“最強の神機”と書かれていたので、一見するとラスボスのような誰が見ても強敵と思えるシルエットにしました。シルエット自体は初期段階から変わっていないのですが、顔は何度もイジってようやくいまの形に落ち着きました。
――顔のやり取りが多かったと。
Yoshi.はい。何度かやり取りして目を印象的にする方向に決まったのですが、自分の中で「これだ!」というものになかなかならなくて……。その後、即身仏のような仏教的な顔にしたり、シンプルな顔にしたりするなど、試行錯誤を重ねました。
――不気味さとカッコよさの塩梅を表情ひとつで調整するのはかなり難しそうです。
林あと、機械と有機物のあいだのような感じがほしかったというのもあります。
Yoshi.互いが想うカッコよさと不気味さの落とし込みが合致せず、何度もやり取りしました。最終的に顔に神々しさを取り入れ、その方向性で詰めていきました。
――神々しさですか。
Yoshi.エクレシアはほかの神機よりも圧倒的に強く、秩序を司っているので不気味さやカッコよさだけではなく、どこか美しいと思える意匠を取り入れました。
――エクレシアを通じてYoshi.さんのデザインに対するこだわりを感じました。
Yoshi.デザインする際に何よりも大事にしていることは、設定やキャラクター性を見た目に活かしてあげることです。ユーザーが見たときに、カッコイイ、怖い、強そうなどの印象にプラスして、キャラクター性やキャラクターの内面にある感情を見せられたらと思いつつデザインしています。
――逆にデザインする際にやらないようにしていることはありますか?
Yoshi.単純にゲーム的な記号のキャラクターにはしたくないです。たとえば、コアが弱点でプレイヤーがそこを狙えるように光らせるという仕様があったとしたら、その光らせることに設定的な意味を持たせてデザインするようにしています。
――意味があったほうが設定や魅力に深みがでますよね。
Yoshi.本作だと、腕を大きくや足を太くなどの要望もありました。ですが、「シルエット重視でやりたいです!」と逆NGをさせていただきました(笑)。
――そんなことも(笑)。
Yoshi.パワータイプだから全体的に太くではなく、全体的にシルエットは細いけど、腕だけが異常に強いといった違和感も演出したかったので……。本作でもそういったこだわりを貫ける部分は貫きとおしています。
設定をふんだんに詰め込んだボスエネミーたち
――ほかに印象に残っているエネミーはいますか?
Yoshi.第六神機ロゴスですね。ロゴスはもともと主人公らと敵対しておらず、無理矢理戦わされてしまう心やさしいキャラクターです。そのことが伝わるようにほかの神機と比べて攻撃的な見た目にならないようにデザインにしました。
ロゴス
設定画
――どういった部分でロゴスのやさしさを表現したのでしょうか?
Yoshi.個人的な考えなのですが、人間が敵意を感じるひとつの手段は相手の目だと考えています。なのでロゴスはにらみつけるような目や敵意のある目ではなく、瞳のひとつひとつに丸く綺麗なエネルギーが流れていて、人智を超えた神秘的な雰囲気を醸し出しつつもこちらを認識すらしていないような目にし、敵意がないことが伝わるようにしました。
――ロゴスだけ人ではなくクジラのような見た目をしているのはなぜでしょう?
林ロゴスは滅びた世界の文明を発展させる使命を担っていて、世界の終末と滅びた世界の発展という表裏一体的な意味合いも持たせるために獣らしい見た目にしようと考えていました。
――666の獣など、終末の象徴たる獣が世界の文明を発展させるのはおもしろいです。しかし、それがなぜクジラに?
林Yoshi.さんにオーダーする際、獣のままではイメージとして強すぎると思いました。なので、世界観を崩さず、かつ言われてみれば獣だと思える綺麗なものは何だろうと考え、結果思いついたのがクジラでした。
――世界観との親和性を重視したと。
Yoshi.胴体全体を頭部としてみるとクジラ型なのですが、頭の先端にある目の部分だけを切り取って見てみると、人のような顔形をしています。人類再生を夢見る神機の一機であるいうのを感じてもらえるはずです。
――ロゴスと同じタイミングで第五神機レティアも発表されましたが、こちらはどういったオーダーがあったのでしょうか?
Yoshi.観測者、トゲトゲした外観、3つの武器を使うなどのオーダーがあり、「それ以外はおまかせします」と言われたので、かなり自由にデザインさせていただきました。最初に思い浮かんだイメージが、映画『マトリックス レボリューションズ』(※)に登場するデウス・エクス・マキナでした。しかし、デウス・エクス・マキナの完成され過ぎたデザインにイメージが引っ張られてしまったので、一度そのイメージから離れました。
※映画『マトリックス』シリーズの3作品目。
レティア
設定画
――レティアもかなりインパクトのあるデザインですよね。
Yoshi.観測者という設定を見たときに、天体や宇宙の要素を入れたいと思い、本体の周囲に輪っかを付けて地球儀が回るようなデザインにしました。また、3つの武器と連動したさまざまな表情の仮面も用意し、形態によって武器と仮面がガシャガシャと切り変わるようにしています。
林レティアは宇宙を観測する哲学者や賢者のような存在です。顔がクルクルと回るギミックは地球儀や天体の動きになっていて、僕の中のイメージを象徴するような造形で驚きました。顔が3つあるというのも、インド神話の神様っぽさがあって好きです。
――デザインをよく見ると、両左右に仮面が付いていますね。
Yoshi.左右にはそれぞれ泣きと笑いの仮面があります。仮面の表情と各武器が連動していて、ユーザーとしても見た目で対策しやすくなっています。ちなみに各仮面に表情があるのは、さまざまな感情を抱きながら観測を行っているからです。
――仮面の表情にも設定的な意味を含ませたと。
Yoshi.そうです。さらに、ケルビムがひとつしか仮面を付けられないのに対してレティアは複数の仮面を使い分けられるという、上位的な存在の設定も盛り込めるのでおもしろいかなと思いました。
――レティアは3つの武器を使うとのことですが、武器もYoshi.さんのデザインですよね。本作特有の変形機構を備えた武器のデザインには苦労しましまか?
Yoshi.ケルビムで武器のテイストが固まっていたのでデザインはわりとサクサクと進みました。本当はもっと複雑に変形するギミックにしたかったです。大人の事情でNGになりましたが(笑)。
――具体的にはどういった感じにしたかったのでしょう?
Yoshi.敵が振りかぶる近接攻撃のモーションを見せたと思いきや、急に武器を切り換えて銃で撃ってくるみたいなことがやりたかったのですが、爽快感が損なわれてしまうため実現には至りませんでした。エネミーのデザインに加えて装甲や武器などをすべて担当させていただくことはなかなかないので、いい経験になりましたね。
林本作の敵ビジュアルによって語られる世界観の説得力は、Yoshi.さんでなければ成し遂げられないものでした。Yoshi.さんが昔ゲーム開発に携わっていたこともあり、ゲームに落とし込むモデルやゲームデザインを想定したエネミーデザインを行ってくださったので、破綻せずにさまざまな敵を生み出すことができました。
Yoshi.最後のほうはエンドコンテンツに出すユニーク個体を追加することになってかなりたいへんでしたが、それでも楽しく、ピリつくことなく作業ができました。ユニーク個体の中には素体のデザインが違うレアな敵も混じっていたりもするので、遊ぶ楽しみにしていただきたいです。
――どんな敵が待ち構えているのかワクワクします!
林Yoshi.さんのデザインといえば、Yoshi.さんがご自身で作られているインディーゲーム『IZON.』の話も……。
――『IZON.』とは何でしょう?
Yoshi.共依存アクションゲーム『IZON.』は、僕が手掛ける“紡ギ箱”という箱入り玩具をゲーム化するプロジェクトです。講談社さんと共同開発中で、その世界観の一端に触れられる特報ムービーをYouTubeで公開しています。発売されたら『クライマキナ』とコラボしたいです(笑)。
林ぜひやりましょう!
――夢が広がりますね! 最後に本作の発売を心待ちにしているユーザーへのメッセージをお願いします。
Yoshi.がんばって設定を盛り込んで作ったエネミーデザインを堪能してほしいのですが、本作は何よりも“物語”が魅力的なゲームです。僕はゲームを、物語を追体験できる唯一無二のコンテンツだと思っています。もちろん本作も物語の世界に没入し、その世界を体験可能です。機械の少女たちが直面する悲しい選択など、本作でしか摂取できない要素もあります。シナリオと世界観がとにかく素敵な作品なので、ふだんRPGをプレイしないかたもぜひ遊んでみてほしいです。
林Yoshi.さんが手掛けた敵が生きている姿を見ると、ビジュアルや楽曲との相乗効果によってそのよさをより強く味わえると思います。ぜひ遊んでみてください!
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202306/09304232.html