ファミ通.comの編集者&ライターが夏休みのおすすめゲームを語る企画。今回紹介するゲームは、Nintendo Switch用ソフト『なつもん! 20世紀の夏休み』。
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【こういう人におすすめ】
夏の大自然を満喫したい
ノスタルジーを味わいたい
キャラクターとの会話を楽しみたい
菅谷あゆむのおススメのゲーム
『なつもん! 20世紀の夏休み』
プラットフォーム:Nintendo Switch
配信日:2023年7月28日発売
発売元:スパイク・チュンソフト
開発元:トイボックス株式会社/株式会社ミレニアムキッチン
価格:6578円[税込]
対象年齢:全年齢対象
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10歳の少年の瞳に映る鮮やかな夏
海と山に囲まれた“よもぎ町”。そんな自然豊かな町へ巡業にやって来た“まぼろしサーカス団”の団長の息子サトルとなって、夏休みの1ヵ月を自由気ままに過ごすアドベンチャーゲーム。開発を手掛けたのは、『ぼくのなつやすみ』シリーズで知られるミレニアムキッチンの綾部和氏。氏の新作だけあって、発売前から“あのノスタルジックな夏にまた出会える”と期待を寄せていた人は多いのではないだろうか。筆者もそのひとりだ。
物語の舞台は1999年の夏。“1999年の7の月、人類は滅亡する”と唱えたノストラダムスの大予言が何事もなく過ぎ去り、穏やかな日常が続く町で、10歳の少年サトルは魚釣り、虫捕り、人々との触れ合いなど、さまざまな出来事を体験していく。何をするのか、そのすべてがプレイヤーに委ねられていると思うと、それだけでワクワクする。
筆者の生まれた場所はよもぎ町ほどの自然はなかったし、1999年当時はもう大人だった。それなのに、ゲームをスタートさせると郷愁に駆られ、童心に返るのだから不思議。
藤木直人さんのナレーションに誘われて始まりを告げる夏休み。冒険の拠点となるのは、サーカス団一行が身を寄せる民宿“明日葉荘”だ。朝食を摂ったあとから17時まで、そして夕食後の18時から22時までのすべてが自由時間。就寝前にはその日体験したこと、初めて釣った魚、捕った虫などについて絵日記にしたためる。
オープンワールドの広大な世界が冒険心を駆り立てる。行けない場所はマップの端以外ほとんどないので、珍しい虫やアイテムを求めて街の隅々まで走り回るのが楽しい。離れ小島にいようが高所にいようが、バスの回数券を使えば瞬時に移動できるのでありがたい。
おもちゃ屋のファニーで購入できる時計は、冒険をするうえで必須アイテム。時計を見ながらつぎの行動を立てるべし。
明日葉荘の主人である今日子さんが作るごはんは、どれも美味しそう。自分が釣った魚が食卓に並ぶのもうれしい。
本作を語るうえで、魚釣りと虫捕りは外せない。カブトムシやクワガタといったメジャーな虫しか捕ったことのない筆者からすると、「こんな虫いるんだ!?」と驚くほど多種多様なものが存在する。よもぎ町の生態系、すごい。
“大きな冒険”と“探偵ノート”のミッションを遂行していくことでステッカーが手に入り、スタミナが増えていく。スタミナが増えるとより高い場所に登れるようになったり、長時間走れるようになる。
さまざまな思いが垣間見える人生の交差点
魚釣りや虫捕りもいいが、本作の魅力は町の人々との触れ合いにあると筆者は感じる。毎日会話をすることで彼らが少しずつサトルを受け入れ、自分の思いを語ってくれるようになる過程は、まるでサナギだった蝶がゆっくりと羽化し、美しい羽根を広げて羽ばたいていくようなワクワク感と輝きがある。
例えば、5丁目のカフェのマスターは、最近寂しくなった町に活気を取り戻したいと思案中。その熱が徐々に高まって過去に中止になっていたお祭りを復活させるにいたる。話を聞いていくうちにほかの人々も巻き込んで、思いがどんどん形になっていく。マスターの隠しきれない興奮やほころぶ笑顔には、思わず胸がときめいてしまう。もちろん、お祭りは大成功!
若かりし頃にも、町に伝わる天狗伝説にあやかって観光客を呼び込めないかと考えていたというマスター。その思いが爆発してお祭りが復活。さらには盆踊りやサーカス、楽団の演奏まで行われることに。
お祭り当日、町は朝から活気に満ちている。夜になると盆踊りが行われ、みんなが踊る頭上に大輪の花火が。その一方、サーカスの公演は残念ながら不発に終わってしまう。ここからどう立て直すのか、サトルの腕の見せどころ。
それ以外にも、サトルと同い年の少年少女がラッパ森探偵事務所と称して町で起こる事件解決に挑んだり、花火屋さんのお手伝いをするなど、軸となる大きなイベントがある。もちろんそういったイベントも見どころだが、筆者が惹かれるのは日常にそっと溶け込んだ名もなき会話劇だ。
詩を書く純子ちゃんの鮮やかな視点と親友への思い、今日子さんにこっそりと思いを寄せるつりおさん、トコトコくんとラブちゃんの関係、毎日大きな荷物を背負って天狗山に登る山じじい、工場の前でスパイを監視する工場長と主任、「怪しい」が口癖の長岡さん、観光ガイドブックを作るためにやって来たのに取材に怖気づくそらよさん、ちょっと哲学的なたびのさん、大きなお腹で毎日元気に散歩をする駅前ママ……。
純子ちゃんの表現にかけるキラキラとした情熱たるや。少し年上のお姉さんとしてやさしくサトルに接してくれるところや、彼女の将来を窺わせる描写は、純子ちゃんファンの多くがドキドキしたのではないだろうか。
なぜ、工場長と主任が毎日工場の前に立ってスパイを見張っているのか。その驚愕の事実とは……。彼らが夜に仲良く飲み屋で飲んでいる姿もギャップがあっておもしろい。
よもぎ町の人口密度ナンバーワンと言われる夜の飲み屋。意外な本音を聞くことができたり、1990年代ならではのエピソードがたくさん飛び交うので、なかなか感慨深い。
彼らが紡ぎ出す言葉にはその人の人生をぎゅっと凝縮したような重みがあって、ときに哲学的だったり、20世紀最後の風景を感じるものだったり。どの言葉も押しつけがましいものではなく、考えさせられる余白があるからこそ、温かくて、どこか切なくて、じんわりと胸に響く。
こちらから積極的に話を聞かなくても、その人の人生はただゆったりと流れているんだと思うと、筆者は非常にセンチメンタルな気分になってしまう。
話のキャッチボールをするうえでサトルが小難しいことを言わずに子どもらしく返答する部分にも、不思議な余韻が生まれてじんとする。
町に押し寄せる21世紀の波
散策が楽しくて町の隅々まで走り回ってしまう大きな理由は、やはり自然の豊かさにあるだろう。時間とともに動く太陽をじっと見つめるひまわりや、ふわっと甘い香りが漂っていそうな花畑、誰が起こしたのかわからないけれど炎が揺らめく焚火、湿った土の濃いにおいを感じる沢、時が止まったままの鉱山……そういった景色を眺めているだけでも冒険心が満たされていく。天狗伝説が息づく町だけあって、巨大な壁画を見たときの衝撃も忘れられない。
海岸の近くにある、天狗と少年が対峙する巨大な壁画。少年の姿にサトルの姿を重ねてしまう。
町のいたるところに天狗の秘宝や化石が眠っている。地面を掘り起こして価値のある宝物を見つけるのは超楽しい。
不思議で小さな女の子。ただ探すだけで終わりではなく、グリ鉄砲で遊んだり、アイテムを探すなどバリエーションが豊か。
ゆったりとした時間が流れる自然とは対照的に、工事現場が多いのは印象的だ。中でも町を南北に分断するように走る自動車道と通販会社パパゾンの倉庫建設現場は、“21世紀”という標語を掲げて、急速に近代化を推し進める象徴のように感じる。
筆者が子どもの頃、やがてやって来る21世紀というのは期待感と高揚感を伴ってまるで夢物語のように描かれていた。いま21世紀にいる自分からしてみると、たしかに、それは形になりつつあるように思う。
しかし、その一方で失ってしまったものも少なからずあることにアイロニーを感じる。そういったものが、『なつもん!』のノスタルジックな色合いをさらに濃くしているのかもしれない。
現代の視点から1999年当時を振り返る演出の数々がにくい。
我々は、20世紀から何を引き継いだのか。21世紀に入ったこの20年で何を構築したのか。そして、その先へ何を伝えていくのか……。山じじいの言葉に、深く考えさせられる。
気づけば、もう夏の終わりが近づいている。最後に、山じじいを演じるタレントのダンカンさん、ジローを演じる大谷育江さん、新聞記者の秀人を演じる千葉翔也さんなど、多くのキャストが『ぼくのなつやすみ』シリーズに出演しているというファン要素にも触れておきたい。
ちなみに、筆者が本作でいちばん衝撃を受けたのは、途中で色鉛筆がなくなって絵日記がモノクロになったこと。そんなときに限って七色に光る貴重なレインボーダイヤを発見してしまい、本来なら七色になるであろうイラストがモノクロに。思わず笑ってしまった。皆さんが過ごしたのは、どんな夏休みだっただろう。藤木さんのやさしい声で結ぶナレーションは、どんな内容だっただろう。
モノクロの絵日記。大事なときに、なんでカラーじゃないんだ……!(涙)
野山を駆け、海を泳いだ勲章とも言える日焼け。見事にポッキー焼けしてしまった。
こちらが、筆者の初回プレイの通知表。皆さんの通知表はどんな結果は、のんびり? それとも充実? 2週目以降もまた違った視点でプレイできるのがよい。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202308/16312662.html