2023年8月23日から25日にかけて行われたゲームに関する技術や知識を共有する国内最大規模のカンファレンス“CEDEC2023(Computer Entertainment Developers Conference 2023)”。本稿では、2日目に行われたセッション“【ポケットモンスター スカーレット・バイオレット】 パルデア地方を描き出す――見た目の仕組みを徹底解説!”の内容をお届けする。
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よりリアルに近づけつつも、ポケモンらしさを失わない工夫
本セッションで語られたのは、シリーズ最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(以下、『ポケモン S・V』)の“見た目”を、どう描き出しているのかについて。
登壇されたのは、『ポケモン S・V』ではリードグラフィックスプログラマを務めたゲームフリークの前澤圭一氏。ポケモン、人物、世界のそれぞれについて技術的な面を詳細に解説していただいた。
なお、前提知識として前澤氏が昨年に講演された“【アルセウス+スカーレット・バイオレット】ポケモン2つを同時に作る、ポケモンモデル制作環境”の内容を知っておくと、理解度がより深まるはずだ。
前澤圭一氏。
まずお話があったのは、『ポケモン S・V』のルックコンセプトについて。
ポケモンらしい魅力的な表現は絶対条件としつつ、『ポケットモンスター ソード・シールド』および『Pokmon LEGENDS アルセウス』よりもさらにリアルな表現を目指したのだという。
方向性としてはおおかた同じであったため、納品仕様などの基本の部分はそのまま引き継いでいるとのこと。
たとえばライトも以下のように使用しているツール類はほとんど同じだ。
右下の画像のようにライトを配置することで、左上のようにリアルな照明を作り出している。
ここからは、ポケモンの部位ごとに行われている特殊な表現について。SSS(Subsurface Scattering)を用いた表現が、おもにポケモンの肌に使われているようだ。
SSSとは、人やポケモンの肌など光を透過する物体の表面から入射した光が内部で散乱した後、外部に放出されることで半透明に見える現象のこと。太陽に向けて手をかざすと、指が光を透過してオレンジ色っぽくなるあれだ。
以下のように、体の大きさや厚み、密度によって設定を変えることでリアリティをより増しているとのこと。
下図のクワッスは、輪郭付近のみにSSSの質感を適用することで外側だけが透けているような見た目を疑似的に表現しているとのこと。
クワッスが体から分泌するジェルの透明感が伝わってくる。
光の反射によって見える色が変わる“構造色”の表現も取り入れられているようだ。
構造色とは、物質の微細な構造によってそれ自体が色素を持っていなくとも発色して見える現象のこと。身近な例としては、シャボン玉やCDなどが挙げられる。
ここではベラカスを例に説明されたのだが、恥ずかしながら筆者は本セッションを聞くまで見る角度によってベラカスの色が変わって見えることに気付いていなかった。
急いでゲーム内で確認してみると、確かに見る角度によって色が異なる。なんとなく遊んでいるだけでは気付ききれない細かなこだわりが、本作にはまだまだ隠されているのだと感じさせられた。
ほかにも『ポケモン バイオレット』に登場するパラドックスポケモンに共通して見られる粒子の表現や、ソウブレイズの頭の炎などに用いられている揺らぎの表現についても説明がされた。
右のアニメとテクスチャを組み合わせることで、3次元的にキラキラ動く粒子を表現しているとのこと。
右図で示されている白い部分は揺らぐが、黒い部分は揺らがないといった指定がなされている。
またポケモンの目にもこだわりがあるようだ。
末端部分にジョイントが仕込まれていることによって、見る角度によってハイライトに動きが生まれる。また陰影をつけることでハイライトの立体感を表現しているとのこと。
そして、本作の醍醐味でもあるテラスタルの表現について。
テラスタルはポケモン本体と頭の上に乗るテラスタルジュエルに分けて作られており、本体の部分はもとのモデルをそのままに、マテリアルだけを差し替えて宝石のようにキラキラ輝く表現をしているとのこと。
すべてをテラスタルの質感に変えるわけではなく、ポケモンごとに指定した部分をもとの質感のままにする工夫も。
テラスタルジュエルは表が半透明、裏が不透明とふたつのメッシュを組み合わせることで立体感が表現されている。
これをポケモンの本体に乗せればテラスタル完了だ。
スフィアマップでキラキラを適応しつつ、右上のマスクとカラーのテクスチャでプリズム感を出している。
ほかにも、本作にはピクニックでポケモンの汚れを落とす“ポケモンウォッシュ”という遊びが用意されている。
つまりはポケモンが汚れるということ。その表現はどのように行われているのだろうか。
改めて見ると、思っていたより汚れている。
まずはカラーパターンとマスクを使って汚れたテクスチャを用意。これをポケモンのモデルに投影することで汚れを演出しているとのこと。
ポケモンだけでなく、主人公の足元も汚れていく。
キャラクターの肌が反射する光にまでこだわり抜く
ここからは人物に関する見た目のお話。まずは主人公のキャラメイクについて解説していただいた。
部位ごとにカスタマイズ項目を用意。そして下図のように複数のパターンをブレンドしてプリセットを定義しているとのこと。
『ポケットモンスター』シリーズにおけるキャラメイクは現代の基準で言うと自由度の高いほうではないだろう。
その実、上図の数値を直接いじればPCのオンラインゲームなどによくある詳細なキャラメイクも可能なのだと思われる。ただあまり細かくしすぎても煩雑であることや世界観とのマッチングも考慮して、数種類のプリセットから選択する方式が取られているようだ。
さて、以前の作品では主人公の表情がつねに真顔で、やや不気味に感じるというプレイヤーの声もしばしば見られていた。しかし最近の作品ではかなり感情豊かな表情を見せてくれている。こうした顔の表情は、どのように表現されているのだろうか。
まずデフォルトの顔モデルに対して表情の情報を適用。笑ったときや泣いたときなどに顔がどう変形するのかという情報を、上図にある通り部位ごとに記録する。
そこにキャラメイクの情報を反映させることで、主人公の表情が作り上げられているのだそう。
ここまでは開発の序盤に行われた基礎的な話で、ここからは開発の終盤に至るまでひたすらクオリティアップに努めていたのだという。データレベルでもブラッシュアップを行っているのはもちろん、そうでないところにも工夫が凝らしてある。
たとえば、スペキュラ(鏡面反射光)は開発段階ではリアルな肌質を再現できていないと感じていたという。
試行錯誤を重ねながら反射光の強さを調整することで、製品版のような滑らかな肌質を再現するに至ったとのこと。ほかにも、同じキャラクターでも場面ごとに最適な見せかたができるよう、モデルを微妙に変化させながらテイストの調整を行っているそう。
キャラクターの魅力を最大限に引き出すため、一切の妥協も許さない姿勢が伝わってくる。
パルデア地方の創りかた
ポケモン、人物ときて、最後はそれらを取り巻く世界について。大地、海&川、空のみっつに分けて、ここではおもに作る際の順序の説明がなされた。
水の表現に関しては、とくに波打ち際の白波にこだわりがあるようで、「ここは頑張ったので、ぜひ紹介してほしいと(担当したスタッフから)頼まれた」と笑いながら明かした。
海面を上下させるだけだと波打っている感じが思ったように表現できなかったため、専用のモデルを追加。沖の方では小さく上下し、陸地に近いほど大きく上下するような工夫をすることでリアリティを増しているんだとか。
興味が湧いた人は、南5番エリアにあるパルデア十景のひとつ“ひそやかビーチ”などの砂浜に向かって白波を観察してみては。
水平線と空の境界線にグラデーションがかかっていたり、雲ひとつとっても6方向からライティングを行いそれぞれのテクスチャを使い分けることで少しずつ形を変えながら進む雲の動きを表現していたりと、空にもいくつものこだわりが。
外の世界はもちろん、建物の中にいても微妙なライティングの違いで昼と夜が表現されている。
下の画像を見比べると一目瞭然だ。
左下がデフォルトの状態、左上が昼、右上が夜の状態。屋内にいても、ライティングの違いで昼夜がちゃんとわかるようになっている。
左が昼用、右が夜用のデータ。
ここまで紹介されたこだわり、そしておそらく紹介しきれていないであろう細かな部分も含めて、すべてを組み合わせて表現されたのが『ポケモン スカーレット・バイオレット』の世界なのだ。
初めて本作をプレイしたとき、なんとなくこれまでのシリーズ作品とはグラフィックの質が違うことは感じていたが、ここまでの詳細については当然把握できていなかった。
専門性の高い話だったので恐縮ながら筆者自身すべてを理解しきれたわけではないが、それでも今回知ったことを確かめながらパルデア地方を歩いてみると、また違った楽しみかたができそうだ。
これから冒険に出発する人はもちろん、すでにクリアーして最近は遊んでいなかったという人も、ぜひもう一度パルデアを旅してみてはいかがだろうか。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202309/02315504.html