2023年10月19日にNintendo Switch、プレイステーション4(PS4)、PC(Steam)向けタイトルとして、PLAYISMより正式発売を迎えたコズミックローグライトRPG『恐怖の世界』。
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本作はポーランドのゲームクリエイターであるPawe Komiski(パヴェウ・コズミンスキ)氏が、感銘を受けた作品群への“ラブレター”として制作。ホラー漫画家の伊藤潤二氏や、小説家のH.P.ラヴクラフトなどが手掛けた創作物への愛あるオマージュがふんだんに盛り込まれたゲームとなっています。
※この記事はPLAYISMの提供でお届けしています。
それでいて、各種ゲームシステムや、それによってもたらされる体験のほうに目を向けると、けっこう風変わりと言いますか、期待のしかたによっては「思ってたのと違うぞ!?」となりかねないゲームでもあるかもしれません。
ゲームの流れとしては、4つ~5つほどの短いエピソード(事件)を攻略。最終的に本作の舞台である塩川町に災いをもたらし、世界を混沌に陥れようとする“旧き神”の行いの阻止を目指すのですが、エピソード間の脈絡は希薄で、それぞれのストーリー描写もプレイヤーの想像に委ねる部分の大きい、最低限のもの。ゲームプレイを通した“一貫したストーリー”を期待すると、ちょっとびっくりすると思います。
そしてゲームプレイにおいては運の要素の比重がかなり高い。おもなゲームモードでは選ばれるエピソードもランダムなら、探索中に発生するイベントもストーリー進行に関わるもの以外ランダム、ショップでのアイテムのラインアップや、呪文の習得などもランダムなものが多いです。
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こうしたゲーム性となった所以については、伊藤潤二氏との対談記事のとある箇所を読んでいただくと腑に落ちるのではないかと思います。該当部分を引用します。
パヴェウ 最初は卓上でカードを使って遊ぶ、『うずまき』のファンゲームを構想していました。ただ、物理的なものを作るのは修正のたびに時間が掛かってしまうと感じたので、表現形態をデジタルゲームに変更したんです。出典:『恐怖の世界』開発者パヴェウ氏×ホラー漫画家 伊藤潤二氏 特別対談
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ついに正式発売を迎えたコズミックローグライトRPG『恐怖の世界』。開発者であるPawe Komiski(パヴェウ・コズミンスキ)氏の愛するホラー作品と、その作り手たちへと捧げる“1ビットのラブレター”である本作。そんなパヴェウ氏と、“ラブレターの送り先”のひとりであるホラー漫画家・伊藤潤二氏との対談が実現した。
『恐怖の世界』はもともと、卓上で遊ぶカードゲームとして開発がスタートしています。現在のゲーム性も、この構想をひとり用のデジタルゲームに落とし込んだものになっているということなのでしょう。
裏返したカードのうち4~5枚を表にして、プレイするエピソードを決定。山札をめくり、出てきたイベントカードに対して、手札として配られたカードで対処する――そうした“カードを使った卓上ゲームとしての遊び”をイメージしてみると、本作を構成する要素のランダム性の高さや、独特な味わいにも合点がいくはず。
筆者は未経験なので詳しい言及はできませんが、ダイスロールなどの運によってゲーム展開が変わるTRPG(テーブルトークRPG)からの影響も大きいものと思われます。
ショップ店員はかわいらしいワンちゃん。ホラーだけに留まらず、作り手の好きなものが惜しみなく投入された、まさにインディーゲームらしい逸品だ。
思えば「一寸先でさえ何が起こるかわからない」ランダム性は、伊藤潤二作品で登場人物たちに降りかかる恐怖体験の不条理さにも似ています。
『恐怖の世界』は、”伊藤潤二・ラヴクラフト風のストーリーを楽しむゲーム”というよりは、カードゲームやTRPG由来の要素により“伊藤潤二・ラヴクラフト風の不条理な状況の渦中にいる登場人物として、生存を試みるゲーム”になっていると言えるでしょう。
プレイヤーにはコントロールし切ることが不可能な不条理に見舞われる中、最善と思われる選択を重ねることで、さまざまな事件を解決、そして生き残りを目指す……。作り手によって用意された、“受動的に味わうストーリー”は薄めではあります。それでいて、1回1回のゲームプレイで偶発的に起きる出来事や、そこでのプレイヤーみずからの選択により、プレイするたび文字通り“一回性のドラマ”を味わえるのが『恐怖の世界』なのです。
一度のゲームプレイですべてのエピソードを解決し、結末にたどり着くまでに掛かる時間は1時間前後。この点も卓上ゲームの1プレイを彷彿とさせる手軽さがある一方で、その体験の濃密さはかなりのもの。最初はとっつきづらさも感じますが、くり返しプレイしているうちに、“運命を切り拓くためのノウハウ”がプレイヤー自身に蓄積されていきます。気付いたときには、その深淵へとズブズブとのめり込んでしまう者は、少なくないはずです……。
PCのマウス+キーボード操作に最適化されたインターフェースなので、もっとも快適にプレイできるのはPC(Steam)版。とはいえ、家庭用ゲーム機の操作系に慣れている人ならば、Switch/PS4版で問題ないはず。本稿もSwitch版のプレイをもとに執筆した。
画面の色は複数用意された中から好きなものを選べる。気分を変えて周回プレイに臨みたいときけっこう効果アリ。
破滅値(DOOM)、スタミナ(STA)、理性(REA)に注意して生存を目指そう
『恐怖の世界』はゲームモードによってその体験がかなり変わってきます。最初から解放されているのは以下の4つのモード。
身の毛もよだつハサミ女の未解決事件
部活動
クイックプレイ
カスタムプレイ
“部活動”、“クイックプレイ”、“カスタムプレイ”では複数のエピソードがランダムで選ばれて、それぞれで起きている事件の解決を目指します。“身の毛もよだつハサミ女の未解決事件”は本来そうしたエピソードのうちのひとつですが、ゲームの基本的な遊びかたを把握するため、単体でプレイできるようになっています。本作を初めてプレイする人には、この“身の毛もよだつハサミ女の未解決事件”のプレイが推奨されています。
“部活動”ならクリアーすべきエピソードは4つ。ゲームバランスは比較的やさしめに調整されており、当初はこのモードを何度もくり返しプレイすることになるはず。
“クイックプレイ”でクリアーすべきエピソードは5つ。難易度を複数項目で調整可能であるものの、行動するたびに上昇する“破滅値(DOOM)”が100%に達するとゲームオーバーになる本作では、クリアーすべきエピソードが多いぶん、相対的な難度はけっこう上昇します。初期設定のままなら敵も“部活動”より強化されており、かなりの歯応えが感じられることでしょう。
“カスタムプレイ”は、より多くの項目をプレイヤー自身が設定し、こだわりのロールプレイができるモード。特性の異なる複数のプレイヤーキャラクターの中からひとりを選択可能。“エンドレスモード”という、通常のゲームプレイとは異なりストーリーイベントが発生せず、より長いターンの生き残りを目指すモードも選択できます。
これらに加え、条件を満たせばアンロックされる、より高難度なモードも存在。このあたりも遊べば遊んだぶんだけ深みにハマる魅力となっているのです。
さまざまなカスタマイズが可能な“カスタムプレイ”。ロールプレイにコダワリがあるなら、深く遊び込めるだろう。
ゲーム中の行動の成否や、戦闘が発生したときの強さ、ひいてはキャラクターの生死を分けるのは以下の8つのパラメーター。
スタミナ(STA)
理性(REA)
筋力(STR)
俊敏性(DEX)
知覚(PER)
賢さ(KNW)
カリスマ(CHR)
幸運(FND)※所持金を意味する
とくに“スタミナ(STA)”と“理性(REA)”は敵の攻撃によるダメージをはじめ、ことあるごとにすり減っていくことになり、ゼロになるとゲームオーバーになってしまいます(設定次第では猶予が与えられる場合アリ)。スタミナ、理性、それから前述の破滅値、この3つの数値がゲームオーバーのトリガーになっているということです。
レベルアップのたび3種類の中からひとつを選んで習得できる“パーク”も、心強い存在。
これらのパラメーターを経験値の取得によるレベルアップや、アイテム・パーク・呪文などによるバフ(能力強化)で高めていくのが生存のカギ。高めの難易度設定にした場合、ランダム要素に振り回されながらも、大事な局面をしっかり切り抜けられるような、絶妙な育成が求められます。
スタミナや理性の数値が減ってピンチになったり、深刻な怪我を負ったり、邪悪な呪いに掛かったりすることで、キャラクターのグラフィックが状況に合わせて鬼気迫るものへと変化していくこだわりようは、本作のグラフィック表現屈指の注目ポイント。
いたるところで突き付けられる、ヒリつくような“生き残るための駆け引き”
1ゲーム中、好きな順番で複数のエピソードを攻略していくことになる『恐怖の世界』。ひとつのエピソードをクリアーするたびに拠点となる自宅に戻り、さまざまな準備を整えて、エビデンスボードからつぎに調査するエピソードを選択、新たな調査が始まります。
自宅では湯船に浸かって英気を養ったり、気分転換に着替えるといったことが可能。準備が出来たらつぎに解決すべき事件を選ぼう。
こうしたエピソードには大きく分けてふたつの種類があると言えます。ひとつはエピソードを通して特定のロケーションが用意され、そこを探索することになるエピソード。学校内を探索することになる“身の毛もよだつハサミ女の未解決事件”は、こちらに該当します。エピソードによっては、不気味な屋敷の中や、閉じ込められた自分の部屋が舞台になることも……いずれもそのエピソードならではの恐怖体験が目白押しです。
もうひとつは、塩川町全体を探索しつつ、事件の手掛かりを集めていくことでストーリーが進展していくタイプのエピソード。こちらでは町の各スポットを選択することでその場所の探索が行われるのですが、いくつかのスポットは探索以外にも役割があり、これが攻略の上でかなり重要。
たとえば中心街ならショップがあり、所持金と引き換えに武器やアイテムが購入できたり、学校なら生徒を勧誘して仲間にしたり、図書室で文献を漁ることでランダムに呪文を習得できたりします。戦闘やイベントで怪我をしてステータスに異常が生じているなら、病院で診察を受けて治癒できる場合も。
塩川町を探索するタイプのエピソードでは、基本的に◯の付いた場所を探索することでストーリーが進展する。
不気味な屋敷で催されるお葬式に参加することに。エピソードを終えるまで、心休まる瞬間はない……!
基本的に行動するたび破滅値は上昇していくので、寄り道をしすぎると、あとあとになって自分の首を絞めることに……でもしっかり準備をしておかないと、怪異との戦闘で酷い目に遭う可能性は増します。個人的には、こういった「こちらを優先すればあちらの危険が増す」といったヒリヒリするようなリスクとリターンの駆け引きこそが『恐怖の世界』の醍醐味のひとつだと感じます。
特定のロケーションが用意されるタイプのエピソードは、つねに怪異と隣り合わせの状況なので、プレイヤーの裁量で戦いの準備をしたり、ステータスを回復させるといった行動を取れる余地は少なめ。町全体を探索するエピソードのほうが自由度が高く、置かれている状況のコントロールは比較的容易です。
くり返しプレイしていると「このエピソードは町全体を探索するタイプだから、スタミナがギリギリの現状をここでなんとか立て直そう」、「前のエピソードで大幅に能力を強化できたし、ステータスにも余裕がある。いまのうちにあの危険が多いエピソードに挑もう」といった裁量が判断できるようになり、攻略順の選択にも駆け引きが生じるようになっていくことでしょう。
ランダムイベント各種でなんらかの恩恵を受けられるか、それともスタミナや理性を削られてデメリットだけで終わってしまうか。成否は、対応するパラメーターの数値によって確率が変動する。
塩川町を取り巻く状況はあとあとになるほど悪くなる。一部の回復手段が封じられる、ショップが閉店してしまうなどゲームとしてもデメリットがあるので、この点でも攻略順には注意すべし。
最大効率を追求しなければ、待っているのは“死”……手に汗握る戦闘システム
ランダムイベントや、各エピソードのクライマックスで発生する怪異との戦闘は、プレイヤーキャラクターと敵が交互に行動するターンベースで進行。
行動にはそれぞれに“コスト”が設定されており、200の数値が設けられている“シーケンスバー”を各コストで埋めるようにして、各ターンでの行動を決めます。シーケンスバーが埋まるまでは、1ターンで複数の行動が取れて、同じ行動をくり返してもOK。
パラメーター“筋力”が高ければ攻撃行動の威力が上がり、“俊敏性”が上がれば各行動のコストが下がり、1ターンで取れる行動が増える模様。攻撃行動の命中率は“知覚”が影響しているようです。
強力な武器を装備してパラメーターをカバーしたり、行動の中には直後の攻撃の命中率を上げるものがあり、これを併用すれば安定したダメージが与えられたり……“悪霊”に属する怪異には直接攻撃が通じないため、別の攻撃手段を取る必要があったり。状況にあわせた戦いかたが求められ、如何にダメージを受けることなく敵を退けるかがその後の生存にも大きく関わるため、ひとつひとつの判断が手に汗握ります。
戦闘中の行動はボタンひとつ(ゲームパッドなら左スティック押し込み)で記憶でき、毎ターン同じ行動をくり返したいならば、これを呼び出せば快適に戦える。
武器によっては威力が“筋力”以外のパラメーターに依存する場合あり。どんな武器を使うかで優先して伸ばすべきステータスは変わってくる。
学校の図書室などで習得できる“呪文”は、効果こそ高いがなんらかの代償があるものが多い。回復手段になったり、戦闘時に強力な攻撃手段になったりするが、乱発は危険。
さまざまな困難を乗り越えて、やがて各エピソードの結末に到達すれば、破滅値が減少する、経験値が多めに貰えるといった複数の恩恵が得られます。恐ろしい脅威を退けたあとで、ホッと一息つける瞬間です。
多くのエピソードにはエンディングが複数用意されており、選択肢や、道中で示される“クリア条件”を満たしていたか? などの複合的な理由により分岐する模様。ホッとする結末もあれば、伊藤潤二氏の短編ホラーを思わせる、主人公が生存した以外に救いがないような不気味な結末もあり、「あそこで別の選択をしていたらどうなっていたのだろう?」と好奇心に駆られます。
各エピソードの終盤の展開は、脳裏に焼き付くようなショッキングなものも多い。本作に興味を持つような人にとっては、むしろご褒美?
すべてのエピソードを生き残り、最後に待ち受けているものは、ぜひひとりひとりの目で確かめていただきたいところ。
そしてプレイ中に条件を満たすことでアンロックされる新たなアイテムや呪いも豊富に用意されており、前述した別エンディングの回収などの目的も、“くり返しプレイ”のモチベーションになっています。
独特の要素が多く、最初からハッキリした魅力が見えるゲームではないものの、そういった“くり返しプレイ”に食指が伸びる人ならば、何度でも何度でも、条件に変化を付けての再プレイへと夢中になれるはずです。
やり込むことでゲーム中に登場するようになるアンロック要素も充実。出会うのが困難な怪異も数多く存在する。
何度も“非業の死”を遂げた先にある、掛け替えのない達成感
『恐怖の世界』には、ここまで書いてきた“独特のゲームデザイン”以外にも、ちょっと引っ掛かりを覚える点はいくつか見受けられます。
パラメーターのFNDは“幸運”と訳されていますが、この数値は所持金を意味していて、これが直感的にはわかりづらいです。筆者はしばらくこれに気付けず、十分なお金を持っているかわからない状態でショップや病院に足を踏み入れ、何も手に入れられないまま、いたずらに破滅値を上昇させてしまうことが多々ありました。
遭遇するイベントには特定のアイテムやパークがないと選べない選択肢がたびたび設定されており、イベント、入手できるアイテムやパークともにランダム性が高い本作では、こうした選択肢を選べる状況がかなり稀である点も、ちょっと興が削がれる部分。
また、怪異との遭遇時のテキストでは、日本語の表示が改行されず、画面外に見切れる不具合が現時点では存在しています。幸い、この点はアップデートでの対応が予定されているとのこと(世界観を表現するフレーバーの部分であるため、現状でもゲームとしてやるべきことがわからなくなるといった不便はありません)。
このように、ちょっとした不親切さ、ゲームバランスとしてやや納得がいかないところはありつつも、最初に書いたようにそういった部分も“不条理な世界だから”でちょっと納得してしまえるのがおもしろいところ。
本作をプレイしはじめて間もないころ、すべてのエピソードをクリアーし、あとわずかでゲームクリアーというところで破滅値が100%となり、世界が混沌に包まれてゲームオーバーを迎えたことがありました。
悔しさもあれど、その“希望に手が届きそうなところで迎えた悲劇的な最期”は、まさに不条理ホラーらしいものであり、なんだかゲームプレイ全体がジャンルの様式美を感じるものとして完成されたような感覚を味わえたのが、とても印象深く記憶に残っています。
そうした状況も込みで、提供される“世界観×ゲームプレイ”の両方が受け入れられそうな人にとって、『恐怖の世界』はマストプレイの1本となるはず。
そして、より難度の高い設定に挑戦し、不条理につぐ不条理の中、何度も“非業の死”を遂げながら、やがて生存してゲームを終えられたときの達成感は――本作に“適合”できた者にとって、掛け替えのないものとなることでしょう。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202310/30322251.html