2024年2月1日に『SILENT HILL 2』リメイク版の新トレーラーが公開されると同時に、KONAMIより配信された『SILENT HILL: The Short Message』(『サイレントヒル:ザ ショートメッセージ』)。
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本記事では、本作のプロデューサーを務め、現在『サイレントヒル』シリーズ全体のリブートを目指している岡本基氏にインタビュー。制作が始まった経緯から、取り入れた要素についてなど、開発秘話を訊いてみた。
なお、本作は無料配信タイトル。インタビューにネタバレはないが、まずはダウンロードして遊んだのちに読み進めることをおすすめする。
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岡本 基 氏(おかもと もとい)
2019年にコナミデジタルエンタテインメントに入社し、プロデューサーとして『サイレントヒル』シリーズ全体の復活を目指す。(文中は岡本)
あえて新しい要素を多数取り込んだ意欲作
――まずは『SILENT HILL: The Short Message』の開発がスタートした、その経緯や狙いなどを教えてください。
岡本発端は、『サイレントヒル』を現代に蘇らせるプロジェクトのひとつでした。どのように復活させるのか試行錯誤をする中で、実際にゲーム開発をしてみないとわからない部分もあるので、将来に向けて研究開発をしていました。
また、自分たちでホラーゲーム制作を経験しないと、ノウハウが溜まりません。その2点の理由で開発が始まり、最初から無料で配信することは決めていました。
――無料であることに驚きました。なぜ無料タイトルとして配信したのでしょうか。
岡本もともと研究開発が目的でしたし、それに若いゲームプレイヤーたちにも気軽に遊んでほしかったので、無料にしました。
根強い人気のある『サイレントヒル』シリーズではありますが、やはり10年以上空白の期間があるので、名前は知っていても実際に触れたことのある人は少ないかと思いますから。
――シリーズタイトルは俯瞰視点が多いですが、主観視点にした理由はありますか?
岡本昨今はホラーゲームがプチブームと言いますか、インディーゲームを中心に、短編のホラーゲームが数多くリリースされ、かつ好評なタイトルも多いです。それらのタイトルは、だいたい主観視点のゲームなんですよね。
そこから、「もし、そういった主観視点の短編を『サイレントヒル』として制作したらどうなるのか」といった実験も兼ねていました。また、主観にすることで没入感がより高まるだろうと、本作では主観視点でのホラーゲーム開発に挑戦してみました。
――なるほど。シリーズ作品ではバトルの要素もありましたが、本作では戦闘が発生せず、逃げることしかできません。なぜそうしたのですか?
岡本バトルのあるホラーゲームって、ある意味矛盾しているもので、プレイヤーを怖がらせる存在が大事なのに、それを倒すことができたりします。ですので、恐怖感と戦闘のバランスが大事です。戦闘要素が多いと、怖さがどんどん失われていきます。
本作は、ホラーを描くことが始まりだったので、戦闘の要素は排除し、逃げることをメインに、絶対に勝てないクリーチャーに追い詰められていく恐怖感を重視しています。
また、長編ですと、最初から最後まで逃げるだけでは疲れてきますしストレスが溜まると思いますが、本作は短編なので最後まで逃げるだけのゲームでも楽しめるはず、と予測していました。
――短編だからこそ、実現した要素でもあるんですね。本作で描くテーマは重々しく、触れるのが難しいセンシティブものがほとんどです。なぜ、そこの部分にあえて挑戦したのでしょうか。
岡本企画当初から、『サイレントヒル』シリーズはシリアスなテーマかつ、精神的に追い詰められていることを描くタイトルなので、精神的な要素をテーマにすることは決めていました。
そして、若いプレイヤーに遊んでもらうことを想定する中で、若者たちにとって身近で精神的な恐怖は、SNSやいじめ問題などにあると考えました。ゲーム内で描いたことは、触れにくいけれども、逃げてはいけない問題なんですよね。
そこをしっかりと描くことで『サイレントヒル』らしくも、若者向けのサイコロジカルホラーになると狙っていました。
――たしかに、逃げたくなるような話題です。そこをあえて描いた覚悟にも、驚きました。
岡本“いま怖いもの”を考えたときに、そこは絶対描きたかったんです。SNSでの、ちょっとした発言が炎上につながったり、ひとりひとりが軽い気持ちで悪口を書き込んで、それがひとりの人間を追い詰めたり。
どこまで踏み込むのかはかなり悩みましたが、現在の問題から目を背けてしまうと、“いまのゲーム”にはなりません。そんな、いまだからこそ味わえるゲームにしたい気持ちは強かったのですが、内容がとてもセンシティブなので、海外のスタッフからは懸念の声が強かったのも事実です。実際、当初の物語とは少々内容が異なっていまして、本来はもっともっとダークな内容だったんです。ただそれだと、ただ気分が悪くなるだけになってしまいます。
――もっとビターな展開を予定していたと。
岡本『サイレントヒル』にハッピーエンドは似合わないと思い作成した物語だったのですが、本作は短編のため、シリーズのお決まりであるマルチエンディングを用意していません。ですから、ひとつしかないエンディングの終わりがビターすぎると、あまりにも救いがないので、最後は前向きな気持ちになれるような内容にしました。
――それでいて、心のどこかに穴が開くような、不思議な気持ちになりました。本作の舞台はマンションと、シリーズ作品を彷彿とさせる要素ですが、なぜマンションに?
岡本『サイレントヒル』シリーズ作が、というよりもリアリティーのある、生活感の強い空間を描くことを重視しました。そのため、廃墟であってもマンションの内部や細かいところには、すごくこだわっています。
生活感を出すために、ゴミや汚れなどが多い場所を作り込んでいたので、本作で“汚い場所”を作るのが得意になりましたね(笑)。
――汚い場所ほどリアルでしたね(笑)。ホラーゲームでありながら、ホラーの直接的な描写は少なかったように感じました。
岡本世界観で重視したのが、“社会圧”でした。社会からジワジワと追い詰められていくような、息の詰まる精神的な嫌な感じを出したかったんです。だんだんと落ち着きを失わせて孤独になっていく感覚を描くため、あえて直接的なホラー描写を控えています。その得体の知れない不気味な怖さこそ、『サイレントヒル』だと。
――主観視点のホラーは、画面がかなり暗いことが多いですが、本作はかなり明るめになっていて、とても遊びやすかったです。
岡本画面の明るさは何度か見直したほど、こだわったところです。暗すぎると遊びにくいという理由もありますが、部屋の中をとことん作り込んだので、細部まで見てほしかったんですよ。廃墟に残された生活感を感じてほしくて、画面は比較的明るめにしました。
――出会う“何か”も、従来の怖さとは異質と言いますか、美しさすら感じました。
岡本『SILENT HILL 2』のクリーチャーである“ピラミッドヘッド”を作った伊藤暢達さんがデザインが担当しました。伊藤さんもゲームと同じく、新しい方向性で恐怖感を出すことにチャレンジしたいと、これまでのクリーチャーとはひと味違うものになりました。
単純に、物理的にものすごく怖いクリーチャーを作るのは、伊藤さんにとっては簡単なことなんです。ですが、それだと従来のものと変わりありません。本作が挑戦的タイトルだからこそ、実現した要素でもあります。
――綺麗に感じたのはクリーチャーだけではなかったです。『サイレントヒル』シリーズは“裏世界”に入ることが多く、本作にも登場します。シリーズ作品はグロテスクさや奇怪さが目立っていましたが、本作は裏世界すらも美しいと感じました。
岡本リメイク版『SILENT HILL 2』を制作中ですし、同じような世界をもうひとつ作っても意味がないですよね。ですから、これまでのシリーズ作品にはないような裏世界を作りたかった、といったところから、ある意味美しさすら感じていただける世界になったのかなと。
――ところで、本作ではマヤとアメリが実写で登場しました。実写映像を取り入れた理由は何でしょうか?
岡本それも実験のひとつです。ゲーム内に実写映像をミックスしたらどんなことになるだろう、どんな使いかたになるのかなど、実験的に取り入れてみました。プレイヤーはずっとマヤを捜し求めるので、彼女には特別な実在感を与えたかったんです。それと同時に、主人公とマヤのあいだの距離感、彼女の世界に入り込めない感覚も表現しました。
実写シーンでは、3DCGやテクスチャをミックスして表現したりと、いろいろとチャレンジしています。ただ、付箋がたくさん貼ってあるシーンは、美術スタッフが実際に付箋を何枚も貼っていたりと、実写ならではの苦労した部分もありました。
――実験ながら、かなり苦労されていたのですね。マヤは日本人の俳優ですが、何か意図があったのでしょうか。
岡本本作の舞台は、過去に日本人の移民が多かった街という設定で、マヤは日系移民の4世になります。我々は日本の制作チームですが、ハイエンドのゲームを作り込むうえで、作品の舞台は欧米だとしても、どこかに日本人や日本文化の一部を取り入れたかったんです。主要な登場人物のひとりを日系人に設定したり、グラフィティアートの“桜”の要素も、和のテイストを取り入れるためでした。
また、アメリ役の方も、外国人ですが日本在住の俳優さんです。コロナ禍の中で制作が始まったこともあり、撮影を日本国内でする必要がありました。ゲーム内では英語ボイスで吹き替えてもらっていて、英語ボイスは海外で収録し、制作チームがリモートで収録に立ち会いました。
生きづらい人こそ、遊んでほしい
――本作はエンディングを迎えると終了となりますが、本作がほかのシリーズ作品に関わる、結びつくようなことはありますか?
岡本初期段階では、長編が作れるように設定を作り込んでいたり、登場人物も20人以上いました。ただ、最終的には短編でひとつの作品として出し切ることにしたので、今回は『SILENT HILL: The Short Message』ですべて完結し、ほかの作品に関わることはありません。
――あくまで3人の物語、であると。20人以上の人物とは、どのようなキャラクターだったのでしょうか。
岡本たとえばほかのクラスメイトですとか、彼女たちの先祖などです。設定上はまだ存在していますが、さすがにそこを語ると物語が長くなってしまうので、登場させないことにしました。逆に3人に絞ったことで、美しい物語になったように思います。
――なるほど。ラストの難度はとても高く感じました。なぜ難しくしたのでしょうか?
岡本ゴールを目指しながら、とあるものを何枚か探すシーンですね。探さなければならないものが複数あるので、数を減らそうか議論したこともありました。おそらく、そこまではゲームをスムーズに進められるかと思います。ただ、ラストは物語的にも主人公が自分のトラウマと向かい合う重要な局面なので、プレイヤーにも「嫌な目にあって貰おう」と、意図的に高い難度にしました。
頑張って乗り越えたからこそ、感じてもらえることもあると思います。ぜひ試行錯誤しながらチャレンジしてみてください。
――私も苦労しましたが、これを読んでいる方も諦めずに挑戦してほしいです! 先ほどマルチエンディングではない理由はお聞きしましたが、『サイレントヒル』シリーズはジョーク系のエンディングも魅力のひとつですよね。
岡本そうですね。『SILENT HILL: The Short Message』は短編だということと、内容がとてもセンシティブなので、ジョークを飛ばすのはさすがに不謹慎ですから、それは入れないようにしました。テーマがテーマなので、最後までシリアスにしようと。
また、本作は『サイレントヒル』シリーズの“サイコロジカルホラー”の部分をフィーチャーして、皆さんに魅力を知ってもらうために作られたタイトルです。ですから、ゲームシステムやほかの部分の魅力を知ってもらうことは考えず、純粋にサイコロジカルホラーを貫きました。
――初めて遊ぶ人には、ぜひ精神的な怖さを知ってもらいたいですね。一方で、『サイレントヒル』シリーズファンにはどう映ると考えていますか?
岡本過去作にはない新しいことに多数チャレンジしているので、どんな反応が返ってくるのか楽しみです。伊藤さんのクリーチャーデザインへのチャレンジもそうですし、音楽を担当している山岡晃さんも、新たな試みを取り入れています。
いままでの『サイレントヒル』とは、かなり違った味わいにはなっているかと思いますが、そこは無料タイトルだからこそ挑戦できた部分でもあります。従来の『サイレントヒル』シリーズの魅力を味わいたい方は、制作進行中のリメイク版『SILENT HILL 2』では、存分に味わうことができますので、発売をお待ちください。
――本作は無料だからこそ、ここまで踏み込んだタイトルにできたのですね。
岡本もし本作に価格が付いていたら、ここまでセンシティブなことはできなかったように思います。売ることを前提として考えてしまったら、やはりアクション性を高めようとか、マルチエンディングにしようなど、従来の要素を取り入れていたかもしれませんね。
――では、『SILENT HILL: The Short Message』を、どのような人に遊んでほしいと考えていますか?
岡本現代は生きにくい世の中だと感じています。生きづらさを抱えている人こそ、遊んでほしいですね。本作で扱ってるテーマは触れるのが難しいものですが、ゲームを通してきっと救われるような内容になっているはずです。そういった人たちに、この“ショートメッセージ”が届くとうれしいです。
――ちなみに、リメイク版の『SILENT HILL 2』の開発は、順調に進んでいますか?
岡本開発終盤に達している段階です。残念ながら、いまの時点でお伝えできることはほとんどありません。ゲームとしては、皆さんが思い描く『SILENT HILL 2』が、現代でも遊びやすく、思い出補正がそのまま形になったような美しいビジュアルで楽しめると考えてもらっていいでしょう。
まずは、『SILENT HILL: The Short Message』を遊んでいただきながら、続報をお待ちいただければと思います。無料ですので、ぜひダウンロードしてください。
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...以下引用元参照
引用元:https://www.famitsu.com/news/202402/09332546.html