星街すいせい武道館ライブ「SuperNova」レポート 彼女とホロライブの歴史 次の目標を感じさせた珠玉のステージ
2025年2月4日 18:35 VTuber
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ホロライブ所属のタレント・星街すいせいが、2025年2月1日に日本武道館で音楽ライブ「Hoshimachi Suisei 日本武道館 Live “SuperNova”」を開催した(アーカイブ)。
昨年末の「Spectra of Nova」ではさいたまスーパーアリーナを含め、3つの会場でアリーナ会場をジャックし、満を持しての日本武道館での開催となった(埼玉公演レポート記事)。
今回はそんなライブを振り返ってみようと思う。
武道館には魔物が棲んでいる
天井に掲げられた日の丸の旗の下でライブをすることは、日本の音楽シーンにおいて一つの到達点として見られてきた。日本のポップミュージック史を振り返れば、THE BEATLESが日本武道館ライブを成功させたことに端を発して、その後海外・日本含めて多くのミュージシャンがライブ開催・成功を収めてきた。
1964年に催された東京オリンピックにむけて建造された日本武道館は、日本伝統の武道における大道場としての役割を持っており、さまざまな”武”にまつわるイベントが開催されている。約1万人ほどのホール会場として音楽コンサートホールとしても徐々に使用されるようになると、同会場に根付く精神性などもあいまり、”日本武道館でのイベント開催”は一つの達成という見立てが大きくなっていった。
こと2025年の現在からみると、そのポジションはやはり異質である。音楽ホールやアリーナとして設計されたわけではないため、最下段にあたるアリーナ部分から3階席を見上げたときにかなりの急勾配となっており、ステージからみると意外なほどに「小さく・丸く・高い」といった印象を受けるはずだ。
それが故に、現在使用されるホール~アリーナ会場が大半が横長な設計になっているのとは違い、観客席とステージがだいぶ近くなりやすいのも特徴であり、実は会場設営でも長大かつ大げさなステージ舞台が組みづらいという点もある。1万人近い観客が集まれるアリーナ~ホール会場でありながら、上からも後ろからもステージからある程度見やすく、演者側からすれば観客の顔が見えやすい。「小さく・丸く・高い」という構造がゆえに、独特の緊張感が生まれやすい。
筆者はこれまで何度となく日本武道館でライブするアーティストを見てきたが、たまにこのようなこという方がいる。
「日本武道館には魔物が棲んでいる」
先にも述べたような、建物の構造上、観客との距離感が想像とは違っている部分が大きいことに加えて、音楽ホールとして建造されていないため、ほかの大会場と違って音響調整がかなり難しいとされているがゆえの言葉だ。音楽ライブをうまくやり切るには難しいホール会場、そのように言ってもいいかもしれない。
筆者が体験した武道館ライブでも、あるアーティストは出鼻から音に納得がいかないようでしきりに舞台袖のスタッフに指示を飛ばしていたし、ほかのアーティストでは過去に武道館で公演していたのにもかかわらず、「精神的にプレッシャーを感じた」と切り出してMC中に涙を流して言葉を失ったりと、意外だったりドラマティックだったりするシーンを目の当たりにしてきた。
まさかのカボチャの馬車で登場!!
さて、星街すいせいが夢に描いていた日本武道館公演でどのようなライブ、そして表情を見せてくれるのか。筆者は期待をしていた。
期待のムードがパンパンに膨れ上がる会場内。壮大なオープニングムービーから始まった1曲目、あの軽快なビート&グルーヴが始まり、「ビビデバ」からスタートした。
会場では伝わらなかっただろうが、視聴サイトではシンデレラが乗るかぼちゃの馬車のような車に乗り、会場の上空から飛んできたのだ。3D表現とはいえ、「武道館のなかで車に乗り、空を飛んで入場してきた」のは、きっと彼女が初めてじゃないだろうか。
ライブの前半は最新アルバム「新星目録」と「Spector」の収録曲でガッチリ固めたセットリストとなった。「TRUE GIRL SHOW」「Newton」では、ブラス隊のホーンサウンドがバンドアンサンブルにより厚みと彩りを添える。スキャットを挟みながら軽快に歌う「TRUE GIRL SHOW」、前にツンのめるようなグルーヴで突っ切っていくロックナンバー「Newton」、どちらも大歓声とクラップが観客から巻き起こる。
「皆さんわかります? この黒い服。ツアーで着ていた白い服の上から着れるアタッチメントみたいな服なんです。ツアー中でも着れたんですけど、最後にお披露目しようと思って今日初公開です」「今回のライブのセットリストを考えて、リハに入ったとき、これずっとクライマックスだなって。みなさんの感情もこう(手を上へ下へ)となるかなと」
そんな風にMCをする星街。実際このあとは抑揚のついたドラマティックなセットリストを披露することになる。
「綺麗事」では鍵盤とギターがリードしていく流れに、合間合間にブラス隊のホーンサウンドが挟まり、原曲からより華やかさに満ちたアレンジへと変わっていた。
「褪せたハナミドリ」では、ホーンサウンドがゴージャスなニュアンスをくわえ、星街は低めの声色を原曲よりも押し出し、グッと艶っぽさを増して歌っていく。続く「ムーンライト」では星街はベンチに座って寂しげに歌い、音数が少ないサウンドのなかでしっとりと歌う。
ボーカルに聞き惚れてウットリさせるという狙いをもった2曲、その通りに声で魅了するムードを生み出していった。
アルバム収録曲からのリードトラックとなった「ビーナスバグ」では、4つ打ちのドラムパターンのリニアなグルーヴのうえで、ホーンセクションのみならずベース・ギターもウネリをあげ、星街は先ほどの2曲を引きずるようにセンチメンタルな声色を披露していった。
そこからムービー映像が流れる。エレクトロニカとジャジーなニュアンスを保ったBGMとともに始まったムービーは、渋谷を中心とした街並みを捉えながら、こう文字を連ねていく。
入り交じる交差点早足な人々香水と汗が混ざった匂い光輝を放つディスプレイ頂点数を無限にしたところに現実がある同じ場所にいるのにそこにいない曖昧な存在なままあなたのそばにいたカラーフィルターの奥からどこまで伝えられるだろうか奇異の目を潜り抜けて、0と1を乗り越えて今、革命を始めよう
現実と仮想、孤独と群衆、その境目を埋めるだけでなく、革命を謳ったのだ。
そのままライブは「Caramel Pain」「AWAKE」「先駆者」「ザイオン」という4連打。その姿は「Spectra of Nova」で初めて披露したNova衣装の黒バージョンに、頭に宝飾品をつけ、背中に薄っすらとマントを羽織ったものだった。
前回まで着ていた白い上着は首元にフリルがつき、腕の広がったところ袖口をキュッと締めたドレッシーさがあったが、本日の黒い上着は、右手側が手首にも満たない短めの丈で袖口をキュっとしめており、左手側も同じく短めの丈で外側にフレアになって広がっているという形だ。
くわえてストンと真下に落ちるような太めなシルエットのパンツを履き、腰からは左に向かってウエストベルトがなびき、黒いハイヒールをはいている。パンツの尺はよくみるとすこし短めにしつらえてある。
その姿はまるでヒーローや主人公、かつて自身が歌った王子様のようだ
「AWAKE」から4人のダンサーが加わるが、星街の衣装を模していつつ、その出で立ちは黒子役ということもあって正体不明で妖しさ満点。続く「先駆者」のスローかつ力強いリズム、マイクをトラメガへと変えて歌う姿は自身の声を民衆に訴えるかのようで、そこに加わる会場中からの大合唱はまるで凱旋を祝い、勇ましさすら感じさせてくれる。
終わるとすぐにバンドアンサンブルのインプロビゼーションが入り、赤い照明によって緊迫感ある演奏が引き立てられるなかで、「ザイオン」へと移っていった。このなかで、星街すいせいは大きな旗を持ちながら歌い、ステージのなかにバチっと立ててみせるというパフォーマンスを見せつける。
星町の力強いボーカルとバンド隊&ブラス隊8人による厚みのある演奏も混ざり合い、この日いちばんのパワフルさを感じさせてくれる。加えて両脇で踊るダンサーは、ファーストソロライブや「Shout in Crisis」といったソロライブで星街が着ていたライブ衣装を着ており、過去から現在にかけてのライブ衣装がステージにズラリと並ぶ形となった。それもパッと明るい演出ではなく、暗い照明と演出によってシリアスなムードの中でのことだ。
ご存じの方は多いだろうが、「ザイオン」とは聖書のなかに登場するエルサレムのシオン山を指す言葉であり、ダビデ王やソロモン王が神殿を築いた場所として、「聖なる山」としてユダヤ人の信仰・生活にとってなくてはならない場所となった。
もちろん「ザイオン」はそれだけの意味にはとどまらない。上記の意味合いがより広まり、「神々が暮らした桃源郷のように素晴らしいところ」として聖地・聖域・安息の地・理想郷・約束の地といった意味合いが広まることになる。ちなみに、中東から遠く離れたジャマイカで生まれた音楽・レゲエの中で、ザイオンとは「差別や奴隷のような支配を受けない国」という意味合いで使われることもある。
「先駆者」として進んだ星街すいせいが、「ザイオン」を目指していき、旗を立ててついに”征服”する………いまイスラエルで起こっている出来事を想像すればかなり怪しい表現ではあるが、まったくそのような意図はないのはひと目で分かる。
そう考えると、星町の衣装がスタイリッシュでありつつ、どことなくペルシャや中東のようなエスニックさをふんわりと感じさせていたのも、くわえて王子様のような出で立ちに整えられていたのも納得だ。
VTuberシーン初期から活動を開始し、1人のシンガーとしてメキメキと頭角を現して、数年の時を経て「約束の地(=武道館)」へと至った。そんな自身のストーリーを楽曲・ムービーも含めて表現したといえる。
ついに歌われた「comet」
「繭と心」でアグレッシブな演奏と力強い歌声を披露したあとに、再びムービ映像が流れ始める。過去の配信やライブ映像を取りまとめたもので、右から左に向かって衣装を変えつつ歩いていく星街を捉え、年月の長さを強く観客に意識させる。
そんなムービーを終えてからの最初の1曲目は、なんとキャリア初期にリリースされた楽曲「comet」。それもここで登場した星街は、自身が手掛けた最初期の衣装を着て歌い始めた。
かつてリリースした楽曲のTaku Inoueヴァージョンのリミックスをバンド編成でパフォーマンスしている中で、普段は安定感抜群であるはずの星街の歌声が急にメロディーを外しはじめる。涙を堪えられず、泣きながら歌っているのだ。
続く楽曲は、彼女の知名度をグッと広めたであろう「Stellar Stellar」。イントロでの激しくシンバルを打ち鳴らすドラミングに、ブラス隊がホーンサウンドを当ててブレイクする瞬間、衣装がよりゴージャスな装いに。
音数やアンサンブルがスッと落ち着き、ふたたび音を集めてラウドになっていくドラマティックな曲展開、間を置いたドラミングもあいまって、伸びやかに歌っていく星街のボーカルがバチっと炸裂する。
ハンドクラップが鳴り止まないなかでバンドメンバーを紹介し、そのまま披露したのは「NEXT COLOR PLANET」だ。ウォーキングベースが途中で挟まったり、ブラス隊のホーンサウンドが加わるライブアレンジで、原曲よりも華やかかつファンキーなニュアンスが会場の奥まで響いていく。「ハイハイ!」と声が上げて盛り上がる会場、ボルテージがガッツリと上がっていくのも納得だ。
MCに入ると、涙を流し、声にもはっきり感情が滲む中でいくつもの言葉を発した。「デビューして以来、約7年かけて夢が叶う」「そのためにピッタリな衣装をご用意しました」。前半で最新アルバムを中心にして選曲した中で、「約束の地」へたどり着いた彼女が次に歌ったのが、自身にとって過去の名曲だった。
「古川本舗さんに新曲を作ってもらいました」とともに、この日本編ラストとなる楽曲「Orbital Period」を初披露した。
「喉や鼻の調子が悪く、期待に答えられないときが続いていた」「歌うことを辞めたくなったけど、みんな悲しくなるしそんな顔は見たくなかった……そんな気持ちのままズルズルと日々を続けてきた」「今回のツアー公演(特にさいたまスーパーアリーナ公演)を通して歌うのが楽しく感じられた」
自身の葛藤と胸中を明かしてうえで歌ったこの曲は、自分を奮い立たせ、聴くものを勇気づける歌であり、この日この瞬間のために作られた星街すいせい万感の想いを込めた1曲でもあった。ドラムと鍵盤が静かに伴奏するなか、ストリングスの音色がすっと混じっていくスローナンバー。力のあるドラミングに引っ張られるようにして、涙ながらにこう歌う。
水星が流れていくのが見えたら、この景色を思い出してそれは君の声で、キミの拍手で、飾られた美しい昨日!(中略)嗚呼、僕は、この景色をただ、信じてよかった
自身のやってきたことを振り返り、プライドを持って歌い切る。今の彼女だからこそ歌える強かな歌で本編最後を飾ったのだった。
アンコールはまさかの全体曲「キラメキライダー☆」
アンコールの声が会場中から溢れてくる。ムービーが流れ始めると、ホロライブの同輩・後輩たちからのコメントがいくつも流れはじめる。FLOW GLOW、ReGLOSSなどの最近デビューしたメンバーから、AZKiとさくらみこという彼女と長く関係を築いていた面々のコメントが流れ、観客らはこれまた歓声で返す。
そんな中で歌いはじめたのが「キラメキライダー☆」。これには非常に驚かされた。
ホロライブのメンバーによるソロライブをいくつかみてきた筆者だが、こういったソロライブのなかでホロライブの他メンバーと共に歌う、いわゆる全体曲と言われる曲を歌うことはほとんどない。
歌ってはいけない、というルールがないわけはないだろう。問題はそういった全体曲が背負い、発しているテーマにある。ホロライブ全体としてのメッセージやベクトルを示している全体曲を、タレント1人・個人で歌うにしてはあまりに重すぎる、といえばいいだろうか。
もっとシンプルに「可愛い・かっこいい・ポップだから!」という理由で歌っていいだろうが、せっかくこれまで歌ってきたソロ曲を退けて、あえてホロライブ全歌唱の楽曲を歌うというのは、相応の理由がないといけない。
「自分のこと、過去のことを振り返った時、どうしてもホロライブやホロメンのことは外せなかった」と星街は振りかえるようにMCしてくれた。
さて序盤にも書いたように、この日の会場は日本武道館である。「武道の心とは何か?」などと大げさなことは書くつもりはないが、武道だけでなくスポーツ全体にいえる真理がある。
武道やスポーツは相手がいなくては成立することができない。対戦相手や競争相手(ライバル)との戦いで勝敗を決めて喜びを得るだけではなく、切磋琢磨するなかで自分自身の力を鍛え、あるいは己がどういった存在か?特徴とは何か?までをも見据えていく。
今以上を求めて向上を求めていく求道のごとき心、自分を高めるためには「相手」が必要不可欠なのだ。これはスポーツをする・武道を続けていくうえで絶対に通るであろう心構えであり、事実であろう。
自身の活動や過去を振り返った時、星街の脳裏によぎったのはホロライブのメンバーであり、自身を待つファンたちだったのはいうまでもない。仲間へのリスペクトの心を持ちながら「キラメキライダー☆」を歌ったのだろう。
前半には自身の最新モードにて夢と語っていた舞台を征服し、後半には自身の過去を振り返りながら仲間やファンへの感謝を想いながら歌う。それが星街すいせいの「Hoshimachi Suisei 日本武道館 Live “SuperNova”」であり、長きにわたって自身を高め続けた彼女は、泣き顔も嬉しそうな表情もすべて曝け出しながら日本武道館という場にふさわしきライブを披露したように見えた。
覇を成した日本武道館公演を終え、ホロライブという看板を背負って飛び出さんとする星街すいせいの2025年。「キラメキライダー☆」を唄ったあとに、彼女はこんな言葉を語り、次の頂へと向かって道を求めた。
「次の目標は……みんな分かるんじゃない?「と」で始まって「ム」で終わる場所。東京ドームが終わったら……その時はまた考えよう(笑)」
●セットリスト1.ビビデバ2.TRUE GIRL SHOW3.Newton4.綺麗事5.褪せたハナミドリ6.ムーンライト7.ビーナスバグ8.Caramel Pain9.AWAKE10.先駆者11.ザイオン12.繭と心13.comet14.Stellar Stellar15.NEXT COLOR PLANET16.Orbital Period
*アンコール17.キラメキライダー☆18.Bluerose
*ダブルアンコール19.ソワレ
(TEXT by草野虹)
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